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第九十四話 「押し寄せる脅威」

本章は複数の視点で書かれています。

 ---シャウナ視点


 ガトリング砲が唸りを上げて回転する。

 砲身から驟雨の如く弾丸を吐き出す。

 迫るディープシードレイクを瞬時に穴だらけにすると、休む間もなく飛び掛かってきたミストドラゴンに狙いを定める。


 レギンレイヴの側面に取り付けられている二門のガトリング砲は稼働限界だ。

 黒く焼け焦げた砲身からは煙が上がり、絶え間なく聞こえるシステムアラートにレギンレイヴが悲鳴を上げる。


誘導弾頭(ミサイル)、残弾なし。機銃(ガトリング)、左舷残弾一○○○。右舷残弾九○○。もう限界だ! 後退する!」

「いけません! まだ、レイキが……!」


 シャウナは返り血にドロドロになった髪を払う。

 シャウナとレギンレイヴは、シームルグを発見するために玲樹とリヴァイアサンの戦闘から離れた位置に陣取っていた。

 しかし、リヴァイアサンが体に潜ませていた魔物の群れを解き放つと戦場は混迷を極めた。


 数十万に及ぶ魔物の群れはほとんど玲樹へと向かっていったが、一部はセリアとラテラノへ、少数はシャウナとレギンレイヴへと襲いかかってきた。


 一匹、二匹ならともかく、少数とは言え何千匹のドラゴンの魔物だ。

 シャウナとレギンレイヴが相手にするにはギリギリの数になる。


 レギンレイヴの背中でシャウナは剣を振るい、時に魔術を放つ。

 戦いながら玲樹の様子を観察する。


 リヴァイアサンの目の前に、蚊柱のように魔物が集まっている。

 中心でチカチカと閃光が瞬くたびに魔物の群れが崩れる。

 玲樹は魔物の群れから距離を取ろうとしているが、あまりの大群に逃げきれないようだ。


 シャウナは別方向で戦っているセリアに念話魔術(テレパシー)で声を掛ける。

 無論、ダメで元々だ。


「セリア、そちらからレイキを援護できませんか?」

「……無理、ですわ……。こっちは、こっちで、……大忙しですの!」


 疲れたセリアの声が返ってくる。


 やはり余裕はなさそうだ。

 ラテラノはアニムス・オルガヌムを持っていないだろうから、戦力にならない。

 あの大群をセリア一人で相手にしなければならない。


 この状況でシームルグの魔法攻撃を受ければ、さらなる苦境に立たされてしまう。

 せめてシームルグを仕留めて不意打ちを避けたい。


 最後にセリアが伝えてきたシームルグの座標は、リヴァイアサン付近の空中だ。

 しかし、空には何もいなかった。


 姿を隠しているのかと思って、探知魔術(サーチ)遠視魔術(クレアボヤンス)で探してみたが見つからない。


 魔物を倒しながら必死に考える。


「レギンレイヴ、あなたは生命体の熱で居場所を特定できる機器を持っていると言っていましたね?」

「赤外線捜索追尾システムか? だが、いまは魔術やら魔物やらで其処ら中が熱だらけだぞ」

「シームルグとリヴァイアサンは巨大です。熱量を多く発生させる生き物だけを探せませんか?」


 なるほどな、とレギンレイヴが納得する。


「魔術で隠れている相手が探知できるか不明だが、やってみよう。魔物を頼む」

「わかりました」


 以前、玲樹と話をした。


 魔術に隠蔽魔術(インビンシブル)なる、己の姿を風景に同化させる魔術がある。

 あれは目の見えない生物の感覚を誤魔化すことができない。


 目の見えない生物は、魔力を探知してこちらを探っているのだとミシュリーヌでは言われている。

 ただ魔術を扱う知能すらない生物も隠蔽魔術(インビンシブル)見破ることがあり、特殊な能力をもつのだと考えられていた。

