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第百九話 「説明会、からの」

 俺はセリアを連れて離宮まで歩く間に、シームルグに見せられた夢を思い出す。


 リヴァイアサンと戦っていたのは、俺とセリアとシャウナだった。

 周りの風景はどうだったか。


 リヴァイアサンが引き起こした豪雨で視界が悪かったが海上ではなかった。

 おぼろげに思い出されるのは山林と崩れた山肌。


 前にセリアに竜王国の話を聞かせてもらったことがある。


 夏は涼しく、冬は雪に覆われる、山と森に囲まれた静かな小さな国。

 深い山林の奥には地竜が住み、竜人、リザードマン、など竜族に関わる人々も暮らしているのだとか。

 人族は海沿いの僅かな平原地帯に街を造り住んでいると言う。

 リヴァイアサンと戦っていた場所は、確証はないけれど竜王国なんだと思う。


 あと思い出すべきはリヴァイアサンのことか。


 シームルグの夢の中ではリヴァイアサンは空を飛んでいた。

 あの巨体が空を飛んで襲いかかってくると考えると肝が冷えるな。


 人が住んでいる場所からは離れて戦わないと大変なことになってしまう。

 注意しないとな。


 それにセリアを食い殺したリヴァイアサンの分身の存在があった。

 前回の戦いでは見せてこなかったから、隠し持っている能力か、何らかの新しい能力を体得したのか。


 セリアを狙ってくることを考えた守りを何か考えておくとしよう。


 あとは……。


「レイキ! ……いったいどこまで歩いて行ってしまうつもりですか?」


 ふと気が付くと、セリアの顔が鼻の先にあった。


 言われて辺りを見渡すと、魔王城の離宮を通り過ぎて中庭を半分ほど歩いてきてしまっていた。

 あと数歩前に進むと中庭の小川にダイブするところである。


「ごめん、考え事をしてたんだ」


「まったく。……せめて落ち着いた場所で考え事をしてくださいな」


 セリアは腕を組んでジロリと睨む。


「それで。何をそんなに考えていたのですか?」


 夜にも皆に同じことを話すことになる。

 今のうちにセリアに話してしまうと二度手間になるけど、同じ話を聞かせてもセリアなら黙って聞いていてくれるだろう。


 俺はポツポツと考え事を話しはじめた。


「……ティアマットを復活させたのは神獣の誰かだ。だから竜王国では神獣たちと戦うことになると思うんだ。神獣たちを相手にどうやって戦えば被害が少ないかを考えていたんだ」


