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第十五話 「お礼参り」

 俺は火花を散らす先生と幼馴染に引きずられて、いつもの訓練場へやってきていた。


 まずは、シャウナと陽織の模擬戦。

 シャウナは腰に下げている剣を抜いている。


 対する陽織は掌から真っ白い木刀を召喚した。

 やや小振りの脇差しくらいの長さがある。

 刀身は削りたての枝のように節が膨らんでおり、枝には漆黒の蔦と黄金の葉が絡みついている。


 シャウナと陽織は五メートルほど離れて向かい合った。

 凄い殺気が迸っているんだけど、本当に大丈夫かな。


「陽織、これは自分の力を確認しあう訓練なんだからな? 先生も、これは訓練ですよね?」

「わかってるわよ。倒せばいいんでしょ」

「身の程を思い知らせてあげます」


 不安で胸いっぱいである。

 真剣勝負ころしあいになっている気がしないでもない。


 俺の不安は他所に二人は同時に動き出した。


 刃のぶつかり合いで無数の火花が舞い散る。

 速い。

 俺の瞳では二人の足捌きがブレて見えた。

 剣筋は霞んでほとんど見えない。


 まずはシャウナの動きから注目してみよう。


 シャウナが闘術を繰り出した。

 飛剣閃闘術(ソニックブラスター)だ。

 ご存知の通り、俺との模擬戦でも使っていた剣閃を飛ばす闘術である。


 シャウナが追撃する。

 重ねて使ったのは、螺剣閃闘術(スパイラルスラッシュ)


 至近距離から闘気の剣閃を連続で当てる技だ。

 二種類の闘術を使って、四方から変則的に斬りかかる。


 さらに、無詠唱の土閃魔術(ストーンスラスト)を発動。

 高圧を掛けた泥塊を間断なく撃ち込んでいく。


 シャウナの攻撃は苛烈だ。

 四方からの斬撃と泥塊の砲弾を捌くことができなければ、たちまち全身をなます切りにされ、骨を砕かれるであろう。


 続いて、陽織の動きを見てみよう。


 陽織はシャウナほど積極的に攻めない。

 闘術は防御と身体強化にしか使わない。

 幼いころから母に教わってきた古流武術、落陽昇月流の型で迎えうつ。


 俺は道場で鍛錬に勤しむ陽織を見たことがある。

 落陽昇月流は、武器と素手を使った武術で、素手の技はほとんどが関節技と投げ技、武器の技は受け流しと止めに使われる。


 斬撃は白の木刀でぬるりと受け流し、燕のような切り返しをお見舞いする。

 泥塊は闘気障壁闘術(シールド)で完璧に防ぐ。


 守りだけではない。

 シャウナの太刀筋を上回る速度で振るわれる陽織の木刀は、シャウナの闘気障壁闘術(シールド)をしたたかに打ち据える。

 一撃一撃が見舞われるたび、闘気障壁闘術(シールド)が打ち砕かれる。

 そして懐に潜り込んだかと思えば、手首をつかんで捻りあげ、投げ技を披露する。


 「く……」

 二度投げ飛ばされたシャウナが距離を取る。


 シャウナの両手に魔力が集まっていく。

 接近戦では勝てないとみて、上級の魔術で攻撃するつもりだ。


「暗闇の霧よ、我が敵の世界を覆い隠したまえ……、暗闇魔術(ダークネス)


 陽織の足下から真っ黒な靄が噴き出す。

 あっという間に黒靄の中に陽織の姿が見えなくなってしまった。


「大地の息吹よ、我が敵を囲い鋭き牙にて貫け、大地噴出魔術(アーススプレッド)


 黒靄が垂れ込めた地面が割れる。

 大地を割って飛び出した土槍が、黒靄を余すところなく貫いた。


「炎の化身よ、我が敵に地獄の灼熱を与えたまえ、爆熱火炎魔術(インフェルノハウル)


 黒靄も土槍も、すべてを包み込む閃光が弾けた。

 大爆発。

 ビリビリと大気が震えた。

 映画で見るような炎と黒煙のキノコ雲が立ち上がる。


 ……ってやりすぎだろ!


