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第百五話 「裏切りの使者」

 魔王国に戻ってこれたのは、マギア消滅を確認してから一日後の朝だった。

 道中、交代で仮眠を取ったものの体力全快とは言えない。


 シャウナもラテラノもやや疲労を滲ませている。


「戻ったか!」

「玲樹!」


 魔王国の離宮に降り立つと、あらかじめ連絡しておいたアウローラと陽織が駆け寄ってきた。

 両側からアウローラと陽織に抱きつかれてよろめく。


「だ、だいじょうぶ、玲樹……?」

「ああ、平気だよ」


 俺がふらついているのを見て、陽織が心配そうな顔をしている。

 せっかく疲れていない風を装っていたのに台無しである。


 が、努めて明るい顔で皆に声を掛ける。


「疲れているところ悪いんだけど、休む前に情報を整理したいんだ。皆、いいかな?」


 この場にセリアが居ないことが気になる。

 それに、エイルもだ。


「わかった。では、離宮の居間で話そう。すでに修繕は終わっている」


 アウローラに誘われ、一同は離宮の居間へと移動する。

 陽織が紅茶をいれてくれて皆が一息ついたところで情報交換をはじめる。


 まずは、俺たちが魔王国を出発してからのことを話す。


 リヴァイアサンとシームルグからラテラノを救出したものの、アトランティス・ステルラを奪われてしまったこと。

 シームルグの魔法により昏睡状態になったこと。

 他の異世界の住人に助けてもらったこと。

 他の異世界を襲っていたマギアを殲滅したこと。


 それと、ラテラノの耳飾り、創造神の指環(デア・スピーリトゥス)についてもこの場ですべてを話しておいた。

 このままラテラノの耳飾りを借りていて良いか尋ねると、一も二もなく承知してくれた。


「元々はイシュトバーン様から譲られたただのアクセサリー。使ってもらえるなら、ナガレに譲る」

「貰ってしまうのはまずくないか? 形見みたいなものだろう?」

「ナガレが使えば無双の武器になる。形見のままにしておくのは、きっとイシュトバーン様も望まない」


 ラテラノは譲渡するといって憚らなかった。

 が、創造神の指環(デア・スピーリトゥス)の性能を引き出せることと、相応しい持ち主であるかは別だと思っている。


「……貰うのは気が引けるから預かるってことにさせてくれよ。大切に使うからさ」


 いつかラテラノが創造神の指環(デア・スピーリトゥス)を扱える魔法少女になる日がくるかもしれない。

 または、イシュトバーンの弔いをする日に形見の品が必要になるかもしれない。


 そのときまで、俺が使わせてもらうことにしよう。

 ぜったいに無くさないように壊さないようにしないと。


 以上で俺たちの話は終わりだ。

 続いてアウローラが口を開く。


「こちらは特に何もなかった。リヴァイアサンの被害を修繕していたくらいで敵が現れることもなく平和だった。だが、ある客が来てな……」

「お客?」

「イニアス・オブシディアン、……竜王国のお目付け役、のようなものだ」


 どこかで名前を聞いたことがあるような気がする。

 竜王国って話だからセリアから聞いたのかな。


「用件はなんだったんだ?」

「支援をしてほしいとのことだ。竜王国でドラゴンゾンビが現れたらしい。……神獣ティアマットのドラゴンゾンビだ」


 初耳の俺とシャウナにビリリと衝撃が奔った。

 ラテラノはいまいち理解しているのかいないのか、無表情のまま聞いている。


「ティアマットのドラゴンゾンビはどんな具合なのです?」

「……意思があるそうだ。イニアスの話では、竜王国に預けた魂を返してもらう、と宣っているとか」

「神獣ティアマットをアンデットに変えた何者かが他にいるということですね」

「そういうことになるな」


 ティアマットの事も重要だけど、それ以前に別の問題があるだろう。


「支援してくれって、ずいぶん勝手じゃないか。セリアは竜王国の反乱で王様の地位を下ろされたんだろう? 助けてくれなんて虫が良すぎる」

「だからこそ、イニアスが来たのだろう。奴は反乱軍についた側だがセリアを幼少から知る唯一の人物だ。拗れないように話すには最適だろう」


 俺は感情的だ。

 嫌なことをされたら相手を斜めに見てしまうし、あまり裏を見れない性格だと自覚している。


 セリアは理性的だ。

 竜王国の支援が何かしらの利益につながると思えば救いの手を差し伸べるような気がする。


 しかし、ティアマットのドラゴンゾンビを相手にセリア一人で立ち回る気だろうか。

 俺たちに手を貸してほしいと頼むだろうか。


「セリアはどうするつもりなんだ?」

「いまはイニアスと話をしているところだ」


 俺は疲れた体に活を入れる。

 イニアスとセリアの大事な話だろうから皆は席を外したのかもしれないけど。


 ここは魔王国、俺が始めた国だ。

 そしてセリアは俺のお嫁さんだ。


 口を出す権利は十分にあるはずだ。


「セリアとイニアスさんはどこにいるんだ?」

「……王城、左翼の会議室だ。文句をつけに行くなら付き合うが、少しは身綺麗にしていくと良いぞ」


 言われて俺は自分の姿を見返す。

 上着を奪われ、土にまみれた学生服姿、畏怖魔術(フィアー)を使って誤魔化しても大魔王らしい威厳と言うものは皆無に等しい。


 急ぎ身支度を整えることになった。

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