怪談小話「殺人夢」
殺人夢
俺はたぶん、もうすぐ死んでしまう。その前に、俺が体験した信じられない現象を残しておきたい。俺の次にこの怪異と遭遇した人に活かしてもらいたい。
それは五日前から始まったか。俺は懐かしい夢を見た。中一の頃の担任が夢に出てきたのだ。昔と変わらない姿で、近況を話していたという内容だった気がする。
その夢を見て起きて、そのまま普通に学校に行った。何事も起きずにまた一日が終わると思っていたら、ポストに何か入っていた。それは一つの封筒だった。中には、中一の頃の担任の訃報が記された紙があった。あまりにもタイミングがぴったりだったため、悲しさよりも驚きが勝った。
その夜もまた夢を見た。今度は隣のおばさんだ。昔から面倒を見てくれていて、すごく仲良くしているのだが、その人が寒中水泳をしているというものすごいシュールな夢だった。
朝起きたら、母親が血相を変えて部屋に飛び込んで来た。隣のおばさんが突然亡くなったとの事だ。原因は突発性の心臓麻痺。昨日の事もあり、だんだん薄気味悪くなってきた。
その次の夢では、バイトの後輩が出てきた。まだ入って半月も経たないのに効率のいい動きをしてくれる優秀な人材だ。俺は先輩ながらそいつを尊敬していた。
目が醒めると、嫌な予感が身体を蝕んだ。まさかな、と思っていた。大体、夢に出てきただけで死ぬなんてあり得ない、非科学的だ。そう思ってた。
でも、嫌な予感は当たってしまった。バイトに行ったら、その後輩が亡くなったという報せを受けた。死因は事故死だそうだ。バイトの士気も上がるはずもなく、その日は早退させて貰った。
また次の夢には、クラスのみんなが(姿を現さなかったが)出てきた。俺以外がインフルにかかって出席停止を食らったという。
俺はその日、学校に行けなかった。学校に行ったらみんな死んでましたなんて事実を目の当たりにしたくない。でも、現実は逃がしてくれなかった。
その日の夕方、仮病を使ってズル休みした俺はなんとなくテレビをつけてしまった。そこには、俺の通う高校にトラックが突っ込んで俺を除くクラス全員が死亡したというニュースが報道されていた。もう、どんな感情よりも先に、呆れが出てきていた。
夢に出てきた人間は必ず死ぬ。そんな馬鹿げた事があっていいのか、と。
その後、風呂に入っている間にある事実に気づいた。今まで見た夢の中での共通点だ。
1.夢に出てきた人間は必ず死ぬ
2.夢は全て主観で広げられた
もし夢に出てきた人間が死ぬのなら、主観の主である俺はなぜ生きているんだ?仮にあの主観が俺のものじゃないとしたら一体誰のだろう、ここまで考えたところでふと鏡を見た。
そこには、土気色をした肌に、左右非対称の四肢、そしてくり抜かれた様な真っ黒な目のヒトが俺の後ろに座っていた。
その時の俺は変に冷静で、もしかしたらコイツが主観の持ち主で、今までの夢はコイツの視点だったのかなんて考えてた。そして仮にその考えがあってたのなら、
今ヤツの主観の中に、俺がいる。
そうしてヤツから逃げてきて今に至る。でももう限界に近い。ヤツの息使いがわずかに聞こえてくるところまで追いつかれた。おそらく、俺はヤツに憑かれて死ぬだろう。
最期に、俺がどうやって一日切り抜けたかを教える。ヤツに魅入られたと感じたら、自分以外の人を寝る前に強くイメージして、その人の夢を見るんだ。所謂身代わりだな。でも俺の精神力じゃ一回が限界だったし、どうやら先に死ぬのは俺のようだ。身代わりを用意した日は見逃してもらえるけど、どの道、最初に死ぬのは俺に変わりはない。
本当の本当に最期だ。身代わりが誰だか教えてやるよ。
オマエだ。
了