 リヴァイアサンとシームルグの二体を相手にしても倒せなかったのだ。

 イルミンスールとフェニックス、そしてティアマットが加われば苦戦はおろか負けることだってあるかもしれない。


 セリア一人ではまず勝てないだろう。


「わたくしに護衛をつけるとおっしゃったのも、神獣のことを考えて?」


「うん。今回ばかりは全員でいったほうがいいと思ってね」


 エイルがいないのは痛手だが、陽織、シャウナ、セリア、アウローラを主力。レギンレイヴを輸送役。ラテラノを支援とする。

 シギンとライルは転移魔術(テレポーション)施設を修理してもらわないといけないので留守番だ。


「全員ですの!? 魔王国の守りはどうするつもりですか?」


「それも考えているよ。皆が賛成するかがわからないからちょっと怖いけど」


「もしや、同盟の話とやらに関係が? 機械人に防衛を任せるつもりですか?」


 その通りだ。

 もし断られないのであれば、キベルネテス達に魔王国の防衛を任せようとは考えていた。


「半分を頼もうと思ってる」


「半分……?」


 セリアはどういうことかしら、と可愛らしく首を傾げた。


 その日の夜。

 魔王城の離宮にいつものメンバーを集めた。


 夕食も終わっていい時間になりつつある。

 明かりの落ちた居間にユラユラとランプの明かりが揺らめいている。


 さて。

 エイルのメイド服姿が居ないのが残念だが面子は揃った。


 ソファにちょこんと座った陽織。

 唐突に増えた九本の尻尾のおかげでお尻が重いと嘆いているシャウナは床に座っている。

 ラテラノはシャウナのモコモコの尻尾で遊びながら絨毯に寝転がっている。


 居間のお気に入りの椅子に足を組んで腕を組むアウローラ。

 同じく椅子に淑やかに座るセリア。


 ライルは部屋の隅に直立不動の姿勢で佇んでいる。

 シギンはラテラノの隣で欠伸を噛み殺しながらシャウナの尻尾に寄りかかっていた。


 残念ながらレギンレイヴは離宮に入ってこれないので通信機器をスピーカーモードにして会話を聞いてもらうことにした。


「今後について、話したいことがあるんだ」


 俺はドキドキしながら話を切り出した。

 まずは竜王国を支援することについて話してから、機械人たちとの同盟について提案しよう。


「もう知っている人もいると思うけど、竜王国を支援することになった。……全員で行こうと思っている」


 皆の視線が集中する。

 一様に思ったことを口にしようとして留まったような雰囲気だ。


 皆を代表するようにアウローラが口を開いた。


「……魔王国の守りをどうするつもりなのだ? 神獣やマギアのような異世界の敵が現れた場合に対処ができなくなるぞ」


 神獣は竜王国にいる。

 マギアはこの前に消滅させたもの以外に存在しているかもしれないけど、少なくともミシュリーヌや地球周辺にはいない事は確認済みだ。

 その他の脅威については来ないでくれと祈るよりほかない。


 ともかく全員が出払っても問題ないと、俺は考えている。


「守りの半分はヴィーンゴルヴのカイザーガイスト部隊と魔王軍に任せたい。大きな脅威は来ないと思っているからね」


 カイザーガイストは、その空戦能力と索敵能力で魔王国に接近する敵をいち早く察知できる。

 魔王国周辺の草原や街の安全確保は、魔物の対処だけになるので魔王軍だけでやれるはずだ。

 やってもらわないと困るわけだが……。


 狐耳をピコピコと揺らしてシャウナが尋ねてくる。


「半分とは、どういうことでしょうか?」


「……もう半分は、機械人キベルネテスに頼む。同盟を組もうと考えている」


 室内の気温が下がったような気がする。

 張り詰めた空間にカチカチカチと時計の針が進む音だけが響く。


「キベルネテスとは、誰?」


 沈黙を破ったのはラテラノだ。

 彼女はキベルネテスの陣営であるカイゼリン・ガイストと出会っているけど、キベルネテスとは直接の面識がないのだった。


 隠しても仕方がないのでラテラノにキベルネテスのことを説明してやる。

 案の定、ラテラノは不審な眼差しを向けてきた。


「あんな危ない人と何故、同盟を組むの? 信用できない」


「それは……」


 同盟を組む理由か。

 言うべきか言わざるべきか。

 ストレートに言えばシームルグの夢が現実に起こる気がしてならないからだ。


 恐らく、あくまで恐らくとしか言えないんだけど、俺が予想している未来は次のようなものだ。


 まず。

 カイゼリン・ガイストがラテラノと戦っていたこと。

 マリルーがリヴァイアサンとの戦いに介入してきたこと。

 二つの事実から推測するに、キベルネテスはアトランティス・ステルラの行方を追っている、と考えている。


 キベルネテスとの同盟を組まなかった場合、竜王国で神獣達とキベルネテス達と三つ巴でアトランティス・ステルラの奪い合いをすることになる。


 そして、その戦いの最中にセリアとシャウナが死ぬ。


 前後するかもしれないけど、陽織がカイゼリン・ガイストの毒によって死ぬ。


 時系列は不明だけど魔王国も滅びる。

 どこからか湧き出したマギアの群れに襲われて、アウローラとラテラノが死ぬ。


 何の策も講じずにいると、皆は死んでしまうことになる。

 そこで同盟だ。

 同盟を組んでおけば死亡フラグを回避することができる。


 カイゼリン・ガイストの毒に関しては相談ができる。

 竜王国での戦闘は神獣達に対抗して共同戦線を組める。

 アトランティス・ステルラの行方はどうなるかわからないけど、これもキベルネテスに探している理由を尋ねてから扱いをどうするか交渉できる。


 魔王国を滅ぼすかもしれないマギアについては、キベルネテス達と同盟を組んでいれば竜王国から瞬時に戻ってくることも可能だと考えている。

 あいつらは瞬間移動で魔王国から立ち去っていたからね。


 キベルネテス達と同盟を組めば、俺が懸念しているあらゆることが解決または対策できるのだ。


「ラテラノちゃんの言う通りで信用できないのよね。……私たちは一方的にボコボコにもされてるし、ぶっちゃけて言えば嫌だけど……、玲樹はなんで同盟を組もうなんて考えたの? それが気になるわ」


