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第百十二話 「行動開始」

 翌日の昼過ぎ。

 魔王国の東門前に俺達は集合していた。


 俺の目の前にはサモン・ライディング・ワイバーンに騎乗しているイニアスがいる。


「しかし、本当によろしいのか? 妃の助力はありがたいが、全員が国を離れるとなると……」


「構わん。貴卿の心配することではない」


 竜王国へイニアスと向かうのは、セリア、アウローラ、シャウナ、陽織、の四人。

 本当は魔王軍も連れていくのが妃たちのためなんだろうけど、今回は移動速度が最優先のため、サモン・ライディング・ワイバーンを使う。

 軍隊は連れていけないのだ。

 連れて行ったところで神獣相手では無駄に死者が増えるだけって問題もある。


 道中も魔王国に戻ってこれないので、宿場町か家型のサモン・ミミックで寝泊まりをする。

 竜王国までの移動は二週間ほどを予定している。


「それと。あれはいったい……」


 イニアスは俺の背後に視線を向ける。


「妃将軍が他国の支援のために出陣するのだ。国民たちの見送りがあるのは当然だろう。何か問題でもあるのか?」


 魔王国の東門前にはズラリと正装した魔王軍が五○○○人、整列している。

 全員が武装して、手には魔王国旗を持っている。


 頭上にはヴィーンゴルヴのグナ大統領が派遣してくれた、カイザー・ガイスト装備のティターン部隊が編隊を組んで飛行している。

 十数機は魔王国圏内を離脱するまで護衛として並走飛行することとなっている。


 そして。

 話を聞きつけた、魔王国の人々がびっしりと詰めかけていた。

 ……商魂逞しく酒やツマミを売っているやつがいるが、そのくらいは多目に見るか。


「私は非公式の……」


 イニアスが批難めいた抗議をしてくる。

 が、俺は台詞を被せて黙らせる。


「魔王国には関係のないことだ。魔王国は竜王国のために最強の戦力を貸し出していると、魔王国の国民に理解してもらうための場であるからな」


 この見送りの場を用意することの提案をしたのは、セリアだ。


 魔王国の人々に竜王国を支援しているんだぞ、とアピールしておくことで印象を善くしておく。

 もし、竜王国が魔王国に対して何の見返りもない対応をするならば、魔王国の人々は竜王国に対してあまり良い感情を持たなくなるだろう。


 もしかすると魔王国の商人による取引が渋くなるかもしれない。

 仲良くない国だから売るのをやめた、値段を上げるか、となるかもしれない。


 やったらやり返される、なんてお言葉もあるけど、そもそも竜王国に頼っている特産品や人材などない。

 魔王国は竜王国に邪険にされてもなにも困らない。

 竜王国から魔王国の品を買い付けに来る商人たちが困るくらいだ。


 魔王国の特産品を適正価格で手に入らなくなったとわかれば、竜王国の商人はその理由をしることになるだろう。

 そして、竜王国の商人たちから国民へと伝わっていけば、統治者に対する不信感が高まる。

 竜王国の貴族たちにとって痛手だ。


 セリアの国だったのにそんなことしていいのか、と尋ねると、貴族たちの支配が揺らいでいるのなら侵略して魔王国の一部にしようと考えておりますわ、と宣いやがった。


 そんなことになったら大魔王の仕事が忙しくなりそうなので勘弁してもらいたい。

 ……貴族の連中とイニアスの仕打ちに対する報復には良いかもしれないけど、俺の苦労が増えるのは勘弁してほしいところだ。


「それでは行って参りますわ」


 セリアは手綱を引くと、サモン・ライディング・ワイバーンは高らかに吠えて翼を羽ばたかせる。


「うむ、では手筈通りにな!」


 アウローラはセリアを追い抜いてあっという間に空へと飛び立つ。

 遅れてシャウナと陽織の跨がるサモン・ライディング・ワイバーンがゆっくりと上昇していく。


「あとはよろしくお願いします!」

「行ってくるね、玲樹。私たちがいないからって、グータラな生活をしていちゃダメだからね!」


 最後は、イニアスだ。


「……では、失礼する。今度会うときはしがらみなしに会いたいものだ、大魔王」


 それが本音か。

 俺はいつでもウェルカムだぜ。


「……近いうちになるだろうさ。望んだ形かどうかは知らんがな」


 俺とイニアスは互いに視線を交わす。


 四騎のサモン・ライディング・ワイバーンが大空に舞い上がると、魔王軍の旗が一斉に掲げられる。

 はためく旗が一子乱れず降られる様はとても勇ましく、出陣を飾るに相応しい光景だった。


 隣に並ぶようにして立つ者の姿がある。

 ラテラノだ。

 小さくなっていくサモン・ライディング・ライバーンへと小さく手を振っている。


「ナガレ、私たちも」

「ああ、……時間の余裕はないからな」


 俺とラテラノは機械人との同盟の取り決めをしてすぐに竜王国へ向かう予定でいる。


「大魔王殿。予定通りに到着できるとするならば、魔王国から竜王国への移動は四日ほどとなっている。余裕を持って五日を見てもらえれば助かる」


 レギンレイヴの言う五日を確保して計算をすると、機械人との同盟は九日間掛けられる。

