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第二十七話 「魔王無双」

 魔法陣の術式は環状交通路に記述することにした。

 環状交通路はヴィーンゴルヴの外周をぐるりと囲む高架である。

 俯瞰すると真円を描いているので魔方陣の式を書くのにぴったりなのだ。


「レーキ、全部隊が配置についたよぉ~~~!」

 合図が届いたらしい。

 モ二―が大きく手を振りながら叫ぶ。


「はじめてくれ! 書き終わったら俺が魔力障壁魔術(プロテクション)を流し込む!」

 俺が声を張り上げるのに合わせて、ライルが無線で呼びかける。

「各隊、作戦行動を開始せよ!」

 了解(ラジャー)の応答が次々と伝播していく。


 環状交通路で一斉に細い煙が上がる。

 道路に溶断工具で魔法陣の式を刻み込んでいるのだ。

 作業をしているのはヴィーンゴルヴを守備するティターン防衛部隊。

 その数、十万機。


 ちなみに。

 街を警備している部隊もほぼすべて動員しているので、警備はセリアにお願いしている。

 いまヴィーンゴルヴはセリアの召喚魔法(サモン)で呼び出された竜人(ドラゴニュート)とドラゴン族が闊歩している。


 アーシル人が普通に生活していたとするなら大騒ぎになるだろう。

 でも、アウローラに頼もうとしたら大量の不死者(アンデット)の軍勢を呼び出そうとしていたので、セリアに頼まざるを得なかったのである。

 やんわりと「別の種族を呼び出すことはできませんか」と尋ねてみたら、「わたくしの眷族が何か?」と威圧され、「余の無敵の軍勢に不満でもあるのか?」と凄まれた。

 胃が痛い。

 苦渋の選択である。


 問題はそれだけではない。

 魔法陣の式の作成に尽力してくれているティターン防衛部隊。

 ライルたちの説明でも彼らは半信半疑であった。

 しかし、回復したシギンの説明により態度を軟化させ、一応は協力をしてくれることになった。

 これで成果がでないと俺は袋叩きに遭いそうなので失敗するわけにはいかない。

 胃が軋む。

 プレッシャーである。


「どうだ、アウローラ。魔法陣の式は不備がありそうな箇所があるかな?」

 アウローラは遠視魔術(クレアボヤンス)で全体の出来具合を監視してもらっている。

「見事なものだな。魔術師共に記述させると誰かしらミミズがのたくった様な無様な式を書く者がいるが……、余の部下に欲しい」


 ティターン防衛部隊はお互いの知識を共有しているようで、アウローラの教えた魔法陣の式は等しく頭にインプットされている。

 作業は迅速で精密、完璧である。

 魔法陣を構築するにあたってこれほど適正な人材はいない。


 一時間後、次々と完了報告が上がってくる。

「レーキ、全部隊の記述が終わったそうだ」

「オッケー、いくぞ!」

 魔法陣の式に魔力障壁魔術(プロテクション)を発動させた。

 ぐんと魔力を消耗する。

 魔法陣の式が白く輝くと、環状交通路に水が流れるように光が伝っていく。

 あっという間にヴィーンゴルヴを一周した光が戻ってきた。

 そして、仕上げ。

 魔法陣の式からスーッと透明な膜が天上へ伸びていく。

 膜はシャボン玉のようにヴィーンゴルヴを包み込む。

 透明な膜には金色の文様が浮かび上がり、瞬き、消えていく。

 魔術によって生まれた不思議な輝きがヴィーンゴルヴの街をより幻想的に彩る。

 成功だ。

 ほっと胸を撫で下ろした。


「疲れたか?」

「精神的にね。成功して良かったよ……」

「もっと誇るが良い。これほどの魔法陣、誰も発動させることはできぬ」

 俺一人でやったわけじゃないけどね。

 アウローラの魔法陣の意見があればこそだし、ティターン防衛部隊がいなければ式を書くのに手間どっただろう。

 俺がやったのは魔術を使った事だけだ。


 そこへ、ぶつくさ言いながらエクスが戻ってくる。

