貧乳眼鏡彼女・2 花火大会
この作品は、練習用に書いた物 「書いた事の無いジャンルに挑戦」「貧乳眼鏡彼女」という題名で上げた物をベースに書いた物です。
彼女は貧乳で眼鏡だ。
髪は肩くらいで、艶のある黒。前髪を分けて、紺色のヘアピンで止めている。
眼鏡も派手すぎずに、落ち着いた感じで、一言で言えば地味と言われるような部類だろう。
身長は俺の顔一つと半分くらい小さく、背の低い事をまったく気にして無いし、胸が無い事も気にしてはいない。
普段は本の話題以外はあまり喋らないが、紙媒体の本を読んで、激甘の紅茶やコーヒーにミルクをドバドバ入れて飲みながら微笑んでる。
普段は読書デートで、お互いに日の当たる場所で、空調と空気清浄機の音しか聞こえないくらい静かな部屋にいる。
付き合ったきっかけは、図書館で本棚の上段にあった本を、取ってあげたのがきっかけだった。お礼と言う事で、近くにあったコーヒー店に入って、好きな本の話して、お互い本の好みと趣味が合い、そのまま仲良くなった。
最初は生意気な子供かと思ったが、話してみれば、年齢は俺より一つ下で、俺より頭が良かった。
ただ、毎回読書デートというのもなんなので、地元のあまり規模の大きくない花火大会に誘ってみた。それでも出店はかなりでるし、見物客もはぐれられる程度には来る。
「悪くない提案だと思うけど、私、人混みは苦手なんだよね」
「俺も苦手だから、おあいこって事でいいんじゃない?」
駄目か……と思ったが、視線だけで左上を見て彼女が何かを考えている。
「もう何年も行ってないからいいか……な?」
俺は信じてもいない神に感謝し、慌てて祭りの日時を告げる。
「その日は開いてるから、平気かな」
心の中でガッツポーズをして「ならOKって事で」と平然を装い、話し合いを詰めていく。
◇
当日、最寄り駅まで十分前と連絡が入ったので車で迎えに行き、駅の出入り口から出て来た彼女は浴衣に松永下駄だった、子供が着る浴衣みたいな感じだが、色合いが落ち着いているので、大人物だと思う。このサイズのあるんだな。
正直綺麗と言うより、可愛いに部類されるとよく思っているが、発育の良い女子中学生に色々負けている気がする。身長とか胸とか……
「普段は下ろしてるのに、今日はアップなんだな」
「まぁね。ネットで調べてたら、まとめて上げてる画像が多かったら。大きな花とか付けてる人もいたけど、落ち着いた雰囲気で纏めてみたんだ」
前髪が、目に入らない程度にヘアピンで別けてるだけで、後ろはそのままだからな。この状態でアップは色々と個人的に来るもんがある。
「ふーん、新鮮でいいな。普段からその髪型でも似合うんじゃないのか?」
「……考えておくわ」
「まぁ、立ち話もなんだから乗ってくれ」
彼女に助手席を勧め、家まで通り慣れた道を進んでる間にも、彼女は話しかけてきた。
「車かー、あれば便利なんだと思うんだけど、背が低いからなー。前が見えなくて怖いんだよねー」
「ふーん。前があまり無くて、背の高い車とか出てるから、そういうのに乗ってみたら? 最近沢山CM打ってるじゃん、なんか変にカラフルなの。今俺が乗ってる車よりかなりマシだと思うぞ?」
「車って良くわからないよのね」
「興味が無いと、未知の分野だろうね」
「そうねー、免許くらいあった方がいいって親がいうんだけど。高校卒業前に行った車の学校のにあった車は、前が見えなくて諦めたわ。まぁ、あれから少しは背が伸びてるから、多少当時よりマシだと思うけど」
その頃は、前が見えなかったのかよ……。ってか二年で変わるもんなのか?