 竜王国へ向かう準備とか、機械人との集合場所とか、諸々を考慮すると九日間で足りるかどうか。


「同盟がダメだったらどうするの?」


「……最悪のパターンではあるけど、魔王国とヴィーンゴルヴの自前の戦力だけ残して竜王国へ向かうしかないな」


 俺の過去の記憶からすると、戦力を分散させることで死んでいる嫁もいるので、戦力の一極集中を考えて行動している。


 魔王国とヴィーンゴルヴを見捨てることになるが、恨まれて憎まれたとしても、嫁か国かを選ぶなら嫁を取る。

 為政者として最低の行動だけど、俺は一番大切なものを取る。


 俺は近くの指揮官に命じてこの場の解散を命じる。

 そして、収納霊術(インベントリ)を発動させる。

 同盟の話を打診すべく機械人製の通信機器を取り出した。


 ---


 機械人に通信機器で連絡をつけると二日後に魔王国に向かうとの連絡をもらった。

 魔王国の人に目撃されると困るので、前にアスピドケドロンを狩りにいったバルトロメア海の海岸で落ち合う約束をつけた。


 あそこには転移魔術(テレポーション)施設が設置されているので、魔王国からの移動が楽だ。

 さらに開発計画を立てているがまだ人の入りはない。

 機械人たちと話をするにはベストポジションと言える。


 機械人、オメガ・キベルネテス。


 直接会うのは二回目になる。

 オメガは大丈夫だろうけど、勇者やカイゼリン・ガイストはいきなり襲いかかってきたりしないだろうな。

 まるっと信用して痛い目にあうのは嫌なので戦闘準備をしておこう。


 創造神の指環(デア・スピーリトゥス)を指にはめる。

 対消滅障壁魔術(シェルター)で身を守り、英雄憑依霊術ヒロイックアクティベーションで身体能力を上げる。


「悪いけど、ラテラノは隠れてもらっていてもいいか? いざってときは魔王国に戻って転移魔術(テレポーション)施設を破壊して欲しい。気休め程度の時間稼ぎだけどね」


「……わかった」


 口をへの字にしたラテラノはくるりと踵を返す。

 転移魔術(テレポーション)施設の陰に隠れた。


 カイゼリン・ガイストがラテラノにいきなり襲いかかったりでもしたら大参事だ。

 あらかじめ隠しておいた方が大人しくしてくれると思うんだよ。

 話がこじれても嫌だしね。


 さて、残るは会合場所のセッティングだな。


 転移魔術(テレポーション)施設から一○○メートルほど距離を取る。

 平らな土の上にサモン・リビングインテリアを呼び出して、四人分の椅子と丸テーブルを設置する。


 約束の時間まであと三○分。

 俺は収納霊術(インベントリ)から取り出した果汁ジュースを飲みながらのんびりと時間が過ぎるのを待つ。


 足元にいたヤシガニと戯れつつ、遠くの雲の流れをぼんやりと眺めつつ、だんだんと眠気が忍び寄ってくる。


 そこへ。

 砂を踏みしめる音が聞こえてきた。


「……早いですね。お待たせしてしまいましたか」


 キュゥゥィィン、と小さな駆動音が聞こえる。

 顔を上げると申し訳なさそうに頭を下げるオメガ・キベルネテスの姿があった。


「そうでもないさ。気にするなよ」


 オメガの後ろには勇者とカイゼリンとマリルーの姿がある。


 勇者は射殺すような目でこちらを睨み据えている。

 剣も盾も持っていないが即座に動けるように構えている。

 その気になれば一呼吸で武装して斬りかかってくるだろう態勢だ。


 カイゼリンはそわそわと刀の唾をいじって、うっとりとした顔つきでちらっちらっと視線を送ってくる。

 誘いか、誘ってるのか。

 そんなセクシーな視線を送られても絶対に戦わんからな。


 唯一、マリルーだけは済ました顔で佇んでいる。

 彼女だけがこの場の目的をしっかり理解できている。


 ……不安しか感じられん。

 ラテラノを隠してきて正解だった。


「まあ、座ってくれ。ゆっくりと話そう」


 俺は紳士的な対応で乗り切る。

 相手側の態度にまったく頓着せずに用意しておいた椅子を勧めてやった。


 一同、着席して向かい合う。

 真っ先に口を開いたのは、オメガだ。


「同盟の話、受けてくれてありがとうございます。互いに干渉しないと約束はしましたが、状況が変わってきましてね。話を急ぎたかったのです」


「……理由は教えてもらえるのか?」


「はい、同盟を組むからには知っておいて欲しいことです」


「私たちは、仮想世界に散らばっている管理者実行権限アドミニストレーター・スキルを回収しています。この仮想世界においてもっとも優先順位の高い力です」


 うん、わからん。

 二つ以上新しいことを混ぜて説明しないでほしい。


「優先順位が高いってのはどういうことだ? 威力が高いじゃないのか?」


管理者実行権限アドミニストレーター・スキルは威力の問題ではありません。仮想世界のシステムに紐づく力なのです」


 例えば、と前置きしてオメガが足元にいた小さな貝殻を指差す。


「私は管理者実行権限アドミニストレーター・スキルのひとつ、これはある世界の、呪文、と呼ばれる力ですが、分解消去呪文(ディスインテグレイト)を使用できます。……見ててください」


