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第百六話 「訪問の前に」

 俺は軽く風呂で汗を流してから汚れた学生服を着替える。

 清潔魔術(リフレッシュ)修復魔術(リペア)を使えば元通りの服装になるけど、横着をすると陽織から怒られるからな。


 ちなみに大魔王の正装は変わらず学生服の上から金銀刺繍のマントを羽織るだけだ。

 魔王国では学生服は高貴な身分の衣装という事になっており、 大魔王か大魔王に近しい身分のものしか着用することは許されない。

 俺がいま袖を通している学生服も魔王国の仕立て屋が丁寧に仕上げた逸品、らしい。


 日本じゃ多くの少年少女が着用している一般的な衣服だと伝えにくい状況になってきたな。

 まあ、魔王国の人が日本にいくことはないだろうし気にすることはないか。


 と、そこへ風呂上がりのシャウナとラテラノが現れた。

 さすがにラテラノと一緒に入るわけにいかないので二人は別の浴場を使ってもらったのだ。


「シャウナとラテラノはそのまま休んでくれ。疲れただろ」

「うん、……おやすみ」


 ラテラノはダボダボのパジャマ姿で頷く。

 ペタペタと足音が遠のいていった。

 しかし、シャウナは納得いかないのか外行きの格好のままだった。


「レイキが働いていると言うのに私が休むのも……」

「俺が倒れたらシャウナたちに頑張ってもらわないといけないんだぞ。いまは休んで体力を回復させておいてくれよ」


 援護とばかりにアウローラと陽織の声も続く。


「いまのいままでレイキと暴れてきたのだ。余にも少しは活躍の場を寄越したらどうだ」

「そうそう。こっちは留守番ばっかりで退屈してるのよ」


 単純にキミたちは暴れたいだけなんじゃないだろうね。

 血の気の多い嫁たちで困ったものである。


「とにかく、いまは休んでほしい。まだ神獣との戦いも残っているし、他の敵も現れるかもしれないからね」

「……わかりました。レイキも休憩を忘れずに。あなたが一番働いているんですからね」


 シャウナはいそいそと寝室へと戻っていく。


 残るは一人。

 姿の見えない彼女が気になる。


「エイルはまだ戻ってきてないのか?」

「魔王国に設置されていた転移魔術(テレポーション)施設が破壊されてしまったからな。連絡がつかない。施設の修復はシギンに任せているが、あと二日はかかるそうだ」


 原因は数日前のマギアとの戦闘だ。

 魔王国との転移魔術(テレポーション)を繋いだ状態で攻撃を受けたので、ダメージの余波が魔王国側の転移魔術(テレポーション)施設に及んだらしい。


「何も起きてないといいんだけどな……」

「日本に続く転移魔術(テレポーション)施設は起動してなかったって話だから巻き込まれてはいないと思うんだけどねえ」

「修理を待つしかないか」


 心配の種は多いが考えに耽っているだけでは物事は解決しない。

 まずは竜王国の件に片をつけるとしようか。


「イニアスさんに会う。会議室まで案内してくれ」


 陽織が揃いの学生服のスカートを翻し、アウローラが魔王国将軍の服をバサリと羽織る。

 俺が着替えをしている間に二人も準備をしていたらしい。


「では、行くとするか。余も同行しよう」

「私もついていくよ」


 イニアスとの交渉をうまく進められるかわからないし一緒についてきてくれるのはありがたい。


「よろしくな」


 俺は陽織とアウローラに連れられて魔王城へと向かった。


 城内に踏み込むと、働く人々の姿が目に映る。

 道行くメイドさんや官僚たちが一礼して通り過ぎていった。


 皆の顔と雰囲気を見て少しだけ安心する。

 機械人が攻めて来たり、リヴァイアサンの洪水で水浸しになったりと、騒がしい魔王城であったが働く人々に緊張や不安は感じられないからだ。


「意外と皆、普通にしているな」

「普通にとは、どういう意味だ?」

「いろいろ攻め込まれただろ。結婚式をやったり気分転換の行事はやったけど、攻めてくる敵がいるってことで魔王国の人たちが不安になってやしないかって思ったんだよ」


 竜王国のティアマットの話も旅人経由で話が入ってくるだろう。

 心配になる人々もいるんじゃなかろうか。


「それは、……アリチェ僧正のおかげであろうな。彼女は教会で大魔王についての説教を聞かせているらしい」


 アリチェは教会の説教の中で大魔王の話をよくするんだそうな。


 曰く。

 魔王城が攻撃されたのは市民を守るために市街地から城へと誘導したからである、とか。

 誘導のおかげで市街地の被害は最小限に住んでいるのだ、とか。


 その他侵略の手があっても目立たぬように処理して下さっているのだ、とか。

 数日前に移住してきたタヌキのような生物も大魔王様が他所の世界で滅びの危機に瀕している種族に手を差し伸べられたからだ、とか。


「おい……、なんか、ちょっとだけ違うぞ」


 大概が都合の良い形に解釈されているのが非常に恐ろしい。

 リヴァイアサンが魔王城を襲ってきたのはラテラノがいたからだし、市街地に被害が出なかったのはたまたまだ。

 侵略を目立たないように処理しているわけでもないし、妖獣族を救出したのも約束があったからだ。


 大魔王は聖人君主じゃないんだぞ。

 ……怖いのが魔王国の人々が信じちゃっているところなんだよな。


「評判が上がって悪いことなど何もない。アリチェの好きなようにさせておくがいい」

「でもさ、アリチェに説明をしたのはアウローラなんだろ? 計算ずくだろ?」

「フッ……否定はしない」


 アウローラは実に悪そうな笑顔を浮かべる。


 できれば程々にしてほしいものだ。

 どんな迂闊な行動もできなくなってくる。

 もっと気楽にやらせてほしい。


「玲樹は素の行動が思いやりのある行動だから、特に何も考えずやればいいのよ。難しく考えないでさ」

「それって、俺がすごい馬鹿みたいじゃないか」


 すると、陽織が胡乱げな瞳を向ける。


「頭がいいと思ってたの?」

「……おいッ!?」


 もうちょっとオブラートな表現で伝えてくれないか。

 鈍い俺の心でさえも粉々に砕け散りそうだよ。


「ごめんごめん。言いたいのは、玲樹は思った通りに行動してくれればいいのよ。至らないところは私たちが何とかするわ」

「……わかったよ。ありがとう……」


 小馬鹿にされているところは変わっていないような気がするが、まあ、事実だからしょうがないのかもしれない。

 俺のダメな部分を支えてくれると言うのだから甘えさせてもらうことにしよう。


 昔からそうだったしな、――これからもよろしく頼む。


「話はそこまでだ。ついたぞ」


 アウローラが指差す会議室。

 扉の前には二人の衛兵が立っていた。


 俺たちの姿を認めると会釈をして扉の前を空けてくれた。

 アウローラは軽くドアをノックする。


「アウローラだ、入るぞ」


 短く入室を告げると扉を開け放った。

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