「そりゃあ、その、今後の事を考えてだよ」


 陽織の感情的な理由から納得できないのはわかる。

 キベルネテスに持ちかけられた仮想世界の脱出についてをここできっちりと話しておくことにする。


 俺は魔王国を攻めてきた連中を撃退した後に、同盟の話についてキベルネテスから提案があったことを明かした。


「……俺たちだって仮想世界を脱出したいだろ? キベルネテスたちは仮想世界の脱出を計画しているらしいから、俺たちも便乗させてもらおうってことさ」


 同盟の話について余すことなく説明をしたが、シャウナから疑問の声が上がった。


「しかし、仮想世界の脱出を持ちかけられてもレイキは一度断っていますよね。どうして今になって同盟を組もうと考えたのですか? 仮想世界の脱出に便乗するのであれば、最初のコンタクトの際に断る必要はなかったのではありませんか?」


「あ、あのときは皆を攻撃されて腹が立っていたし、すぐに受けるのは気に喰わなかったんだよ……」


「ほお、では何故今になって信用するのだ? ……まるで同盟を組まないと先がないかのように聞こえてくるのだがな」


 アウローラの瞳がきらりと光る。

 隠し事を知っているぞ、と言わんばかりの疑いの目が向けられている。


「もちろん、皆が反対だと言うなら同盟はしないけど」


「同盟が反対なわけじゃありませんわ」


 セリアは椅子から立ち上がると、俺の左腕をそっと掴む。

 やんわりとソファに連れていかれる。


 ソファに座ると同時に右側にアウローラが座る。

 いつの間にか背後にシャウナが回り込んできていてがっちりと肩を掴まれた。

 そして、目の前に陽織がやってきて頬を両の掌包み込む。


 なにこの、イン○リアルクロスの陣形は。


「……なんか隠してるでしょ」


 じっとりとした視線が四方から浴びせかけられる。


 精神統一霊術(クールマインド)を掛けているから表情の変化はない。

 抵抗魔術(レジスト)も掛かっているから真偽看破魔術(ディテクト)も効果はない。


 俺は努めて冷静に対応する。


「隠してないよ、何を言ってるんだ陽織は……」


 そこへ、アウローラの声が割り込んでくる。


「良いことを教えてやろう、レイキ。親しくあればあるほどに些細な違和感にもよく気づく、……それが女と言うものだ。そして違和感の正体を知りたいと思うのも(さが)と言うものだ」


 アウローラは立てかけていた(アニムス・オルガヌム)をズラリと抜き放ち、魔法を発動させた。

 一枚の金色のカードがアウローラの手に落ちる。


「魔法には便利な技がある、……我がカードよ、見通せ」


 アウローラの右目に不思議な文様が浮かび上がる。


「幻術にも便利な技があるんですよ、レイキ」


 次いで、背後にいたシャウナが耳元で告げる。

 ぞわりと走る悪寒に振り返る。

 シャウナの掌から怪しげな紫煙が立ち上り、俺の鼻先に迫ってくる。


「ちょ、お前ら……! 強引過ぎるだろ!?」


 咄嗟にソファから立ち上がろうとするが、陽織とセリアが本気の力で締め上げてきている。


「ライルたちも見てないで何とか言ってくれよ!」


 壁際に立つライルは肩をすくめるばかり。


「私もお前の隠し事が知りたい。何らかの重要な事を隠しているのであれば、裏切りと謗られても仕方のない事だぞ」


「隠しているわけじゃなくてだな!?」


 ラテラノは相変わらず絨毯に寝そべったままこちらを見上げている。

 達観した顔でビシッと指を突きつけられた。


「……浮気は良くない、ナガレ。誠意を持って説明すべき」


「誤解を招く様な事を言うな!」


「レーキがちゃんと説明すればいいだけなのに。自業自得です」


 最後に溜息をついたシギンが締めくくる。

 俺の味方は誰もいないという事らしい。


「じゃあ、素直に話してもらおうかなあ――」


 ムフフと笑う陽織の顔が近づいてくる。


 抵抗魔術(レジスト)では魔法の効果や幻術の効果は完全には防げない。

 あっという間に頭がぼんやりとし始めて視界がぐにゃりと歪んでいく。


 体がふんわりとした感触に包まれて俺の意識は不透明になっていった。

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