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第百十一話 「マインドチェンジ」

 誰かが肩を揺さぶっている。

 とても良い気分で眠っていたのに何事か。


 俺は気づかない振りをして寝返りを打とうとする。

 が、いきなり胸ぐらを掴みあげられる。


「さっさと起きんか!」


 そして、左頬に右頬にとビシバシと平手打ちをかまされた。


「……アウローラ、やり過ぎ……」


 うっすらと目を開けると、目尻をつり上げたアウローラとドン引きの陽織の顔が見えた。


「ひでぇ……、いきなり催眠の魔法を掛けられたと思ったら平手打ちで起床とか……、DVとか、家庭内暴力かよ……」


「お黙りなさい。こんな深刻な事態を隠しておいて……、わたくしたちの怒りはこんなものじゃ済みませんからね」


 両手を腰に当てて仁王立ちをするのは、セリアだ。

 顔は阿修羅の如く。

 しかし、微笑みは絶やさない。

 目だけが怒っている。


「ま、まあまあ……、落ち着きましょう。これからちゃんと話し合えばいいのですから」


 シャウナはアウローラとセリアを宥めつつ間に入る。


 この様子から察するに隠し事はすべて知られてしまったのだろうか。

 確認のためにやんわりと尋ねてみる。


「……それで、皆は全部知ったのか?」

「うん、私たちは死ぬんでしょ」


 山なりのボールを投げたらド直球のボールが返された。


「おい……!? お前な……」


 あっさりと陽織は言う。

 何のショックも受けていない様子に拍子抜けしてしまった。

 もっと取り乱すものかと思っていたってのに。


「レイキがわたくしたちを守ろうとしてくれるのは嬉しいですが、守られているだけのつもりはありませんわ」


 口を尖らせるセリア。

 アウローラは腕組みしながら鼻を鳴らす。


「我らを侮りすぎだ。仮にも余は一国を率いていた王。セリアもだ。シャウナは数百年を生きている魔族である。陽織は年齢相応であるが、余たちにひけを取らぬくらい胆が座っている。死に恐れて縮こまるようなひ弱な性格ではないぞ」


 力強く頷く面々に付け加えるように言葉が続く。


「もっと信頼してください。私たちは、生きるも死ぬもレイキと共に進むつもりなんですから」


「そういうことよ。レイキは気にしすぎ」


 いや、まあ、その通りかも知らんけどラテラノやシギンもいるわけだしオブラートに包もうぜ。


 俺は目だけで件の二人を窺う。


 ラテラノはじっと自らの天球儀(アニムス・オルガヌム)を見つめている。

 一言一言を噛み締めるように呟く。


「死ぬのは怖い。でも、戦わなければいけないのなら……私は怖れない。まだ、言葉だけの気持ちだけど、いずれは、きっと」


 追ってシギンが口を開く。


「仮想世界に侵入は任務ですからね。死ぬ覚悟はしていますよ。……本物(シギン)も言いたいそうなので替わります」


 シギンの雰囲気がスルリと入れ替わる。


「……あたしは病気で死んじゃうところだったのでいまさらです。ライルはどお?」


「私の魂は本物(シギン)と共にある。モニーとエクスもだ」


 最後に控えめにレギンレイヴの声が聞こえてきた。


「……本官は完全に蚊帳の外であるが、任務とあれば命を懸ける。それは当然のことだと考えている」


 ええ、ええ、そうですか。

 皆さん覚悟がありすぎるだろ。


「わかったよ、皆で頑張ろう。ハッピーエンドのためにな」


「それで良い。これからのことをきっちりと話し合おうではないか」


「……それで、俺から全部を話せばいいのか?」


 催眠状態のときのことはサッパリ覚えていない。

 俺は何をどこまで話したのだろう。


「いや、それでは足りない。レイキはシームルグの夢で見た断片しか知らんだろう。実際のお前の記憶はそれ以上を知っているぞ」


「そりゃ、どういう……」


「それを余が説明してやろう」


 アウローラは胸を張ると自信たっぷりに話はじめる。


 俺の記憶では、シャウナとの出会いから皆の死を迎えるところまでを三回は繰り返しているそうだ。

 俺は覚えていないのだが、記憶では残っているのだとか。


 エンドレス○イトかな。

 カケラが足りないのでループしますってか。


 でも、少しだけ思い当たることがある。

 激しい頭痛で知らないはずのことを思い出すのは、残された記憶が脳裏に浮かんでくるってことか。


「俺はどうやって過去に戻っているんだ?」

「それはわからんな。魔術か魔法か、何かを発動しているようだったが……」


 魔術か魔法か。

 時を止める魔法があるなら、巻き戻せる魔法もあるのかもしれない。


 それはあとで考えよう。

 話を戻す。


 皆の死のタイミングは変わるらしいのだが、必ず誰かが死ぬ出来事があるそうだ。


 ひとつめ、神獣戦。

 ふたつめ、マギア戦。

 みっつめ、フェミニュート戦。


 さいごは、正体不明の人物と機械人オメガ・キベルネテスとの戦い。


「その正体不明の人物ってのはなんなんだ?」

「わからん。……白いワンピース姿の女だ」


 白いワンピース姿の女はつい最近出会っている。

 シームルグが夢の中で姿を真似ていた女だ。

 俺がもっとも恐れる存在とか言っていたな。


「と、言うことはだ。ラスボスは白ワンピの女とオメガってことか」

「オメガは外して良い。お前の記憶では共闘している過去もあった。同盟を組まないと敵対するのだろう」


「なるほどねえ。じゃ、もうやるしかないじゃん。機械人と同盟を組むのは皆はオッケーってことでいいのよね?」


 陽織の同意を求める声に一同は頷く。


「不満はありますけれど仕方ありませんわ」


 セリアは肩をすくめると苦笑する。


「あとは。これからどう動くか、誰が動くか、ですね」


 うおー、ようやくここまで話が来たか……。

 俺は心のなかでガッツポーズを作る。


 本当は催眠を掛けられていなければ、同盟の話の次にしようと考えていたのだ。


「それには考えがあるんだ。竜王国の支援についても絡む話だから、聞いてもらってもいいかな?」


 皆の視線が向く。


「聞かせてもらおうではないか。レイキの策、期待させてもらうぞ」


 アウローラの煽り文句に難易度が急上昇した気がする。


「そんなに期待されても困るんだけとな……」


 俺は竜王国での神獣戦を見据えて考えていた作戦を説明し始めた。

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