 しかし、玲樹が言うには熱や音を探知して標的を追う生物もいるのだとか。


 探知魔術(サーチ)では見つからなかったものが、赤外線捜索追尾システムでは見つかるかもしれない。

 シャウナはそれに賭けた。


「巨大な熱反応はひとつだ。シームルグはいない!」

「本当にひとつですか?」

「なに!?」

「重なっていたりしませんか!?」


 魔術で姿を隠している、は推測だ。

 シームルグが空中にいる、が事実だ。


 リヴァイアサンの体内も空中には間違いない。


「そうか! ……リヴァイアサンの熱反応は巨大すぎて……わかりにくかったが、確かに二匹の熱量があると言えなくもない」

「当たりですね」


 が、遅かったらしい。

 玲樹から念話(テレパシー)が届いた。


「口だ……! シームルグは、リヴァイアサンの口の中に……いる、ぞ……」


 そして、玲樹に集る魔物の群れで雷光が迸る。

 玲樹の魔術だ。

 白光が魔物の大群を真っ二つに引き裂いて、リヴァイアサンの咥内へと突き刺さる。


 リヴァイアサンの牙が数本折れて、宙に舞う。

 遠視魔術(クレアボヤンス)でリヴァイアサンの咥内を確認する。


「ダメです、シームルグは生きています」


 シームルグの翼に大穴が空いている。

 しかし、軽傷だ。

 リヴァイアサンの分厚く強固な牙がシームルグを守った。


 玲樹の周囲に無数の召喚魔術(サモン)の光が見えた。


 あれは、サモン・リビングソードだ。

 大量に召喚した魔物に一斉に闘術を使わせて、広範囲を攻撃する戦法だ。

 ヴィーンゴルヴの戦闘でも使ったと聞いている。


 数万本のサモン・リビングソードがリヴァイアサンと周囲の魔物に放たれた。

 サモン・リビングソードたちが使うのは闘術の自爆技、闘気爆散闘術オーラバニッシュメント

 連続する爆発光がリヴァイアサンを覆い隠す。

 閃光の眩さに戦場が止まった。


 シャウナもレギンレイヴも迫る魔物も光を見つめて静止した。


 だんだんと光が晴れていく。

 見えたのは、落ちていく玲樹の姿だった。


「……そんな、レイキ!? いったい何が……! 助けなければ……」


 リヴァイアサンの攻撃はすべて回避していたのを見ていた。

 閃光で姿を見失った瞬間にダメージを受けたのだろうか。

 それとも、シームルグの攻撃があったのか。


 シャウナはレギンレイヴに玲樹の処へ向かってと指示を出そうとした、そのとき。

 ディープシードラゴンの一匹がレギンレイヴの船体に取りついた。

 大きく口を開くと動力部の一基に食らいつき、力任せに食いちぎった。


 衝撃にガトリング砲が一基脱落。

 船体がガクンと傾いだ。


「……ッ!」


 シャウナは放り出されそうになり、寸でのところで船体の縁に爪を引っかける。

 好機と見た魔物たちが一斉にレギンレイヴにかじりついた。


 レギンレイヴの姿勢が崩れる。

 きりもみ状態だ。


「動力損傷! シャウナ、魔物を何とかしろ。このままでは墜落する!」

「ぐ……!? ……そう、……言われましても!」


 宙ぶらりんのシャウナは手の届く範囲に限界がある。

 さらには、動力が破壊されたことで船体が右方向に回転しながら墜落している。


 少しでも油断すれば、手が滑り、まっ逆さまに落ちることになる。


「……いかん、あの大陸に着陸する!」


 レギンレイヴは魔物に食らいつかれたまま飛び続ける。

 不時着できる場所を求めて、近くに見えた陸地を目指した。


 ---ラテラノ視点


 玲樹が落ちていく姿を見て、ラテラノはセリアの腕から飛び出した。


「ナガレを助ける……!」