「ちょ、ちょ、ちょちょちょ!? 先生、模擬戦ですよ。殺す気ですか!」


 俺の静止をシャウナを無視する。


 陽織は無事なのか。

 もうもうと立ち込める黒煙に目を凝らすと、煙を割って何かが飛び出してきた。


 陽織だ。

 まったくの無傷であった。

 陽織の闘気障壁闘術(シールド)はここまで硬いのか。


 刹那で間合いを詰める、陽織。

 シャウナが神速剣閃闘術ライトニングスラッシュで斬りつけるが、陽織は右手の木刀で受け流した。

 勢いが殺せずつんのめってしまったシャウナ。

 その隙をついて陽織が動いた。


 陽織は左肘でシャウナの顎を打った。

 バキィィィンと、シャウナの闘気障壁闘術(シールド)が破壊される音が響いた。

 シャウナに苦悶の表情が浮かぶ。

 意識を飛ばされることは防いだようだが、その場に崩れ折れてしまう。


 勝負あり、だ。


「私の勝ちね」

「……ぐ、良い気にならないでほしいですね……た、またま、ですから……」


 足が生まれたての小鹿のようになっていますよ、先生。

 剣を杖にして絞り出すように負け惜しみを述べる有様では説得力は皆無である。


 そんなシャウナを鼻で笑い、陽織はくるりと振り向く。

 俺に向けられるのは花が咲く様な笑顔である。


「どう、どうだった、玲樹。私も強くなったでしょ?」


 反転する間にどのような表情の変化があったのだろう、女は恐ろしい。

 などとは露とも思わないように俺は答える。


「ああ、勇者との戦いのときは頼むよ」


 次は、俺とシャウナで模擬戦を行う。

 シャウナは連戦のため小休止を挟むことを提案した。

 が、シャウナは拒否する。


「私は問題ありません」

「まあ、そう言わずに。ちょうどオ○オを持っているので食べていてください」

「ふむぅ、ニホンジンのお菓子ですか。わかりました、……しばらく休憩をしましょう」


 秘蔵のお菓子を渡して機嫌を取る。

 シャウナは受け取ったお菓子をハグハグと食べはじめた。


 休憩と伝えているがシャウナのためではない。

 俺が時間を作りたかっただけだ。


 横から服の袖を引っ張られる。


「玲樹、私にはないの?」

「ほれ、ビ○コやるよ」


 俺の秘蔵のお菓子はどんどん減っていくが、致し方なし、また集めてこよう。


 シャウナと陽織(もうじゅうども)が大人しくしている間に俺はやることがある。

 魔力と魔術の感覚を確かめておくことだ。


 さて――。

 どっかりと腰を下ろして精神を整える。


 シャウナに指摘された通り、魔力総量はドラゴン戦の前と比べると雲泥の差だ。

 二倍、三倍などというケチ臭い上昇率ではなく、数千倍の圧倒的魔力量である。

 魔力不足で使えなかった上級の魔術の発動もできるようになっている。


 魔術の構築イメージも確認してみる。

 あれ、設定できる項目が増えている?


