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第五十七話 「反乱の烽火」

本章は敵の視点で書かれています。

---???の視点



 魔獣の平原の中程。

 ほんのりと明かりに照らされた魔王城が良く見える。


「今日は良い夜だねえ……」

 全身を金属で造られた骸骨の男は赤光を放つ眼窩を天に向ける。


 空には白い満月が浮かんでいる。

 魔獣の平原には月光に照らされて咲く花がある。

 咲き乱れる紫の花から薄桃色の光がふわふわと飛んでいく。


 あれは種。

 種に風の魔術を乗せて遠くへ飛ばそうとしているのだ。

 満月と花と光。

 なんとも目を奪われる異世界の光景ではないか。


「キミもそうは思わないかい、カイゼリン」


 骸骨の男の後ろに控えるのは、漆黒の鎧を着た褐色肌の女性。

 腰には日本刀。

 さらに、背中にはシステマチックな見た目の大砲を背負っていた。


 白い紅をつけた口元から冷たい声音が発せられる。

「否定。光源が多いため夜戦行動に支障がでると判断。……以下、忠告。良いの判断が曖昧です。一元化された回答を得られる言葉に置き換えるべきだと進言します」


「……ニヴル・ガイストの君には風流ってものはまだレベルが高かったかな」

「作戦開始時間の超過を警告。……以下、質問。戦わないのですか?」


「いやぁ、はじめるとも! 魔王国の実力を見せてもらおうじゃないか」


 骸骨の男と褐色肌の女性の周囲からバチバチと稲妻が迸る。

 空気から滲み出るように機械仕掛けの魔物たちが姿を現した。


 全高十メートルの二足歩行ドラゴン。


 ミシュリーヌで捕獲した、竜人(ドラゴニュート)の魔素配列を組み替えた突然変異体。

 その突然変異体を機械化(サイバネティック)した戦闘生命体だ。

 骸骨の男は、ドラゴロイドと命名している。


 さらに、驚くべきは装備だ。

 ドラゴン族特有の強靭な鱗をより強固にする合金装甲(アマルガンプレート)

 背中に装着された二門の超電磁砲(レールガン)と二門の弾頭発射装置(ミサイルランチャー)

 尾に施された超振動突撃剣(グラインドブレード)

 両掌には防御用のバリア発生装置(エネルギーシールド)が埋め込まれている。


 合計五○○機のドラゴロイドが魔獣の平原に姿を現した。


 ドラゴロイドに続くように背中の大砲を組み立て始めた褐色肌の女性。

 骸骨の男は彼女の肩をポンポンと叩く。


「カイゼリン、君は待機だからね?」

「以下、愚痴。……不服です。敵勢力を侮るべきではないと忠告します」


 灰色の瞳には残念そうな光が灯っている。


「もちろん自衛活動くらいはするよ?」

「以下、判断。……自衛の必要ありと判断される生命体と遭遇した場合は専守攻撃を行います」

「君は好戦的だね、僕はそんな娘に育てた覚えはないよ。悲しいなぁ」


 骸骨の男は大仰に目元を押さえて天を仰ぐ。

 が、褐色肌の女性はどこ吹く風と言わんばかりである。


「生命体と遭遇まで待機」


 褐色肌の女性は骸骨の男の後ろに控える。

 無駄話に応じる気はないと言わんばかりに口を閉じてしまう。


「やれやれ……致し方なし。さぁ、全機、攻撃開始といこうか」


 ドラゴロイドが動き出す。

 彼らのうちの一機が超電磁砲を構える。


 真っ白な雷光が砲身をまとわりつく。

 最大まで貯め込んだエネルギーが閃光と轟音と共に発射された。



---貴族の男、ロドルフ・サーペンテインの視点



 白い稲妻が魔王国の市街地に突き刺さった。

 狙われたのは時計塔だ。


 立て続けに弧を描く赤い軌跡が市街地に降り注ぐ。 

 たちまち市街地の南方面は火の海と化した。


 ロドルフは燃え上がる市街地を見て悦びに打ち震えた。


 はじまった。

 ついにはじまったのだ。

 骸骨の男が言っていた通りの時間に魔王国への侵攻がはじまった。


 魔王城の一室。

 貴族たちが会議をするために解放されている大部屋には完全武装の兵士たちが詰めていた。

 ロドルフが自由に動かせる私兵だ。


 ロドルフは兵士たちに命じる。

「我らも続くぞ。魔王城へ進撃し、大魔王を殺すのだ……!」

「し、しかし、伯爵様……大魔王は恐るべき力を持つ存在。側近たちが魔王国の対処に追われているとはいえ、少数の兵で倒せるものでしょうか……」


 不安を口にする兵士長に舌打ちしそうになる。

 わからないでもない。

 あれだけの力を見せつけられれば誰でも不安に駆られる。


 だが、ロドルフには秘策がある。

 秘策を知っているからこそ不安も吹き飛ばすように兵士たちに語り掛ける。


「案ずるな。そのための帝王姫だ。一度死んでいるが彼の者たちによって強化を施されている。私も確認しているが、その戦闘力はドラゴンの群れを相手にしても瞬殺。大魔王とは言え恐れることはない」


