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第百十五話 「神獣の猛威」

「大魔王殿、そろそろ竜王国の国境を通過します」


 レギンレイヴの声が船内に響く。

 俺は壁に貼り付けられたカレンダーを見つめながらため息をつく。


「そか。まいったな……」


 壁掛けの電子カレンダーには『-2』の表示がついている。

 二日遅れという事だ。

 当初、五日間の旅程のはずが七日間も掛かってしまったのだ。


 原因は、突如進路上に出現したガイストやマギアと遭遇戦になってしまったからだ。

 野生のガイストなどヴィーンゴルヴで戦って以来の話だ。

 何故にこんな場所をウロウロしているのか。

 予想だにしない出来事だ。


 もしかするとセリア達もトラブルで予定よりも遅れているかもしれない。


「ナガレ、この距離ならばセリアたちと連絡がとれるかも」


「……あっちも竜王国に近いはずだしな。呼んでみるか」


 念話魔術(テレパシー)を発動させる。

 まずは、セリアを呼び出してみた。


「……ん、レイキですか? 少々、遅かったですわね」


「悪い、予想外に時間を喰ったんだ。そっちはいまどこなんだ?」


「リンドブルム。竜王国の首都ですわ」


「え……」


 ひやりと背筋が冷えた。

 セリアたちはすでに竜王国に到着している。

 予定より早すぎるが、その理由について尋ねている場合ではない。


 何時到着したのだろうか。

 リヴァイアサンたちはすでに動き出しているのだろうか。


 逸る心を押さえて状況を尋ねる。


「い、いまどうなっているんだ?」


「リンドブルムにティアマットが迫っています。別方向からはイルミンスールとフェニックスが。打って出たいところなのですが、貴族共が煩くて困っておりますわ。おかげでわたくしは身動きできない状況です」


「……城を守ってくれ、てか」


「そういうことですわね」


 自らの保身のためにセリアを呼び出したのが貴族たちだ。ティアマットの脅威が迫っているのであれば、靴を舐めてでもセリアを引き留めようとするだろう。


「いまティアマットの対応はヒオリに。フェニックスはアウローラ、イルミンスールは御師様にお願いしていますわ」


「ちょっと待て。お前は一人なのか!?」


「イニアスが居りますわ」


 ティアマットを抑えられないような奴がリヴァイアサンとシームルグ相手に何の役に立つと言うのか。

 まずい、セリアを守る人が誰もいない状況だ。


 じわじわと心を締め付ける焦燥感に息が荒くなる。

 まずは、精神統一霊術(クールマインド)

 自らの心を落ち着けるべく強化魔法を掛けていく。


 いつの間にか全員が部屋に集まってきていた。

 隣に立つオメガが肩を叩く。


「ナガレさん、状況を教えてください。どうなっていますか?」


「……セリアたちは竜王国の首都のリンドブルムにいる。ティアマットとフェニックスとイルミスールの攻撃を受けているらしい。シャウナと陽織とアウローラが迎えうっている」


「――助けにいく」


「お待ちを、ラテラノさん。駆けつけても振り回されるだけです」


 すぐさま動こうとするラテラノをオメガが引き止めた。


「リヴァイアサンとシームルグが見えないのが気になる、と言ったところか。……どう動くか」


 マリルーは部屋のテーブルに広げられていた精細地図を指でなぞる。

 この地図はオメガが放っている監視機械のデータをもとに作り出された竜王国全体の地図だ。


 地図には数か所、赤丸が付けられている。

 監視機械が不明瞭なデータを転送してきた怪しい地域、神獣たちが潜んでいると思われる場所だ。


「ケッ、めんどくせぇな。このまま突っ込んで手当たり次第にぶっ殺せばいいだろうが。この戦力ならやれねぇことはないはずだ」


「以下、簡潔明瞭。素晴らしい作戦に賛同の意を示します」


 勇者の脳筋思考(ガンガンいこうぜ)にカイゼリンがパチパチと拍手を贈る。


 それは困るんだよ。

 今回の戦いは神獣を倒すだけでは意味がないんだ。


「神獣たちはセリアに宿っているティアマットの力を狙ってる。まずはセリアの守りを固めるのが先だ」


「それに、リヴァイアサンはアトランティス・ステルラを持ってる。追いつめたときの行動がわからない」


 ラテラノが俺のセリフに言葉を足す。


 勇者が舌打ちしつつ俺を睨みつける。

 負けじと俺も視線を逸らさない。


 と、そこへ力強くパァンと手を叩く音が鳴り渡る。


「はいはい、落ち着きましょう」


 オメガの声でピリピリとした空気が和らいでいく。

 カイゼリンの肩を叩き、マリルーの頭を撫で、ラテラノに頷きかける。


「まずはカイゼリンとマリルーが先行してフェニックスとティアマットの戦いへ加勢に行ってください。ラテラノさんはセリアさんの元へ。手が空いたらシャウナさんの下へ、いいですね?」


