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第二十三話 「遠い地の砂浜にて」

 凄まじい速度で景色が後方へ流れていく。

 景色と言っても雲の上なので見えるものなど空と雲だけだ。

 眼下に広がる雲の切れ間から覗くのは真っ青な海。


 俺は飛んでいる。

 飛んでいるというのは表現が間違っている。

 落ちているのだ。


 魔力はゼロ。

 パラシュートなし。

 あるのは、エイルにもらった壊れかけのバリア発生装置がひとつ。


 地表に叩きつけられた時にバリアは耐えきれるだろうか。

 闘気と魔力の無効化だけでなく衝撃も吸収するといっていたから信じるよりほかない。


 陽光に煌めく海面が近づいてくる。

 海の先には大陸が見えている。

 長く、広い、真っ白な砂浜が続いているのが見える。


 いよいよである。

 衝突の瞬間、俺は全身を丸めて目を閉じた。


 バァァァンと海面が弾けた。

 水面が爆発して、俺の体が海面をバウンドした。

 俺は生きている。

 バリアも維持されている。


 二度目の衝撃。

 バリア発生装置が小さく火花を上げた。

 心臓が縮み上がる。


 三度目の衝撃。

 まるで水切りをする平たい石のように海面を跳ねる。

 そして、轟音。

 そのまま白い浜に巨大なクレーターを作った。

 大量の砂が頭の上に降り注ぐ。


 止まった。

 俺の腕からバリア発生装置が弾け飛んだ。


「……ぉぉぉ、い、生きてる……?」


 呆然と呟いた。

 左手を見て、右手を見て、左足を上げて、右足を上げる。

 五体満足揃っている。


「……生きてるよぉぉぉおおおおおおお、っしゃあああああああああああ……ぁ」


 俺は砂を撒き散らして立ち上がり、叫ぶ、そして仰向けにバッタリと倒れた。

 なんてことはない。

 緊張の糸が切れた俺は、恥ずかしながら気絶したのだった。


 ---


 ザザァッと潮騒の音が聞こえてくる。

 頭上からはどこからかキュアキュアと鳥の鳴き声が通り過ぎていく。

 そして、ガションガションと機械的な駆動音が足元で止まった。


 俺は薄目を開けた。

 目の前に無機質な眼光を放つ何かが居た。


「うぉぁ!?」


 俺は飛び起きて後ろに這いずる。


 気づけば周囲は目映い夕日に染まっている。

 俺は長い事浜辺で寝てしまっていたらしい。


 俺の前に屈んでのぞき込んでいたのは身長二メートルほどの人型機械だ。


 流線型のボディに競技用スポーツバイクのような派手なカラーリング。

 ボディの節々からは黒い金属フレームが剥き出しになっているが、むしろ露骨に機械部品を晒しているデザインに魅せられる。

 腰に折りたたまれたショットガンを装着し、右手にはシステマチックなアサルトライフルを担いでいる。

 格好いい。

 正直な感想を述べればその一言に尽きる。


「ライルゥ~! この人、目覚ましたよぉ~!」


 が、イメージとは裏腹に人型機械からは可愛らしい女の子声が発せられた。

 それに応える若い男の声がする


「名前で呼ぶな。作戦行動中は、ブラボー1(ブラボーワン)と呼べと言っているだろう」

「そんなのどーでもいいじゃん。いまは競技中じゃないんだしさぁ~」

「競技中ではないが訓練でもない。気を引き締めるべきだ」


 女の子声の人型機械に近寄ってくる影がある。

 少しだけデザインとカラーリングが異なるが、同じ人型機械だ。

 軍人のようにキビキビと動く。


「ライルは硬いんだもんなぁ、エクスもそう思うよねぇ~?」

「そうだな、もう少し気楽に行ったほうがいいぜぇ。ストレスで参っちまう」


 女の子の人型機械が話しかけた先には、別の人型機械が何故かブレイクダンスを披露していた。


「お前たちが柔らかすぎるんだ」


 ライルと呼ばれた人型機械が呆れた口調で言った。


 武装した人型機械が三体。

