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第五十六話 「メンズ・オブ・ラウンド」

 縁談だの婚姻だのと騒がしい魔王城。

 アウローラからの追及を逃れつつ、俺はもう一つの騒がしい問題について対策していた。


 機械仕掛けの魔物の件だ。


 エイルとシギンの解析の結果、敵の技術力は未知数。

 仮想世界のシステムへのハッキングを警戒するレベルなのは確実である、と報告を受けた。

 当初ヴィーンゴルヴを襲撃していた戦闘機も同じ文明で造られた兵器だとわかっている。


 次なる調査は敵の目的だ。

 敵が魔王国を攻める理由は何か。

 ミシュリーヌの難民たちに聞き取り調査をはじめてみた。


 難民曰く。

 ミシュリーヌの魔物を捕まえて運んでいた。

 街にあるあらゆる品物を奪っていった。

 巨人を吐き出す巨大な化け物が空を飛んでいた。


 敵の行動はフェミニュートとよく似ていて、異世界を研究しているように見える。

 魔物を捕まえたり品物を奪うのは調査のためだろう。


 ヴィーンゴルヴを襲撃していたのも調査・研究が目的なのかな。

 ここ最近になって機械仕掛けの魔物が侵入してくるようになったのは、戦闘機では攻めきれないと理解したからだろう。

 ヴィーンゴルヴが攻撃されるならば魔王国も危ない。

 また、機械仕掛けの魔物を退けているので敵の兵器はより強力になっていくだろう。


 大魔王の力を持ってしても視界にあるすべての人を守り切れるかはわからない。

 アウローラたちの力を合わせても守り切れないかもしれない。

 さらに防衛の協力者が必要だった。


 そこで陽織とシャウナに渡りをつけてもらい、セリアにスケジュール調整をお願いして、ある男たちを呼び寄せた。

 魔王城の円卓には六人の男たちが集っていた。


 エルフの王、エヴァリスト・エア・コーラル。

 ダークエルフの王、イグナーツ・ヘル・コランダム。


 冒険者ギルドマスター、レオン・ブリルヴィッツ。

 商人ギルドマスター、ガス・オーデュポン。


 ティターン遊撃部隊隊長、ライル。

 そして俺だ。


 皆が揃ったところで話を切り出す。

「魔王国に脅威が迫っている。エルフの王とダークエルフの王はすでに知っているな」


 エヴァリストが答える。

「……ハッ、機械仕掛けの魔物の話でございますな」


「大魔王閣下に頂いた守護獣がいなけりゃ、こちらは全滅かもしれないぜ。ここ毎日のように現れやがる……」


 苦々しく呟くイグナーツに、レオンとガスが険しい顔で頷く。


「冒険者からも報告が上がっている。高レベルの冒険者パーティが複数いなければとても太刀打ちできないほどの強さで、正直、出遭いたくない相手だ」

「始の魔王街と魔王国を移動する商隊も襲われておるのぅ……」


 機械仕掛けの魔物は魔王国の各所に現れるようになっていた。

 エイルには魔法陣を強化してもらい地下まですっぽりと魔力障壁魔術(プロテクション)で防護してもらったにも関わらずだ。


「レーキ、敵の拠点はあきらかでないのか?」

「シギンに調査をお願いしている。報告待ちだ。……時間はかかりそうだけどな」


 機械仕掛けの魔物は探知魔術(サーチ)に引っかからない。

 内部機構に、ニヴル・ガイストを利用した魔力阻害装置を積んでいるからだ。


 戦闘機動している場合は魔力阻害装置がオフになるのか、探知魔術(サーチ)に引っかかるけど目の前に接近されてから探知できても意味がない。

 敵がどこからやってくるのかわからない状態だ。


「魔王国の防衛体制を一部、変更する。まず……」


 俺は魔王国の地図を広げた。

 ライル以外の面子は地図を目の前に驚きの顔を見せた。


 ふ、驚いてくれたかな。

 君たちの世界(ミシュリーヌ)の魔術を使って描いた地図だけど、この世界で見させてもらった宝の地図みたいな地図とは一線を画す精細さだ。

 この地図は魔獣の平原の全体と魔王国を表記している。


 俺は街道の先端部分を指差した。

「ヴィーンゴルヴのティターン部隊を一○○○○機。これを始、中、奥の魔王街に配備する。戦闘になったら市民の安全を最優先に行動しろ」