 魔術は、規模、座標、効果、の設定がある。

 これの他に、配列、複製、保存、の設定について理解できていた。

 俺がいままで『溜め』ていた魔術は、配列、の設定を使っていたらしい。

 魔術を溜められる理屈についてもやもやしていたのは、俺の魔術精度が一定基準に達していなかったからなのかな。


「そろそろ休憩は終わりです」


 サクサクとオレ○を食べ終えてしまったシャウナが準備運動をしている。

 あとは模擬戦で確かめてみるしかないか。


「わかりました。お手柔らかにお願いします」

「勇者戦までまもなくです。本気でやりましょう」

「え、いや、俺はまだ今日起きたばっかりですし、優しく……」


 叩きつけるような闘気がシャウナの全身から放出される。


「本気でいきます――!」


 シャウナは問答無用で襲いかかってきた。

 陽織との模擬戦で火がついてしまったのか、当たり前のように真剣を使うみたいだ。

 ぼこぼこにされたからって大人げないんじゃないかな。

 ○レオの餌付けはあんまり意味なかったようだ。


 あーだーこーだ言っても仕方がない、迎撃だ。


 シャウナの動きは目で追えないのでひたすら亀になるしかない。

 まずは神聖魔術で魔力障壁魔術(プロテクション)を作る。


 俺の魔力総量を考えれば恐らくシャウナのそれを超えているはず。

 今までのように物理的な壁魔術に頼らずとも、魔力障壁魔術(プロテクション)であらゆる攻撃を防ぐことができるはずだ。


 シャウナの攻撃が来る。


 飛剣閃闘術(ソニックブラスター)が半透明の障壁に命中する。

 剣閃は細切れになって消えた。

 土閃魔術(ストーンスラスト)が半透明の障壁に衝撃を与える。

 泥弾は砂となって飛び散った。

 剣閃と泥弾はまったく魔力障壁魔術(プロテクション)を貫くに至らない。


「この……っ」


 シャウナが至近距離で大技を繰り出す。


 乱舞剣閃闘術セブンスソニックスラッシュ

 闘気を纏わせた剣閃を七回振るう闘術だが、剣閃は振るうと七閃の剣閃に分離する。

 合計四九の剣閃が敵を微塵切りにするという恐ろしい技である。


 削岩機のような衝突音を立てて、剣閃が魔力障壁魔術(プロテクション)に突き刺さる。

 が、まったく障壁は揺らがない。


 障壁を保ち続ければ負けることはなさそうだ。

 って思っていたらシャウナが剣の構えを変えた。


 シャウナの剣に闘気が集まっていく。

 大きく後ろに飛び下がると、目にも映らぬ超スピードで迫り、剣を一閃。

 魔力障壁魔術(プロテクション)は粉々に砕け散った。


 そういえば、闘術には一撃で魔力障壁魔術(プロテクション)だけを破壊する技があったな。

 闘術のひとつ、破砕剣閃闘術(フラクチャー)だったかな。


 しかし、俺はこれで終わってしまうような男ではない。

 反撃のために魔術を溜めていたのだよ。


 配列は複数の、効果、を連続的に持たせた状態を指す。

 本来の魔術は一発分の効果で発動する。

 配列は、発動する魔術の効果を複数持つことで溜めている扱いになるらしい。

 以前は三発溜めると制御に苦労していたのだけど、いまは三十発溜めていられるようになった。

 ただし、魔力消費量は配列数分を消耗するので、上級の魔術を配列に突っ込むのはよろしくない。

 そもそも上級の魔術は威力が高いしね。


 と言うわけで、魔力障壁魔術(プロテクション)で時間稼ぎしていた間に溜めておいた、最大集束炎閃魔術フルチャージパイロスラストを試しに撃ってみた。


 俺の右手が真っ赤に燃える、勝利を掴めと轟き叫ぶ……、なんてね。

 視界を埋め尽くさんばかりの赤熱が一直線に発射される。


 「ひぃ」っと引きつった声が聞こえた。


 シャウナは剣を盾に極太の熱線を防御する。

 しかし。

 硬質な音を立ててシャウナの剣が粉々に砕け散った。

 キラキラと舞い散る金属片が熱で瞬く間に燃えていく。

 シャウナは最大集束炎閃魔術フルチャージパイロスラストの射線から弾き飛ばされて、公園の茂みに落ちていった。


 やっべ、ちょっと威力が高すぎるかもしれない。

 シャウナが死んでいないだろうかと焦るが、当人が茂みから飛び出してきた。


 眼光に殺気がこもっている。

 まだやる気だ、っていうか殺る気だ。

 これは訓練ですからねと言って聞き入れてもらえなさそうな雰囲気になってきている。

 せっかくなのでとことん試し撃ちさせてもらおう。


 次は魔術の複製だ。


 魔術は、規模、座標、効果、を定めないと発動しない。

 詠唱ありでも無詠唱でも同じことだ。

 どんなに早く無詠唱を連続で発動させても、ショットガンのように同時発射はできない。


 複製は、規模、に追加することで、発動直前の魔術をコピペできる。

 複製できる数は配列に溜められる数と同じで最大数は三○となる。

 早速、炎閃魔術(パイロスラスト)を複製した魔術、多段炎閃魔術マルチプルパイロスラストを撃ってみた。


 虚空に一斉に現れた灼熱の閃光がシャウナに殺到する。


 シャウナは「そんな馬鹿な……」とうろたえる。

 咄嗟に土壁魔術(ストーンウォール)で防御するものの、三○もの炎閃魔術(パイロスラスト)の熱に耐えきれず融解、シャウナは地面に伏せて回避した。


 よし、最後は保存だ。

 魔術はすべての条件を満たせば発動する。

 保存は魔術を即発動させずに、発動結果を次の魔術の、座標、へ引き継ぐことができる。

 そこで、保存の設定を利用して追尾魔術を考えた。


 魔術の発動に必要な座標は固定になっている。

 だから、魔術は座標で発動するか、座標まで直線で進むことしかできない。


 追尾させる方法は次の通り。

 技巧魔術の中に、人や物を探すことができる探知魔術(サーチ)がある。

 探知魔術(サーチ)は、ターゲット情報をマーキングして常に方角や距離・高低差を使用者に情報として与える。

 まず探知魔術(サーチ)を保存して、次に炎閃魔術(パイロスラスト)の座標に探知魔術(サーチ)の発動結果を引き継がせる。


 そうすると、あら不思議。

 炎閃魔術(パイロスラスト)はマーキング情報に向かって効果を発動させようと追いかける。

 追尾炎閃魔術ホーミングパイロスラストの完成である。


 複製した多段追尾炎閃魔術マルチプルホーミングパイロスラストを発射。

 シャウナは土壁魔術(ストーンウォール)で防御しても無駄だと悟ったのか、サイドステップで回避する。

 しかし、急激に角度を変えて飛来した炎閃魔術(パイロスラスト)に対応できず直撃を受ける。

 連続して着弾する熱線に周囲が赤く輝いた。

 もうもうと白煙が立ち上る。


 最大集束(フルチャージ)多段(マルチプル)追尾(ホーミング)

 この新しい魔術の力を駆使すれば勇者とも渡り合えるのではないだろうか。


「どうですか、先生。だいぶ強くなったんじゃないですかね」


 煙が晴れる。


 シャウナはけほっと咳をひとつ。

 全身から煙を棚引かせながらパタっとその場に倒れた。


 奇妙な静けさが場に垂れ込めた。

 佇む俺。

 ピクピクと痙攣するシャウナ。


 横で見ていた陽織はトコトコと歩み寄ってくると、すぱぁんと俺の尻を蹴り飛ばした。

 痛い……尻が、割れた。


「やりすぎでしょ」

「……だよね」


 言われてみれば、常人では死んでいてもおかしくない魔術をぶち込んでしまった。

 俺は再生魔術(リジェネレイト)を掛けるべくシャウナに駆け寄った。

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