 オメガが小さな貝殻に力を発動させると、貝殻は細かな光の塵となって消え去った。


「これで貝殻はこの仮想世界から消去されました。二度と、元に戻すことはできません。そして如何なる力であってもこの呪文を防ぐことはできない。管理者実行権限アドミニストレーター・スキルで相殺はできますけどね」


 あれを喰らったらこの世界から消滅させられる、さらには防御もできないらしい。

 背筋にひやりと汗が伝う。

 オメガと戦うのは危険だなと改めて実感する。


「話しを急ぎたいって言うのは、その管理者実行権限アドミニストレーター・スキルってのに関係しているのか?」


「そうです。ナガレさん、あなたは管理者実行権限アドミニストレーター・スキルを所持している。……霊術です。霊術の使い手は複数いますが、事象改変霊術(アルゴリトミ)まで使いこなせるのはあなたしかいない。あとは未確認ですが、魔法少女の力である魔法も習得されているとか……。時間停止(タイムストップ)も使えるのではありませんか?」


「ああ、使える。そんな重要な力だったんだな」


 時間停止(タイムストップ)は決まってしまえば無敵に近いスキルだ。

 しかし、管理者実行権限アドミニストレーター・スキルってことは管理者の力なんだよな。

 何故に仮想世界に取り込まれた人々の力に紛れ込ませてあるんだろうか。


「ご想像の通り。管理者の力が仮想世界にばらまかれた原因。それが、仮想世界を脱出する理由、管理者実行権限アドミニストレーター・スキルを集める理由に繋がります」


 言葉を置き、一呼吸。

 オメガは先を続ける。


「これは私の見解です。仮想世界のシステム管理者はすでに破壊された。もしくは、管理者実行権限アドミニストレーター・スキルを使用できない状態にあると考えています。何らかのリスクを抱え込んだため、仮想世界の強者のみが使えるスキルの中に管理者実行権限アドミニストレーター・スキルを紐づけたのだと思われます」


「……それは、仮想世界を乗っ取られたり、破壊されないために……?」


「おそらく。この仮想世界は、フェミニュートは外部から攻撃を受けて壊滅状態にあると考えています」


 外部からの攻撃。

 俺の記憶にあった白ワンピースの女が侵略者なのだろうか。


「外部から攻撃を受けているのに仮想世界が破壊されないのはなんでだ? コンピューターなら壊してお終いだろう?」


「侵略者が物理的な体を持たない生物の可能性もあります。粒子や電気、微生物、ガスに潜む知的生命体である場合は物理的な破壊は一切行わずにフェミニュートのシステムの掌握を狙いとするはずです」


「そんなものあるのかよ?」


「ナガレさんの世界にも存在するではありませんか。ネットワークの電気信号の中を移動して蔓延するコンピューターウイルスのような存在です。もっと高度な知性を備えていると思いますけどね」


「ふむ、なるほどね」


 何となく話が見えてきた。

 管理者実行権限アドミニストレーター・スキルを集めているのは外部からの侵略者に奪われないためか。

 そして、仮想世界での戦いであるならば管理者実行権限アドミニストレーター・スキルは無双の力。

 戦力充実も考えて集めておくに越したことない。


「最終的には侵略者と戦うために管理者実行権限アドミニストレーター・スキルも使うんだろう? そのときが来たら一緒に戦うよ」


 オメガは赤い目の光を瞬かせる。


「……そうですね。宜しくお願いします」


 俺とオメガの同盟の話は続く。


 竜王国での神獣戦では、オメガ、勇者、カイゼリン、マリルー、が参加してくれる約束を取り付けた。

 また、魔王国やヴィーンゴルヴに気づかれない距離から防衛を担ってくれることとなった。


 神獣戦と魔王国の安全についてはこれで対策が上手くいったと思う。


 最後に、俺は過去の記憶について話をする。

 特に陽織の毒についてはオメガにお願いをして解毒剤をもらえるよう手配した。


 オメガ曰く、ガイストが無害化された状態で潜伏して変異するのははじめてだと驚いていた。

 カイゼリン・ガイストが目の前に座っていることを考えるとかなり不安があるんだが。


 機械には感染しないから考えてなかったかもしれないけど、早く対策してほしいものである。


 ほっと安心して肩の力を抜く。

 これで一仕事が終わった。


 あとはきっちりと死亡フラグをへし折ってやる。

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