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第一話 「異世界との遭遇」

連載小説に初挑戦です。

息切れしないように頑張ります。

 俺は原付バイクに跨り山道を軽快に走っていた。

 ぽつぽつと街灯の照らす坂の先には、淵ヶ峰(ふちがみね)高校が木々の間から見え隠れしている。


 腹が減った。

 人間だから腹が減る。

 カロリー消費量が多い高校生ともなれば、半日も飯を食わなければ腹の虫がぐうぐうと鳴り響くってものだ。

 俺は学校の寮で生活している。

 だから、昼は学食で夜は外食か弁当だ。


 本日の夕食は竜田揚げ弁当のご飯大盛。

 これさえあれば本日の夜は切り抜けられるであろう。


 夕飯を終えたらパソコンへ向かわねばならない。

 いまハマっているオンラインゲームは毎日更新されるログインボーナスがある。

 日々のこまめなログインが大事なのだ。


 逸る気持ちを抑えきれず原付バイクの速度を上げる。

 夕暮れ時なら部活動の連中が汗を散らして走り込みなどしているが、時刻は午後八時を回ったあたり。

 こんな薄暗くなった山道を歩いている奴など居ようはずがない。


 道も学生が通るため割れ目ひとつないアスファルトの舗装路だ。

 速度違反上等で原付をぶっ飛ばしていても全然問題なかった。


「ん……、なんだ……?」


 ふとした違和感に目を細める。

 学校の授業中にくるような眠気。

 起きていないといけないのに気が付くと瞼を閉じているような眠気が前触れもなく襲い掛かってきた。

 堪えようと思った時には俺の意識は飛んでいた。


 目を閉じていたのはどれくらいだろうか。


 五秒?

 いやいや、一秒もなかった。

 瞬きする一瞬の出来事だったはずだ。


 流れる山道の風景はさほど進んでいない。道の区画線を割り込んでもいない。

 だが、目の前には人影が忽然と現れていた。


「あぶないっ――!」


 ブレーキを掛ける暇もなかった。

 原付の車体が割れる音とともに生々しいゴキッっという異音が耳に聞こえた。


 激突の衝撃で原付から放り出されて宙を舞う。

 ゆったりとした滞空時間を感じながら体が半回転。

 背中から低木の茂みに叩きつけられた。


 あまりの出来事と痛みに茫然と空を見上げていた。

 十秒、二十秒、と経ちようやく我に返る。


「痛ってぇ……」


 低木をバキバキへし折りながら立ち上がった。


 制服に破れがあるものの奇跡的に無傷に近い。

 せいぜい擦り傷程度だ。

 そんな事より確認しなければいけないことがある。


 原付は道に転がっていた。

 前面は割れてそこらじゅうにプラスチックが飛び散り、ライトが割れて鈍い光を放っていた。


 心臓がきゅっと縮み上がる。

 壊れたスクーターのそばには見慣れない衣装を着た女が倒れている。


 若い。

 俺よりちょっと年上に見えるくらいだ。


 言葉もなく立ち尽くす。

 女の首はありえない方向を向いていたからだ。

 恐る恐る女に近寄る。


 女は変わった姿をしていた。

 頭の横から大きく伸びた獣のような耳があり、指先の爪は人間のそれよりも鋭く尖っていて、お尻の当りからはふさふさとした長い尻尾が生えていた。

 コスプレかと思って触れてみたが、獣耳は頭から生えていてわずかに温もりを感じた。

 そして女は傷だらけであった。


 頬の紫色の痣。

 腕には骨が見えるほどの切り傷。

 衣服の破れから見える肌にはざっくりと刺し傷があり、赤黒い血が服をじんわりと染め上げていた。


 明らかにバイクで跳ね飛ばしただけではない傷痕だ。

 学校の体育授業でやったように腕の脈を測り、口に手を当てて呼吸を確かめてみた。


 当然の事ながら。

 信じたくもないが。


 獣耳の女は死んでいた。


 俺は何らかの事件に巻き込まれて瀕死の状態であった彼女を殺してしまったのだ。


 救急車を呼ぼう、とスマートフォンに手を伸ばす。

 が、突如として頭に激痛が奔りぬけた。


「うぶ……っ……」


 脳みそを抉られるような痛みに急激な吐き気を覚える。

 せり上がる胃液を抑えることができず、道端に駆け込むと力の限り吐き続けた。

 ぞわっと寒気がして大量の汗がにじみ出る。


 人を殺したことによる精神的なものだろうか。

 それとも、死体を眺めたことによる嫌悪感なのだろうか。


 そうじゃない。


 気持ち悪いのは嫌悪感によるものだけど、もっと別のものだ。

 俺の頭に何かが流れ込んでくる。

 それは意味のない情報のようであり、言語のようであり、知識のようなものだった。

 途方もない情報が脳味噌を駆け巡っていく。

 全身をかきむしりたくなるような酩酊感が絶え間なく襲ってくる。


 目が回る。

 胃液を吐く。


 頭が痛い。

 胃液を吐く。


 地面をのたうち回る。

 早く終わってくれと心の底から願った。


 どれくらいの時間経ったのだろうか。


「……げほ、うげぇ……」


 だんだんと異様な気持ち悪さが遠のいていくのが分かった。


 頭を押さえていた指先を離すとパラパラと髪が落ちた。

 髪の毛をむしるほど強く頭を抱えていたらしい。

 すべてが終わると思考がクリアになっていた。


 そして気がついた。


 自分の知らない知識が身についていることに気づかされた。


 俺は力を習得していた。

 息を吸うかの如く行使できる力が根付いていた。

 誰かに教わったわけでもないのに自然と力の使い方が理解できた。


 俺はすぐに試したくなった。

 もし、この力が上手く使えれば殺人犯にならずに済むかもしれない。


 手のひらを獣耳の女の額に宛がうとゆっくりと力を解き放つ。

 どこからともなく集まった光の礫は獣耳の女を包み込む。


 俺は身に着けた力。

 魔術、蘇生魔術(リザレクション)を発動させた。

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