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第百二十話 「リンドブルム防衛戦5」

 陽織から報告を受けて、俺はほっと胸を撫で下ろす。


 ティアマットは倒した。

 そして、陽織の身体に異常は見られない。

 リンドブルムの城下町が一部壊れてしまったそうだが、死者はいないので修理だけで済む話だ。

 神獣討伐の駆け出しとして良い結果だと思う。


 残るは、フェニックス、イルミンスール、シームルグ、リヴァイアサンだ。


「ナガレさん。シャウナさんとアウローラさん、そしてセリアさんの位置座標を特定しましたよ」


 勝利の余韻を静かに噛みしめていると、横から声を掛けられた。

 解析を続けているオメガだ。


「皆、生きてるんだよな?」


「もちろんです。戦闘中のようですね……、見てください」


 オメガは手元のモニターを差し出して指をさす。

 モニターには立体的に描かれた地形図とリンドブルムが映し出され、点滅する青点と赤点が表示されている。


「リンドブルム城の直上、高度一万メートル付近で誰かが戦っています。あとは、リンドブルム城の南西、城下町で誰かが戦っています。あとはリンドブルム城を高速で動いている人物が一人……」


「空で戦ってるのはアウローラだな。城に居るのがセリア、残るはシャウナだろ、……予想だけどな」


 空中戦が得意そうなのはアウローラだと見立てれば、残りの推測も的外れということはないだろう。


「それと気になることがあります」


 オメガはモニターを機械の指で触れると滑らかに滑らせた。

 地図画面は横にスライドされて、今度は複数のグラフが表示された。

 リアルタイムに数値とバーが上下する様子を眺めていると目がチカチカする。


「これは?」


「これはリンドブルム周辺で使用されている魔術の分類です。調べていてわかったのですが、神獣たちは決まった魔術しか使わないようで、……例えば、フェニックスは常に爆熱系の攻撃を使っています」


「それは、フェニックスが得意だからじゃないのか?」


 フェニックスと言うからには炎っぽいイメージだ。

 全身がカチカチ山のタヌキの如く燃え盛っているだろう。


「そうですね。可能性はそちらが高いと思われます、が……、このグラフを細分化して、……各所の戦闘記録ごとに分けます」


 オメガはグラフを分割すると、複数のグラフと並べて表示させる。


「こちらはシャウナさんとイルミンスールの戦闘です。イルミンスールは水か氷に関する魔法しか使用していません。余談ではありますが、ティアマットも氷に関連する攻撃が多かったと思われます」


 説明はありがたいが俺にはさっぱりわからなかった。

 何が問題なのか、むしろ何か問題が起きているのか。


 仕方がないので素直に尋ねてみる。


「……うーん、それで、その……ごめん。どこが気になっているんだ?」


 オメガは嫌な顔を一つせずに答えてくれる。


「異常気象です。フェニックスが超高熱を発生させることでリンドブルム上空の気温が急激に上昇。さらに、イルミンスールとティアマットが発生させた水・氷が高熱で蒸発して湿度が急激に上昇。その結果、現在のリンドブルムは熱帯と化し、……局所的な低気圧が発生しつつあります」


 オメガは最後に成層圏を飛行する監視機械から送られてきた映像を見せてくれた。

 そこには巨大な渦を描く雲の姿がある。

 映画やCGで拝めるようなスーパーハリケーンも真っ青の雲の大渦だった。


「気候変動するレベルの戦闘かよ……。とんでもない奴等だな、神獣」


 ナガレさんもやっているでしょうに、と苦笑された。


 いやいや、俺は環境に配慮する男だよ。

 魔獣の平原を開拓したことで魔物の大移動を起こしてしまったような不可抗力はあるけど。

 街を建設してもインフラ整えて環境破壊をしなかったし、隕石を落としたって大災厄にならないように配慮したし、世界でも稀な大自然に優しい大魔王様だよ。


 オメガは、それはさておき、と話を進める。

 俺の釈明は流された。


「戦闘による結果だけとするなら良いのですが、意図してやっているのであれば、何が目的なのか……。リヴァイアサンに何か策があるのかもしれません」


「うーん、俺が干渉して気象変動を戻すのはまずいのか?」


「こちらの居場所が特定されることを覚悟するのであれば。ただ、そこまでして対応すべき事象かどうかの判断が難しいのですよ」


 俺たちが戦闘に参加するのはリヴァイアサンが姿を現した時。

 神獣たちの策を完全に叩き潰すための決め手として投入される戦力が俺だ。


「先手を打てればいいんだけどなあ……、リヴァイアサンの場所はわかりそうか?」


「リンドブルム周辺、とまでは。しかし、違和感があります。リヴァイアサンの反応はありますがあの巨体を隠すほどの場所はない……。何故、姿を確認できないのか……」


「シームルグの魔法の力か、それともリヴァイアサンの能力なのか、何とも言えないな」


 そういえば。

 全く会話に入ってこない勇者をちらりと見やる。

 何か建設的な意見があるなら提案してもらえたりしないだろうか。


「勇者は何かわからないか?」


「知らねぇ」


 しかし、勇者は鼻を鳴らすとそっぽを向いてしまった。

 話に加わるつもりはこれっぽっちもないらしい。


 いや、単純に何も思いついていないから参加しないだけかもしれない。

 脳筋志向だし、きっとそうだ、そうに違いない。


「てめぇ、いまロクでもないことを考えやがったな」


「……そんなことはない。集中できないから黙っててくれ」


 妙に勘が鋭かった。

 話がこじれると面倒なのでぴしゃりと話を打ち切っておく。


「ひとまず、リヴァイアサンは置いておきましょう。まずはフェニックスとイルミンスールです。……想定ではマリルーがアウローラさんの下へ辿りつく時間のはず。確認をしてみます」


 オメガは通信機器を使ってマリルーとの会話をはじめた。


 俺もアウローラと連絡を取りたかった。

 試しに会話を試みるが、相変わらず念話魔術(テレパシー)の接続は拒否されている。

 戦闘が激しいから仕方がないのだろうけど、もしかするといまにも死にそうなのではないかと考えるだけで、不安も煽られるというものだ。


 無事でいてほしい、と願いつつ俺はじっと耐えるのみである。

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