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第六十五話 「戦後処理」

 眩い朝の日差しに照らされながら黒煙立ち上る魔王国を見渡す。


 ひどいもんだ。

 南側の市街地は焼け焦げた家々の残骸が立ち並ぶ。

 魔王城と北側の市街地はあまり被害を受けなかったみたいだけど、時計塔が崩れたり、小火が立ち上っていたり、無傷とはいかない。


 俺は広場に転がされている陽織たちに歩み寄る。

 誰も意識がない。

 陽の光に照らされると皆の怪我がどれだけひどいのか見えてくる。


 刺傷、裂傷、打撲に骨折。

 痛ましい。

 見ていられない。

 さっさと再生魔術(リジェネレイト)を掛けて傷を完治させる。


 怪我を治しながらムカムカと腹が立ってくる。

 あいつら、もっとぶん殴っておけば良かった。


 傷が治ると、鮮やかな肌色と艶めかしい肢体が現れる。

 怪我が治ったかな。

 ちゃんと触診して確認しないといけないよね。

 そう、これは医療行為、ノーカウントだ。

 千切れたり切り裂かれたりした衣服のままでは寒いだろうと思うので、ゆっくりと時間を掛けて、彼女たちの着ていた衣服を思い出しつつ修復魔術(リペア)を掛ける。


 まあ、思い出す必要はないんだけどさ。

 修復魔術(リペア)は元の形に戻るように修繕されるからね。


 ライルはいい。

 適当に修復魔術(リペア)を掛けて放置した。

 扱いが酷い?

 男に興味はない、ましてやロボットだしな……。


 全員の治療を堪能した後、召喚魔術(サモン)で運搬用の魔物を召喚する。

 人族と亜人族の言葉がわかるそうなのでユニコーンを使うことにした。

 陽織たちを魔王城に運んで寝かせるように命令する。


 客室用に開放されている部屋があるからそこに寝かせておくのが良いだろう。

 俺の執務室に近い場所を選ぶように指示。

 魔王国の修繕が終わったら立ち寄ることにした。


 ユニコーンたちを見送ってから次の仕事に掛かる。

 俺は地面に手をついて修復魔術(リペア)を発動させる。

 範囲は魔王城を含む市街地全体。

 効果は全修復。

 

 腕を伝って染み渡る魔力が綿毛のように舞い上がる。

 瞬く間に市街地は元の姿を取り戻していく。


 よし、修理はお終い。

 お次は巻き込まれて死んでしまった人々の蘇生だな。

 召喚魔術(サモン)でシェイプシフターを召喚、俺の擬態をさせてから市街地へと散らばせた。


 魔王城と市街地はこれでいいだろう。

 あとは亜人族たちと三つの魔王街は無事だろうか。

 人を動かしたいんだけど皆はいないんだよな……。


「レイキ! 無事ですか!」


 数十名の魔王軍を引き連れてセリアが走ってくる。


 お、なんというジャストタイミング。

 魔王軍参謀(セリア)はやっぱりできる女の子だ。


 俺が片手を上げて応えると、勢いのまま胸に飛び込んできた。

「ちょ、っと、待て! ……ぐほっ……!?」


 腹に響く突進力。

 じゃりりと足が石畳を滑る。


 ……猛牛かよ。

 英雄憑依霊術ヒロイックアクティベーションを発動していなかったら、SGGKスーパーグレートゴールキーパーのようになっていたかもしれない。

 玲樹君ふっとばされた! とはならずに良かった。

 でも、骨にヒビが入っていたら困るので治癒魔術(キュア)を掛けておく。


 俺はコツンとセリアのおでこを小突いた。


「重装備のまま抱きつくなよ。一般人だったら死んでしまうだろ」

「失礼を……、心配だったので、申し訳ありませんでした」


 セリアは恥ずかしそうに姿勢を正す。


 俺はセリアとの情報共有をする時間を取ることにした。

 セリアが連れていた兵士たちに伝令を頼む。

 敵勢力は撃滅して安全になったことを、魔王城、市街地、避難所、魔王街、そして亜人族の村に届けるように命令を下す。

 兵士たちはそれぞれ分隊ごとに分かれて散っていった。


 静かになった広場の片隅に俺たちは腰を下ろす。

 地べたに座ると汚れるので、召喚魔術(サモン)を使う。


 サモン・リビングインテリアを呼び出した。

 ちょっと変わった魔物で、白いテーブルクロスが敷かれた丸テーブルと背もたれのある椅子が四脚セットになった召喚獣である。


「まずは情報交換しよう。別れたあと、どうしてたんだ?」

「魔王城付近にいた魔物を討伐していましたわ。ドラゴロイドやマシンソルジャーはすべて撃退したのですけど、……敵の総大将が見当たらなくて。もう撤退したのかしら……?」