「ラテラノ!? 戻りなさい、貴女の装備では!」


 セリアの声を振り切って、魔物の群れの隙間をくぐり抜けた。


 運が良かったわけじゃない。

 止めきれないと判断したセリアが、ラテラノの進路上にいた魔物を闘気投槍闘術(ブリューナク)で仕留めたからだ。


 ラテラノはセリアの援護に感謝しつつ、海面に激突する覚悟で加速する。


 玲樹は完全に意識を失っている。

 身を護る障壁は消えてしまっているだろうから、雲の浮かぶこの高さから落ちれば死んでしまう。


 みるみる迫る海面。

 飛沫を上げる波の様子が見えるくらいになってようやく玲樹を捕まえる。

 突風を発生させる魔法のカードを生み出すと海面に投げつける。

 噴き上げる風に乗って急上昇した。


 だが、玲樹追っていたのはラテラノだけではない。

 ラテラノの周囲がふっと暗くなった。


 巨影が迫る。

 リヴァイアサンが猛烈な勢いで突撃してくる。


「悪いが逃がすわけにはいかない。さよなら、ラテラノ嬢」


 巨大な体を大きく持ち上げてリヴァイアサンが圧し掛かってくる。

 このまま押し潰す気だ。


 後ろを見ずにひたすら巨影から逃れようと飛翔する。

 しかし、影はどんどん濃くなる。

 玲樹を抱えていて、尚且つ、愛用のアニムス・オルガヌムを持っていないラテラノの飛行速度はリヴァイアサンの突進から逃れることができない。


 堪えきれず、背後を見た。

 硬い鱗がすぐ真後ろに迫っていた。


 ラテラノは玲樹を抱えたままギュッと目を閉じた。

 あと数秒でラテラノは玲樹と一緒にぐちゃぐちゃに潰される。


 轟音が響き渡る。

 だが、ラテラノは痛みも衝撃も感じなかった。


 そろりそろりと目を開ける。


 リヴァイアサンは大波を上げて仰け反っていた。

 腹回りの鱗が無残にも砕け散り、破片がザバンザバンと海に沈んでいく。


 リヴァイアサンはとぐろを巻き警戒感をあらわに吠えた。


「……我が巨体を弾き飛ばすとは。何者だ――!」


 リヴァイアサンが睥睨する者は、ラテラノを守るように立ち塞がっていた。


 八本の剣を従えた少女。

 背中にある巨大な推進器と腰のスカート鎧から細かな粒子が散っている。

 青と白の装甲版に覆われた姿はまるでヴィーンゴルヴに住むティターンたちのようだ、とラテラノは思った。

 ただ、ティターンたちよりも人間らしく、可愛らしい少女の機械(ロボット)だった。


「……神獣と交戦する予定はなかったが、大魔王を倒されるのは困るな」


 機械(ロボット)の少女は、ラテラノを、リヴァイアサンを一瞥するとぼそりと呟いた。


「行け、魔法少女。ここは我が剣にて抑えてやる」


 打算あっての救出のようだが、守ってくれたことには違いない。

 ラテラノはおっかなびっくりお辞儀をする。


「あ、ありがとう……、あなたは……?」

「……礼は不要だ。我が名は、マリルー、機神姫マリルーである。訳あって機械人に与する身だ。次は味方とは限らんぞ」


 マリルーは素っ気なく答える。


 どこの誰かは知らないが、リヴァイアサンの相手をしてくれるのなら逃げるチャンスがある。

 ラテラノは玲樹を抱えなおす。


 まだ、セリアは魔物と戦い続けている。


 シャウナとレギンレイヴの姿はない。

 どこへ行ってしまったのだろうか。


 とにかく安全な場所へ逃げなくては。

 周囲を見渡す。

 すると、海の向こうに陸地があるのを見つけた。


 ラテラノは気力を振り絞ると、蜃気楼のように揺らぐ陸地へ向かって飛んだ。

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