「ティターン防衛部隊から感謝の言葉をもらったぜ。今後は、協力を惜しまないだとよ。変わり身の早い奴らだぜ、ったく」

 人の振り見てとはよく言ったものだ。

「お前も人のこと言えないだろ?」

 エクスはいつの間にフラッと消えていた。

 ティターン防衛部隊が協力的でないとわかったあたりからいつのまにか逃走していたのだ。


「おいおい、ひでぇな。俺は防衛の連中に掛け合ってだなぁ……」

「私は防衛部隊を回ってたけど、エクスの姿は見かけなかったけどなぁ、どこに居たのかなぁ、不思議だなぁ、サボりかなぁ~~~?」

「貴様は余暇抜きだ、エクス」

「ひでぇ……」

 無慈悲な宣告に、エクスはガックリと崩れ落ちた。


 さて。

 魔方陣の防衛はティターン部隊に任せてアシール人の治療に移る。

「魔力の余裕があるからアシール人の治療もはじめよう」

「休息はいらんのか?」

「魔力配分を調整すればいけそうだからね」

 俺の魔力残量は四分の三くらい。

 魔力回復を考えるとギリギリの計算だけど、ダメならその時考える。


「レーキさん、そろそろアーシル人の治療をどんな風にするのか教えて欲しいです」

 シギンの瞳がキラキラと輝いている。

 どんな凄い魔法を使うんだろうと期待の眼差しを向けている。

 夢を壊すようでいたたまれるが今回も力業なんだ。

 すまんね。

「大したことはやらないよ。召喚魔術(サモン)で俺と同じことができる奴をたくさん呼び出すんだ」

 皆の頭に疑問符が浮かぶ。


「シェイプシフターを一○○○○、召喚魔術(サモン)してアーシル人を治療させる」


 シェイプシフターを二日に分けて一日五○○○、合計一〇〇〇○、召喚魔術(サモン)する。

 シェイプシフターは擬態能力を持つ。

 俺に擬態してもらって魔術と経験を引き継ぐ。


 こうすれば一○○○○人の(シェイプシフター)がアーシル人を一気に治療できる。

 アーシル人の治療は一日の一人頭で五○人担当。

 ざっくりで五日あれば全員を治療できる計算だ。


「そんなことが可能なのか? レイキの魔力ならば……いや、しかし、馬鹿げている」

「ギリギリだよ、そりゃ。俺は召喚魔術(サモン)でいっぱいいっぱいになるから、アウローラに護衛をお願いしたい」

「お安い御用だが。つくづく規格外だな、貴様は。もはや魔王ではなく、大魔王とでも名乗ったらどうだ」

「大魔王?」

 俺は痛恨の一撃を連打するような凶悪な存在になった覚えはない。


「ミシュリーヌにはかつて魔王を率いる大魔王と言う存在がいたらしい」

「いや……別に……、俺は魔王って称号はあるけどそんなつもりないし。魔王も率いてないし……」

「余とセリアとシャウナは魔王だ」

「率いてないよね!? 先生は先生だし。アウローラもセリアもどっちかと言うと友達だと思ってるんだけど!?」

「友か、良い言葉だ」


 セリアはどうかしらぬが、と前置きしてアウローラは笑う。

「余は強い者が好きだ。お前が大魔王を名乗り、魔王を束ね、余を侍らせるというのであれば、やぶさかでもない」

 アウローラらしからぬ艶やかな笑みだ。

 ズズイと距離を詰めてくる。

「ええっと……」

 後ろに下がりたいのだが、アウローラの視線が許さない。

 返答は如何に。

 目が問い詰めてくる。


 勿論回答は決まっている。

「大魔王とかいらん! 友達でいよう、それが一番だ」

「……貴様」

 眼力だけで人が殺せるのではないかと睨んでくる。

 が、唐突に身を引く。

「良い、どのみちレイキの力を放っておく者は居まい。好むと好まざると、貴様は余の好む状況に置かれるであろう」

 それは俺がロクでもないことに巻き込まれるとことを示唆しているのかな。


「友達がピンチの時は助けてくれるものじゃないのか?」

「人の不幸は蜜の味ということだ、フハハハハ――」

 わかるけどさ。

 物語やドキュメンタリーが面白いのは、困難に立ち向かって乗り越えていく姿が美しいからだ。