 それから、俺と勇者に踵を返す。


「私と勇者さんとナガレさんは、レギンレイヴさんと共に待機。リヴァイアサンとシームルグの動きを警戒しましょう。……こんなところでどうです?」


「お、おう……」


 ビシッバシッカンッ、と音がしそうな指示出しに間の抜けた同意の声を上げるしかなかった。


 実際にオメガの人員割り振りは的確だった。


 リヴァイアサンは俺を警戒していることは間違いない。

 どこに居るのかは最後までわからないほうが良い。


 そして、この場で空を飛べて高速でリンドブルムまで移動できる戦力は、カイゼリン、マリルー、ラテラノ、の三人だけだ。

 また、セリアの護衛を任せたラテラノはこの中で一番理性的だ。

 カイゼリンとマリルーは戦闘だけを任せておいた方が安全というオメガの考えが透けて見えている。


「俺様は留守番かよ、つまんねぇな」


「拗ねないでください。ここが見つかった場合、防御のために勇者さんの盾が必要ですからね」


「それが気に喰わねぇんだ。俺様にも戦わせろや!」


「まあまあまあ。そう言わずに」


 一人ぶつくさと文句を垂れてオメガに食って掛かる勇者。

 オメガは扱いなれているのか、ペコペコと頭を下げつつ勇者を宥めて落ち着かせている。


 勇者を出さない理由は空を飛べないからだと思っていたけど、この場に残る理由がきっちりと合ったってことか。


 オメガの指示を分析していると、袖を引っ張られている感触に視線を下に落とす。

 ラテラノが見上げている。


「ナガレ、いいの?」


 どうやらオメガの指示通りに動いてしまっていいのか疑問を持ったようだ。


「問題ないさ。実際良い割り振りだと思う」


 シャウナの加勢が後回しなのは気になるが、妖術の力を得たシャウナは強くなった。

 その力は未知数であるが、セリア、アウローラ、陽織を上回るものだ。


 オメガは監視の報告をしてくれるが何を見ているのかはわからない。

 シャウナに援軍を送らないのは何か理由があるのかもしれなかった。


「そう。ならいい……任せてほしい」


 三人が先行するのを見送るため、全員が後部ハッチへと向かう。


「では、行くとしよう。遅れるなよ二人とも」


「以下、失笑。マリルーの最高飛行速度はワタシを下回る。置いてけぼりをくらうのはソッチです」


「……貴様、いつまでも下に甘んじていると思ったら大間違いだ。思い知ると良い」


 途端に言い争いを始めたカイゼリンとマリルーに、ラテラノはどんよりとした視線を向ける。


「――不安です」


 ラテラノは心なしか肩を落としているように見える。


「先行。……出撃します」


 開け放たれた後部ハッチからカイゼリンが一番に飛び出す。

 ガイストの黒い粒子を振りまきつつ腰部と脚部にスラスターを展開、回転しながら赤熱の噴射炎を放出すると加速して飛び去って行く。


「勝手に! 機神姫マリルー、出るぞ!」


 寸秒遅れて蒼天に躍り出たマリルー。

 中空で背中の長大なロケットブースターをくみ上げて装着する。

 空を真っ二つに切り裂くような飛行機雲を棚引かせながらカイゼリンを追って飛翔する。


 残ったラテラノに一言、声を掛けた。


「ラテラノ、……セリアを頼む」


 ラテラノは半身だけこちらを向くと、力強く頷いた。


「必ず、守る。絶対に」


 ラテラノは魔法を発動させると大空へと躍り出た。

 キラキラと舞い散る光の結晶を振りまきながら青空を駆ける。


 三条の軌跡は瞬く間に雲海の狭間へと消えていった。

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