「まぁ、あれば便利だから、在学中に取っておいた方がいいな」
「そうね、取れればいいけど。暇潰しに一回教本を読んだけど、学科は大丈夫そうなんだけど。実地がねぇ。チャイルドシートでも敷こうかしら」
「止めてくれ、冗談に聞こえない」
「あら、酷いわね。それに、そんなの敷いたら足が届かないわよ」
「ははは、そうか」
届かなかったかー。俺は心の中で突っ込んでおいた。
「その時は、この席は私の物ね」
助手席をポンポンと叩いて、ニコニコしている。
「わかったよ、開けておくよ」
少し古い恋愛物の小説かドラマか歌で、こんな感じのやり取りがあった気がするけど、妻になる宣言に聞こえなくもないから、ドキドキする。
「そこの角部屋ね」
ウイークリーマンションみたいな間取りだが、一人暮らしの男にはこれで十分だ。
俺は鍵を開け、今日の為にあまり汚れてない部屋を念入りに掃除したので、色々平気だと思う。
「おじゃましまーす……」
「椅子が一脚しかないから、そこのパソコンが乗ってる椅子を使って。インスタントしかないけど、コーヒーを淹れるよ」
「ありがとう」
座ってろと言ったのに、座らないで、あまり数の置けない本棚を物色している。
電気ケトルのお湯が沸き、コーヒーを淹れて持って行くが、彼女は物色を止めてタブレットで電子書籍を読んでいた。
「へー、紙媒体主義だと思ってたんだけど」
「ふふーん、これなら借家の床が抜ける事は無いのだよ」
黄門様の脇にいる、どっちかが印篭を出すかのように、俺に突き出してきた。まぁ、俺も持ってるけどな。うっかり八兵衛じゃない事だけは確実なんだけどな。
普段は、バッグに二、三冊入ってるが、今日は浴衣で巾着袋だからな。あれ一つなんだろう。
彼女はニコニコしながら、人差し指でフリックしているが、読んでいる合間にしっかりと、コーヒーに砂糖をドバドバ入れて、クリープもモリモリ入っている。
いつもみたいに、少し冷めてから飲むんだと思う。ちなみに、夏でも暖かいコーヒーや紅茶を飲んでいるので、アイスで出すような事はしない。
しばらくお互い思い思いの本を読んでいつもみたいに過すが、彼女がいきなり、
「そう言えばさ……男の子の部屋に入るの小学生以来なんだけど、コレって男の子から見てどうなの? やっぱりそういうの意識しちゃうの?」
「どうだろうね? 俺の場合は、多少親密になったらかなり意識しちゃうけど、今から夏祭りに行くからねぇ。時間もないし、帰って来て少しまったりするなら意識するかもしれない、時間的に遅いし」
「ふーん、もっとガツガツしてるもんだと思ってたけど、君は違うんだね。友達の話だと、一人暮らししてる男の部屋に行くっていうのは、そういう事だって聞いたけど、そんな人じゃなくて良かったよ」
少し安心したような表情でコーヒーを啜り「はーぁ」と一息ついている。
「焦って、今の関係を台無しにするのも嫌だからね。事は慎重に運びたい。ってか、堂々と言わないでほしい」
「そういうのは、結婚してからがいいと思うんだけど?」
「結婚してから、夜の相性が悪いといろいろ苦労するから、婚約してからなら多少積極的にしてもいいって話もある」
「ふーん、君はエッチなんだな」
「まぁ、否定はできないけどね」
「ふーん、エッチな本とかDVDとか隠してる? 今はBDなのかな?」
「今はダウンロードで買えるよ」
「ほー。ならこのパソコンの中には、私に見せられないものがあるんだね。電源入れて良い?」
「いいよ。別に隠すつもりもないし」
「むーつまらないね。少し慌てる姿が見れると思ったんだけど」
「もう大人だからね」
「なら、君の趣味嗜好を研究しよう」
ははは、キス一つ満足に出来ないお子様が何を言うんだ。
「俺は構わないけど、あと一時間で時間だぞ? その前にそんな雰囲気になったら台無しだろ?」
「何を焦っているんだい? タイトルくらいなら平気だろう」