 でも、困難や苦境に立たされている人は必死なんだぞ。


 閑話休題。

 シェイプシフターの召喚を始めよう。

 残された魔力の半分近くを注ぎ込み、召喚魔術(サモン)を発動させる。

「うわぁ……」

 シギンが歓声を上げる。

 五○○○体の同時召喚魔術(サモン)は圧巻だ。

 特大の魔法陣から続々とシェイプシフターが現れる。

 召喚されたシェイプシフターはどんどん俺の姿を擬態していく。


 久しぶりだな、シェイプシフター君。

 スーツ姿にサングラスでも掛ければ、仮想現実を舞台にした映画を再現できるな。


「準備出来た奴からアシール人の治療に向かってくれ」

 俺の命令に従って(シェイプシフター)が街中に散らばっていく。

 ついでに、念話魔術(テレパシー)でやり取りをして重複や抜け漏れがでないように指示する。


 ああ、そうだ。

 ヴィーンゴルヴの警備はセリアの召喚獣からティターンたちに変わってもらわないとまずいな。

「シギン、悪いけどセリアとティターンに街の警備を交代するように伝えてくれないか」

「わかりました。ライル、あたしを連れてティターンの部隊長のところへお願い。エクス、モ二―、はセリアさんに交代の連絡を」

「了解したぜ、隊長!」

 エクス、モ二―、は街へと走っていく。

 シギンはライルに抱えてもらう。

 去り際に、そういえば、と漏らした。

「交代したティターンたちは住民たちへの説明をするように伝えておきますね」

「ああ、そうだな。ありがとう」

 目覚めたアーシル人たちに混乱起きないようにするのを忘れていた。

 シギンは本当に気が利くな。


 残されたのは俺とアウローラだ。

「これからどうするのだ?」

「五日間はしんどい戦いになりそうだから寝るよ。シギンの家に戻ろう」

 カードキーを預かっているので入室には困らない。

 皆も作業が終わり次第戻ってくるだろう。


「では、労を労って余が部屋まで運んでやろう」

「うぉーい!?」

 止める暇もない。

 俺は軽々と腕に抱え上げられると空を飛んでいた。


 下を見下ろせば目を回すような高さだ。

 思わずアウローラの細腕にしがみついてしまう。

 アウローラは環状交通路から一息で高層ビルの壁に到達。

 壁を蹴って向かいのビルへと飛び移っていく。

「こういうのは男がやられても嬉しくないんだけどな。おんぶするとかあるだろうに……」

「鎧があるから他の持ち方はできんな、猫のように首根っこを掴んで運んでも良いならばそうするが」

「それはそれで嫌だ」

「なら我慢するのだな。怖いのなら首に腕を回しても良いぞ、英雄に救われた姫がするようにな……クフフ」

「そんな恥ずいことできるか! お前、遊んでいるだろ!」

「愛でると言って欲しいものだな。余は強い者を愛でるのが好きなのだ」

「……そっすか、じゃあシギンの部屋についたらソファにでも寝かせておいてくれ」

 俺は思考を放棄して不貞寝することに決めた。


 それから五日間。

 (シェイプシフター)たちの治療が続けられた。

 約二○○万人のアシール人は無事回復して日常生活を送れるまで回復することができた。

 しかし、俺が到着するまでに三○○万人以上のアシール人がニヴル・ガイストにより潤滑魂(マナ)を奪われて死んでしまっていた。

 蘇生魔術(リザレクション)も考えていたが、さすがにそこまで手を出すのは、と思う。


 また、為政者のアシール人たちはある程度残っていた。

 おかげで都市運営や経済活動がストップしてしまうことはなさそうだ。

 シギンからの情報を左から右へ聞き流しつつゆっくりと休息をとる。


 残るは動力炉の奪還。

 とは言え、俺が考える必要はないかもしれない。

 あとはヴィーンゴルヴの為政者がよろしくやってくれるかもしれないしな。

 そして、六日目の朝を迎えた。

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