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第四十二話 「良きに計らえ」

 エルフ族とダークエルフ族と人族を助けてから一週間が過ぎた。


 俺はあの日からお城の一室に軟禁されている。

 来る日も来る日も判子を押す日々を過ごしていた。


 労働環境はこんな感じ。

 給与なし。

 メイドさんが運んでくれる食事あり。

 実労働時間十二時間。

 土日休日なし。

 逃げると、覇王姫と戦神姫が般若となって地の果てまで追ってくる。


 俺はブラック魔王に就職したけどもうだめかもしれない。

 あーだこーだ言っても目の前の仕事は消えないので頑張るしかない。


 うず高く積まれた特殊な魔法用紙にペッタンペッタンひたすら押しまくる。

 ちなみに判子には「大魔王の命により承認す」と刻まれている。

 要するに俺が今格闘しているのはすべて決済書類である。

 しかしながら一介の高校生に過ぎない俺が国の統治や決済の判断ができるわけがない。

 すべての書類はアウローラとセリアによって吟味され、判子を押すだけになったものが俺の元へ送られてくる。


 一枚読んでみるか。

 判子を押す前に決済内容を確認する。


 なになに……、資材不足のため以下の原材料をアーシル人の協力のもと国営事業として販売する許可を求める、とある。

 販売資材は、材木、鉄鉱石を含む鋼材、糸や麻などの布類、あとは食材だ。

 許可は認める。

 ただし、資材は販売せず、アーシル人に協力してもらい国営の伐採地と採掘地を用意して採取に応じた利用料を設定すること。

 また、食材は今年度の食料生産率を考えて不必要ならば一年目だけの対応にすること、と但し書きがある。

 決済申請者は、国営事業総括の陽織と補佐のシギンだ。


 マジかよ。

 いったい誰が任命したんだ。

 ……俺か。

 初日に判子を押しまくっていた書類の中にあったかもしれない。


 次の一枚を読んでみる。


 ええっと、……エルフ族に兵士として志願している者がいるため、魔王軍として編成すること、寝泊まりする宿舎を宛がうこと、階級を与えること、装備品を支給すること、とある。

 この書類を書いているのは、なんと、シャウナである。

 亜人族外務卿などと凄そうな役職がついている。


 マジかよ。

 魔王軍の編成って誰が指揮するんだよ。

 魔王は三人もいるんだぞ。

 ……下のほうに、魔王軍総大将はナガレ・レイキとする、と記載がある。

 魔王軍総司令官アウローラ、魔王軍参謀セリア、の連名の承認印が押されている。


 俺は魔王軍総大将らしいよ、良いのかよ、普通の高校生に何をやらせるんだって言う話。


 駄目だ。

 目を通していると全然進まない。

 ペッタンペッタンと作業を再開する。


 無心に判子を押していると、執務室の扉が開かれる。

 入ってきたのはエイルだ。

 手には大量の決済書類(おかわり)を抱えていた。


「まだあるのか……」

「お疲れ様、ご主人様(マスター)。お仕事だけでなく差し入れもあるよ」

 エイルは決済書類を積み上げると、もう片手に隠していた皿を机に置く。


 カステラのようなスポンジケーキに生クリームでコーティングされている。

 天辺には赤いベリーに似た果物が添えられている。

 どうみてもショートケーキである。


「ケーキ、か? ミシュリーヌに生クリームなんてあるんだな」

「違うよ、陽織君が製作したんだ。他にも砂糖の精製方法とかチョコレートの作製方法を独占して、大儲けしているよ」


 なにやってるんだ、あいつは……。

 料理は得意だったからわかるけど、国営の料理店でも始めるつもりなのだろうか。

 ていうか、サトウキビとかカカオとかどこから持ってきた。

 ミシュリーヌでも取引があるのだろうか。


「セリア君が困っていたよ。この魔王城はお金はかかるけど収入はない状態みたいだから、早急にお金が欲しいんだって」

「陽織とシギンが事業をやっているのはそういうわけか。……エイルも何かやっているんだっけ?」

「ボクは政治に関係ない宮廷女官長さ。どう、似合うかな?」

 エイルは丈の長いメイド服スカートを摘まんでくるんと回ってみせる。

 黒のスカートが風にふんわりと膨らむ。


 淵ヶ峰(ふちがみね)高校で来ていたキャピキャピのミニスカメイド服も悪くない。

 だが、淑やかで落ち着きのある丈の長いスカートのメイド服も良い。

 非常に良いのである。


「いいね、良く似合っているよ」

「ありがとう、ご主人様(マスター)


 エイルがお辞儀をする。

 カツンとスカートの裾から大型ナイフが転がり落ちた。

 俺との戦で使っていた超振動ナイフである。

 宮廷女官長にはあきらかに必要ない装備だ。


「おい、……なんでそんなもん持ってるんだ!?」

「おっと、ごめんよ」


 エイルはスカートをたくしあげる。

 真っ白な素足が露になる。

 そして、ナイフを砂のように分解して足の機械に取り込んだ。


「ボクは兼任で城内の監視と警備をやっているんだ」

「そんな武器が必要なくらい物騒なのかよ」


 エイルは笑いながら否定する。

「ボクらをどうこうできる話はないよ。いまセリアとアウローラが国の運営をやってくれているけど、官僚たちは難民の中にいた貴族や知識人から採用している。水面下での争いが多いから、問題になりそうな動きは予め潰しておくのさ」

「な、なるほど……」


 俺が判子を押すだけであらゆることが進んでいく。しかも、いい感じにまとめられて問題を相談されることもない。

 相談されるときは魔王の力を振るうときなんだろうけどよっぽどの事がない限りなさそうだ。


「そうそう、セリア君が呼んでいたよ。相談したいことがあるんだってさ」

「俺が行くのか……、わかった」


 セリアの執務室は官僚が一杯いて嫌なんだよな。

 初回でびびらせ過ぎたせいか距離を取られるし。

 このまえ城内で迷子になったからメイドさんを呼び止めたら泣かれるし。

 魔王だからしょうがない?

 そいつを言っちゃあおしまいよ……。


ご主人様(マスター)はすぐ迷子になるからね。ボクが案内するよ」

「忙しいのに悪いな」

「……最近は絡みがないからアピールしておかないとねえ……」

「何か言ったか?」

「なぁ~んにも言ってないよ~」


 俺はエイルに先導されて執務室を後にした。


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