「了解だ。ヴィーンゴルヴのグナ大統領からの許可ももらっているので、すでに配置を開始している」


 続けて説明しながら、指先で街道をなぞる。

「次に、魔王軍を街道の護衛に巡回させる。一日の決まった時間のみ護衛部隊が街から街へ移動するので、商隊は護衛部隊に同道する場合のみ、街から街への移動を許可する」


「ふむ、護衛を雇う手間はなくなるが自由な行き来は制限されるというわけじゃのう」

「護衛部隊には亜人族の王姫を配備する。気に食わないならば好きにしろ」


 ガスはあごひげを撫で付けながら笑う。

 揉み手せんばかりの笑顔である。


「護衛費用が浮いて安全まで保証してもらえるんじゃ。これで断る商人がいないじゃろう。商人ギルドから告知させていただきますぞ。ついでに街を移動する定期馬車や旅人も護衛してもらえんかの?」

「構わんよ。街から街へ移動するすべての人々を守るのが護衛部隊とする予定だ」

「ほっほっほっ、承知しましたぞ」


「……そうなると、我々の仕事がなくなってしまうな。成果を出し切れていないのは冒険者ギルドの怠慢かもしれんが……」


 レオンだ。

 おっさんがそんな寂しそうな声出すなよ。

 ちゃんと考えていますとも。


「冒険者には別の役目がある」

「……聞かせていただこう」


 俺は魔王国の市街地を指し示す。

「市街地に戦闘が及んだ場合の避難誘導を頼みたい」

「魔王城が直接攻撃にさらされる危険があると?」

「常に最悪を想定するものだろう?」


 機械仕掛けの魔物が魔力障壁魔術(プロテクション)の魔法陣を抜けてくるならば、最終目的地は魔王城であってもおかしくない。

 いまは様子見なのか魔王城への直接攻撃はないけど時間の問題だよな。


「避難誘導の件、承知した。避難先はどこを考えておられるのか教えていただきたい」

「ヴィーンゴルヴの真下だ」


 俺は一○万人を収容できる地下シェルターを建設しておいた。

 誘導された市民は一時的に避難することができる。


「では、明日にでも地下シェルターの確認に窺うとします」

「よろしく頼む、……以上だな」


「お待ちを、大魔王様」


 会議を解散しようとする。

 が、レオンが手を上げて制する。

 商人ギルドマスターへも気を配り、頷き合っている。


 なんだろう。

 この場で下剋上とかやめてくれよな。

 殿中でござる。


「お耳に入れておきたいことがあります」

「言ってみろ」


「魔王国にいる伯爵、ロドルフ・サーペンテインをご存知ですかな」

「知らん」


 マジで知らん。

 仕事に関わってくる人の名前くらいは覚えられるようになってきた。

 けど、無数にいる貴族の名前を上げられてもサッパリだ。


「元々は帝国の貴族です。大魔王様のご恩情により貴族の位を与えられておりますが、危険な男です。ご注意ください」

「俺に危害を与えられる者がいるとは思えないがな。具体的に話してはもらえないのか? 大魔王の手腕を問われているのかな?」


「不確定ですが、国家転覆を計画している疑いがあります……」


 クーデターか。

 きさまら反乱軍だな、と捕まえるのは簡単だけど間違っていたら嫌だしな。

 まずは調査かな。

 むしろ、アウローラとセリアは知っているのかな。

 まずは報告と確認をしてみよう。


「調査しよう。報告、ご苦労だったな」


 今度こそ解散。

 皆が出ていくと執務室は静かになった。


 反乱を計画されていると聞くとすこしばかりショックだ。

 俺は難民たちを不自由にさせないように頑張ってきたけど、満足していない人もいるってことだ。

 ロドルフなる貴族が何を望んでいるのかを知って今後に役立てたいと思う。


 まずは情報共有だ。

 念話魔術(テレパシー)でアウローラから連絡することにした。


 ロドルフなる男についてアウローラはすでに何らかの情報を知っていたらしく、すでにエイルに調査をお願いしているとの返答だった。


 それならいいか。

 ロドルフとやらを説得する方法を考えておこう。


 俺はロドルフの調査が終わったら教えてくれ、と伝えて念話魔術(テレパシー)を切った。

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