 ずいぶんと人間臭いロボットたちでエイルの世界の兵器ともコンセプトがずいぶん異なる。

 また新しい世界がコンバートされてしまったのだろうか。


「すいません。ここは、どこかわかりますか?」

「ここは、シグルーン海岸だよ! 君を見つけてから二○時間三秒経過中~」


 女の子声と人型機械が元気良く教えてくれる。


 うん、どこだそれは。

 サッパリわからん。

 しかも一日近く寝ていたらしい。


「少年、我々は作戦行動中に偶然、君を発見した。この辺りは危険なため保護していたのだが、我々も移動しなくてはならない。もし、いくあてがあるのなら先を急ぐんだ」

「そう……言われても、な……」


 ここがどこかもわからないのに行く先などない。

 しいて言うなら安全な街までご案内頂きたい。


 その旨を伝えてみると、女の子声の人型機械は乾いた笑いを漏らした。


「安全な街があるなら私たちが移動したいよね……」

「ううむ、貴重な人間だから守ってやりたいのは山々なんだが……」


 キナ臭い感じだ。

 この世界でも何者かの侵略をうけているのだろう。

 どっちを向いても敵だらけ。

 時はまさに世紀末状態であった。


 そこへ、緊迫した声が掛けられた。


「ガイスト反応! コンバットフォーメーション!」


 ブレイクダンスをしていた人型機械が静止する。

 腰に差した二挺の大型ハンドガンを引き抜いた。


 女の子声の人型機械とライルと呼ばれた人型機械もすぐさま臨戦体制に入る。


「少年! 側を離れるなよ!」

「ガイスト確認、五! ガリガリ削っちゃうよ~~~!」


 砂浜に煙のように沸きだしたのは、黒いイナゴの群れのような集合体。

 見る間に四足の肉食獣じみた姿に変貌すると、一斉に襲いかかってくる。

 タタタッと銃声が響く。

 俺の腕ほどもある薬莢がバラバラと降ってきた。


 黒い獣はまっすぐに俺を目指している。

 狙いは俺、らしい。


ブラボー2(エクス)! ブラボー3(モニー)! 銃弾は効果が薄い、追い込んでくれ。グレネードを使う!」

「了解だぜ、ライル!」

「オッケー、任せて!」


 迫る黒い獣を追い散らして一ヶ所へ追い詰める。

 ライルと呼ばれた人型機械が丸い玉を投げつける。


「投擲! 三秒前!」


 これって耳を塞いだり、目を押さえたり、伏せないといけないやつだよな。

 俺は慌てて地面に伏せる。

 ついでに魔力が半分くらい回復していたので、魔力障壁魔術(プロテクション)を発動した。


 爆発。

 白浜が噴火したかのように盛り上がった。

 砂塵を割って黒い獣が飛び出してきた。


「残存、二! 出迎えて~!」

「格闘戦!」

 

 淀みない動作で武器を持ち替える。

 が、速い。

 ライルと呼ばれた人型機械の拳は見事に黒い獣の胴体を粉砕。

 女の子声の人型機械の拳は前肢を破砕しただけだ。


「やっば、逃げて~~~!」


 黒い獣は女の子声の人型機械をすり抜けて肉薄する。


 急にそんなことを言われても困る。

 魔術の発動直前なのだ。


 最大収束炎閃魔術フルチャージパイロスラストを発動させる。

 極大の熱線が右手から放出された。


 目前に迫る黒い獣は灼熱の閃光に消える。

 威力が衰えないまま閃光は海岸線を走り抜けて夕日に消えていった。


「すっごぉぉぉい!」

「なんと……」

「凄んげぇぇ、威力。……たまげたぜ」


 人型機械たちは唖然としていた。


 いち早く立ち直ったのは、ライルと呼ばれた人型機械。

 おそるおそる尋ねてくる。


「少年、君はいったい何者なんだ……?」

「……俺は、玲樹。流玲樹(ながれれいき)。魔術が使える高校生だよ」


 俺の名乗りに対して、人型機械たちは首を傾げた。

 異世界人への自己紹介は実に難しい。

 魔術ってなんだ?

 まずは、そこからである。

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