「ああ、一戦やって追い返した。陽織たちがこっぴどくやられてしまったから、治療して、魔王城へ運ばせているよ」


 俺は事の顛末を説明した。


 オメガと話した仮想世界の事は省く。

 説明するのは全員がそろっているところで良いと思うし、それに、……なんとなく話すべきではないような気もする。

 俺の中の方針が固まってから詳細を説明すればいいだろう。


 まずは魔王国の侵略者たちについて。

 機神姫マリルー、褐色肌の女性(カイゼリン・ガイストと言うらしい)、勇者。

 機械人、オメガ・キベルネテスのことを細かに話した。


「……そう、ですか……。また強大な敵が現れましたのね。わたくしたちが敵わないような相手をどんどん倒していく……、レイキはどこまで強くなれるのかしら」

「その場凌ぎが多いけどね」

「機転が利く、ということでしょう? どのような状況でも重要な事ですわ」


 セリアは指を組んだ姿勢のまま上目遣いにこちらを伺う。


「わたくしたちは、……お荷物でしょうか……」

「お荷物なわけないじゃないか。魔王国はセリアたちがいなかったら存在してないよ、心の底から感謝しているし、こんなことに付き合ってもらって悪いなって思っているよ」


 前も石像劇を見ながらセリアには同じことを言った。

 竜王国の立て直しだってあるはずなのに良く手伝ってくれるものだ。


「ですが……、戦いではまったく役に立てておりません。ヴィーンゴルヴでも、魔王国でも、わたくしは……」


 確かにセリアは戦闘面では良いところがない。

 ヴィーンゴルヴではニヴル・ガイストに操られていたし、魔王城ではマリルーに倒されてしまっていた。

 覇王姫の称号持ちでも連敗続きでは自信を失うだろう。

 ふと、思いつきを口にする。


「そんなに気になるなら修行の旅にでも行くか?」

「修、行……? ですか……?」


 セリアは目をパチクリさせる。

 いきなり何を言っているんだと思われているかもしれない。

 でも、強くなりたいのなら修行しかないだろう。


 自分探しの旅である。

 ……現実逃避とも言う。

 ちゃうねん、この場合はれっきとした目的があるから逃げてはいない。


 新しい称号を。

 新しい闘術を。

 新しい魔術を。

 もしくは、新しい力を手に入れるために、新しい異世界と接触するのだ。


「俺もさ、勝てたには勝てたんだけど……、もっと勉強しろとか言われちゃってね。魔王国も軌道に乗ってきたのなら、一日か二日くらいは空けられるだろ?」


 一日か二日を移動に費やして必要になれば転移魔術(テレポーション)で魔王国へ戻る。

 転移魔術(テレポーション)の性能を試さないといけないけど出来ない旅ではないはずだ。

 エイルやシギンに頼めば転移魔術(テレポーション)の中継点を用意してもらうことも可能かもしれない。

 そうなれば、より長距離の旅が可能となる。


「シェイプシフターに任せながらであれば……多少は、平気ですけど」

「じゃ、決まりだ。今回の件の復興が終わったらしばらく修行の旅にでよう、意外と皆……ノッてくるかもしれないしな」


 今回は皆、完敗だった。

 修行の旅に出ると言うならば行きたいという人もいるだろう。

 シャウナはインドア派だからわからんけど。

 エイルとシギンもわからんな。

 話すだけ話してみるか。


「ふふ、わかりました……、では、そのように致しましょう。……契りを結んだ夫婦は絆を深めるべく旅をする、そんな風習がある国もございますからね……」


 横でぼそぼそとセリアが何かを言っていたが、よく聞き取れない。


「何か言ったか?」

「いいえ、何も。楽しみにしておりますわ」


 セリアは眩しい笑顔を見せる。


 そうと決まれば、ちゃっちゃと復興を終わらせないとな。

 俺は珍しくやる気に満ちて、仕事に掛かるのであった。

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