第四十七話 「忍びよる脅威」
第四十六話の続きです
本章は貴族の男の視点で書かれています。
冒険者・商人ギルドマスターの討伐計画の離脱。
その宣言はとある貴族に届けられた。
届けられた書簡を読み終えるなり、男は拳をテーブルに叩きつけた。
「馬鹿な……! おのれ、臆病風に吹かれおって……!」
男の名は、ロドルフ・サーペンテイン。
かつて竜王国、冥王国、とミシュリーヌの覇権を争っていた第三の国。
帝国と呼ばれた国で、思うがままに権力を操っていた貴族である。
届けられた書簡を破り捨てる。
怒り収まらず喚き散らした。
「おのれ……、帝王姫が弱すぎるから、私がこのような目に、……役立たずめ!」
余談であるが。
帝国にはセリアやアウローラのような王姫の称号をもつ者がいた。
帝王姫が獅子奮迅の活躍を見せたからこそ、彼を含む難民たちが逃げることができたと言える。
そして帝王姫は弱くない。
実力的にはセリアと変わらないくらいだ。
相手が悪かった、それだけの話だ。
ロドルフの後ろから男の声が聞こえてきた。
「ずいぶんと荒れているね。屋敷の人が驚いてしまうじゃあないか」
「貴様か……」
荒い呼吸を落ち着かせる。
振り返ると、そこには全身を金属で作られた骸骨が立っていた。
体を隠すためかコートを頭から被っている。
見るものが見れば、死霊か不死者の王かと騒ぎだすかのような出で立ちだ。
この骸骨はロドルフが大魔王討伐を計画し始めた頃から接触してきた者だ。
得体の知れない男だがいまは協力者が一人でも欲しい。
大魔王を倒すためには綺麗事は抜きにして事に当たらなくてはならない。
「なにか問題でも起きたかな?」
骸骨の瞳が怪しく光る。
「大魔王討伐の協力者が裏切った。戦える者を調達しなくてはならん……」
「大変だねえ、……そうだ。困っている貴方にコイツをあげよう」
骸骨は床に円盤状の板を転がした。
「何だ、これは……?」
「まぁ、見ていなよ」
骸骨が円盤に手をかざす。
たちまち青い稲妻が迸り、円盤から膨れ上がるように放電現象が生じる。
現れた人物にロドルフは驚愕する。
銀の髪に褐色の肌。
細く起伏の少ない少女の体。
帝国のため命を賭して戦った戦士、帝王姫、マリルー・サン・エクセルシアの姿がそこにあった。
しかし、ロドルフの記憶にあるマリルーの姿とは一変している。
利発そうな瞳には感情の色はなく呼吸もしていない。
魔力や闘気も感じない。
思い切って手足に触れてみると金属のように冷たい。
関節部分には人形のような切れ目が見えていた。
まるで魔法人形のようだ。
「こ、これは……、帝王姫!? 死んだはずでは」
「なかなか強い生命体だったので遺体を回収して改造したのだよ。普段は侍女として使っておけばいい」
骸骨がマリルーに魔術と掛ける。
たちまちメイド服姿となった帝王姫の姿が現れる。
「なるぼど、な。この見た目ならば一目ではわかるまい」
帝王姫はまだ若く戦場に出た経験が浅い。
冥王姫や覇王姫とは出逢ったこともないはずなので面識はないはずだ。
城内は新たに召し抱えられるメイドたちで溢れている。
一人や二人傍付きメイドが増えたところで気にも留めないだろう。
「我々は準備が整い次第この都市を攻撃する。騒ぎに乗じて大魔王を討ち取ればいいさ」
「また来るよ」
骸骨は必要なことは伝えたとばかりに背を向ける。
そのまま空気に霞むように消えていった。
残されたのはロドルフと無言のまま佇む侍女だけ。
「く、くはは……いいぞ、帝王姫がいれば帝国再興の大義名聞もたつ。見ていろよ、大魔王。この国は私が頂いてやる……!」
ロドルフは己の野望のため静かに時を待つ。
魔王国の掌握。
そして、大魔王討伐を実現すべく静かに牙を研ぎ始めた。