そう言って、スリープモードを解除して、データがあるフォルダを聞いてきたので、素直に教える。
「んー、コレが女優さんの名前で……、タイトルを見る限り普通だな、有名映画のパロディ的な物があると聞いたんだが、残念だ。それと私がこんなんだから、なんかちょーっと特殊なのがあると思ったんだけど……」
「あっても、その人絶対十八歳以上とかだから」
「ほー、なら私みたいなのでも、こういうのに出れると……ごめん失言だった」
「気にしてないよ、そんな事より、電子書籍フォルダもあるだろ? 何か気になるのがあれば、俺もタブレットあるから、入れて学校に持ってい行くぞ?」
慌てて話題を変える事にした。
「あ、うんお願い」
ある程度察したのか、そっちの話題に乗って来た。
「って言うか、私がこんな格好なのに、君は普段着なのかな? もっとこう……夏みたいなのはないの?」
「箪笥の肥やしに甚平がある。まぁ、箪笥じゃなくて衣装ケースだけど」
「ふむ、時代が変わればという奴だね。って訳で、早速引っ張り出してよ」
面倒くさいが、仕方ないか。
俺は、壁に埋め込んであるクローゼットの上下二段の下段奥にある衣装ケースを引っ張り出し、甚平を出す。
「ほうほう。クローゼットに色々押し込んだと思ってたけど、かなり綺麗にしてるじゃない」
「まあね、親の躾と俺の性格が良かっただけだろう」
軽く甚平を広げてから、虫食いとかが無いかを確認して、脱衣所に向かう。普段ならここで着替えるが、さすがにね?
「すげー久しぶりなんだけど。どう?」
「似合わなくはないよ。浴衣の私の隣に並んでも違和感はないね。それとスネ毛がなかなか……前腕は見慣れてるから新鮮味がないけど」
顎に手を当てて、なめるように俺の事を見ている。うん、今度から女性を見る時は気を付けよう。こんな目で見てるんだな。
「中々マニアックな趣味です事……」
「スネ毛が嫌いって子もいるけど、私は少しは無いと男性らしさが無いから、有った方がいい派」
「なんか思ったより闇が深そう」
「そんな事ないよ? あった方が良い派、無い方が良い派の二つ。けど合った方がいい派は、濃さとか有るっぽいけど」
「フェチの領域か」
「男の下ネタはファンタジー。女の下ネタはドキュメンタリー。良く言われてるけど、女性のフェチは結構……いや、これ以上は止そう」
「そうだな、そろそろ時間だから出ようか」
そう言って、俺は下駄も雪駄もないので、ワニのマークがあるサンダルを履く事にする。
「下駄が無くて悪いね」
「今はある方が凄いよ? お兄ちゃんの友達に、夏は下駄で、そのまま車とか乗ってる凄い人がいるって聞いてるけど、その人が特殊なだけだから」
「特殊すぎるな」
確か、車の運転で下駄は駄目だった気がするけど……。そう思いつつ玄関の鍵を閉め、街頭で照らされた夜道を歩くが、他にも花火大会の会場に向かう人たちが大勢いるので、別に少し暗くらくても安心できる。
しばらく歩いて、街頭の明かりが提灯の明かりと出店の明かりに変わる頃、
「あ、なんか無性に林檎飴が食べたい」
「え? まだ露店見えてないよ?」
「うん、なんかこう祭りって雰囲気だと、無性に林檎飴と鈴カステラが食いたい」
「焼きそばとか、たこ焼きじゃないの?」
「うん、なぜかわからないけど、祭りと言ったら林檎飴と鈴カステラは譲れない」
「んー、確かに祭りと言ったらこれ! って言うのあるよね。私は焼きそばにまぶしてある卵っぽい黄色い変なのが好き。あとは串焼き。あの海の家効果みたいな感じで、なんか食べたくなちゃう」
「あーアレね。なんか妙にコレジャナイ感がある奴」
「そうそう、散らし寿司なんかにもあるよね!」
「錦糸卵だね」
「え? 冷やし中華とかに入ってるやつだよね? あれなんかすごく薄くて、別な物だと思てったよ」
「はは、そんなもんだよ。業務用スーパーに売ってるから、今度一緒に行ってみる?」