「おお……、さすが、伯爵様」

「うむ。急ぐぞ、騒ぎが広がれば大魔王も動き出すに違いない。それまでに仕留める」


 こうして二○○名の兵士。

 加えて、平服のロドルフと完全武装の帝国姫。

 暗殺者の集団はひたひたと大魔王の寝室へと進軍を始めた。


 すれ違う巡回の兵士を倒し、運悪く鉢合わせたメイドを黙らせて、反乱軍は歩を進める。

 そして。

 大魔王の寝室まであと一息と言ったところで、誰何の声が掛けられた。


「……どこへいくつもりかしら」


 ぎくりと立ち止まる。


 照明の落ちた大広間。

 月明かりの差す大理石とモザイク床の空間に人気はない。


 いや、そうでもない。


 大広間の暗闇に黄金色の光が浮き上がる。

 槍の形の光だ。


 カシャ、カシャ、と具足を鳴らして歩み出てきたのは、セリアだ。

 政務を為すときの宮廷服ではなく、兜に甲冑に手甲に具足と完全武装である。

 手には愛用の長槍を持ち殺気を漲らせている。


 ロドルフは胸を撫で下ろす。

 複数の王姫ならばともかく一対一ならば強化されている帝王姫のほうが上だ。

 加えて雑兵とは言え二○○名もの兵士もいる。


 ロドルフは反乱後の政治についても考えていた。

 大魔王の側近たちは優秀だ。

 できることならば懐柔しておきたい。


 無駄かもしれないがと思いつつ説得をしてみることにした。

「覇王姫、一人ならば恐れるに足らず。死にたくなければ道を開けるのだ! 道を開けて大魔王の元へ案内するのであれば、命は獲らず、帝国を再興した暁には相応の地位につけてやるぞ」


 セリアは首を横に振った。

 白金の髪が月明かりに揺れる。

「お断りします。わたくしを侍らせるに足ると認めた者は、ただ一人だけです」

「……残念だな、では死んでもらおう」


 ロドルフは骸骨の男にもらっていた小箱のスイッチを押した。

 すると、連れてきた兵士たちが一斉に悲鳴を上げた。

 ミシミシと体を割る異音と共に兵士たちが異形へと変じていく。


 骸骨の男はロドルフに兵士を預けていったのだ。

 普段は魔王城の兵士や私兵として生きている者たちだが、魔術の施された小箱を操作することによって機械仕掛けの魔物として動き出す秘術。


 元々は帝国兵士として戦って果てた者たちを回収してきて改造した魔物だ。

 骸骨の男は、マシンソルジャーと言っていたか。


 恐ろしいのは改造された者たちは、己が機械の体であることを知らぬことだ。

 尋問では敵かどうかわからない。

 探知魔術(サーチ)にも掛からないとくれば最強の隠密だ。


 さらにさらに。

 マシンソルジャーの一匹一匹は王姫に及ばずとも劣らない性能を持つと言う。

 それが二○○。

 覇王姫と言えど勝ち目はない。


「掛かれ、ひき肉にして大魔王にぶちまけてやれ!」


 ロドルフの命令を受けて、マシンソルジャーたちがセリアに殺到する。

 セリアは闘気を満たした槍を構える。


「侮り過ぎですね。魅せてあげましょう、覇王姫とはこういうものですわ」


 セリアは正面から飛び掛かってきたマシンソルジャーたちを一突き。

 機械の体を貫いた槍を一瞬で引き戻す。

 宙から躍りかかる無数のマシンソルジャーを薙ぎ払う。


 追撃とばかりに闘気投槍闘術(ブリューナク)を乱れ討つ。

 圧倒言う間に五○機近くのマシンソルジャーを片付けてしまった。

 戦場が止まる。

 マシンソルジャーたちは突撃の姿勢のまま攻めあぐねている。


「なん……、馬鹿な。王姫の実験体で戦闘訓練をしたと聞いているのに……デマカセか!」

「断じるのは早いのではありません? 覇王姫はただの王姫の称号よりも強い能力を秘める称号。王姫に勝てても覇王姫に勝てないのはおかしいことではありませんよ」


 ロドルフは知らずに額を拭う。

 掌がじっとりと汗ばんでいた。


 王姫の称号にはランクがあるのは知っている。

 だが、そんなに違うものなのかと考える。


 獣人族の王姫であれば、獣王姫であるとか。

 精霊と心を通わせるエルフであれば、霊王姫であるとか。

 一般的な王姫の称号は属性や種族の王姫となる。


 偉業を成し遂げた王姫の場合は別の称号を授かる。

 戦場を駆け巡り数多の支配を広げたならば、覇王姫となる。

 慈悲もなく無数の敵も味方を殺戮したものならば、冥王姫となる。


 さらなる昇華を遂げて神の業を使うほどの王姫の場合は、神姫と称号が改められる。


 ロドルフの思考は中断させられた。

 目の前で最後のマシンソルジャーが破壊されたからだ。


「さあ、観念すると良いですわ」

 セリアは槍を引き抜きながら言い放つ。


「く、くはは、ははは……、いいだろう。帝王姫ならば、覇王姫と互角の称号持ち。マシンソルジャーのようにはいかんぞ」


 ロドルフは侍らせていた帝王姫に命ずる。

「敵を倒せ、帝王姫よ!」


 帝王姫は腰の剣を抜き放つ。

 肉厚の鉄板のようなブロードソードの二刀流だ。


 帝王姫の瞳が瞬く。

「システム、オフェンスモードで起動する。……機神姫、マリルー・サン・エクセルシア、参る」


 床を砕くほどの蹴り足。

 残像を残し、空気の壁を貫いて、帝王姫はセリアへと斬りかかった。

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