「全部赤い素麺みたいで、なんかありがたみが無いから行かない」
「おー、確かに。そう言われたら物凄い説得力」
そういうと、無い胸を張りつつ「ふふん」ってな感じにしてる。んーすごくかわいい。
その後は、適当に喋りながら露店とウロウロしながら色々な露店を周り、俺は目的の林檎飴と鈴カステラを買って、鈴カステラで口の中がパサパサするので、炭酸飲料にかき氷のシロップを入れただけのカラフルな飲み物を買いつつ満喫する。
彼女も、業務用の錦糸卵が乗っている焼きそばを発見すると早速飛びつき、購入している。
「んー、この妙に硬い変な食感がたまらないのよー」
口の中の物を飲み込んでからニコニコとしながらしゃべっている。
とりあえず「俺が出そうか?」と言ったら「男性が女性に無条件でお金を出してあげる時代はもう古いし、私自身も少しだけ遠慮しちゃうから、自分のお金で好きなだけ買って、好きなように食べるのが気楽でいいよ」と返されたので、二個買って少しだけ安くなると書いてある場合は、一緒に買って食べている。
河川敷に到着する頃には、お互いの両手に沢山の食べ物と飲み物があり、花火大会中は多分平気だろう。
俺は肩掛けバッグから小さ目のレジャーシートを出して敷いて、取りあえず花火大会が始まるまでお互い待機する。
「おーここなら仕掛け花火も見れるね。地元の中規模の花火大会くらいが丁度良いね」
「冷房の効いた部屋で、テレビで見るのもある意味疲れないで済むけど、露店の食べ物が食べたい」
「うんうん、よーくわかるよー」
足を崩して座る彼女に少し色っぽさを感じ、団扇持たせて豚さん蚊取り線香を近くに置きたくなる。
さてそろそろか、そう思って腕時計で時間を確認するが、五分ほど遅れて会場アナウンスが入る。
提供やら協力やら色々入り、それから花火が撃ちあがる。
題名を読み上げ、花火が夜空で散るが、なんか題名とはかけ離れてる物が多い。ただ単に俺が理解できてない気がするが「さっきの題名と、花火の関係性って何かわかる?」と聞いて来たので、彼女もわかってないみたいだ。
時々隣や周りから「おー」と聞こえ、手に何か柔らかい物が触れたと思ったら俺の手に、彼女の手が軽く乗っていた。
横目でちらりと見たが、相変わらず上を向いているので、狙っているかどうかわからないが、花火が上がる事にどんどん指を絡めてくる。
んーここは仕掛けるべきなんだろうか?けどさっき焼きそばとかタコ焼き食べちゃったしなー。まぁ、お互いに食べていたのでセーフって事で!
花火が打ちがり、周りのみんなが上を向いた瞬間に少しだけ体を捻って、上を向いている彼女に、不意を突いてキスをしてみる。
絡んでいた指が一瞬だけびっくりしたように握られたが、花火終わり周りが少し暗くなるまでの間に元の位置に戻り、何事も無かったかのように次の花火を見始める。
「あ、あの……、さっきのは卑怯だと思うんだけど」
「花火の音で何言ってるか聞こえない」
「聞こえてるじゃん!」
「ん? あー偶然だよ」
少しからかいながら花火を見続けるが、会話が無くなっても絡められた手は最後まで離される事は無かった。
花火が終わり、シートを畳み帰り準備をするが、少しだけすねた様な感じになっている。怒っている感じはしないが、なんだろうか?やっぱりいきなりは不味かったかなー。
「あ、あのさ。この後帰るんでしょ?」
「ん? まぁ当たり前だね」
「って事はさ? 部屋に上るって事だよね?」
……あー、つまりこの後の事を心配してるって事か。とりあえず濁しておこう。
「まぁ、荷物置いたり、車の鍵取ったりしないといけないし。気分が悪いなら、少しだけ休む?」
「その……休むって言うのは。深い意味でかな?」
「さっき部屋で言った事を気にしてるのか……。そうしたいならそうするけど……まだこっちの心の準備も済んでないから、また今度ね」
「君には実にいじわるだ。女の子にこんなに恥ずかしい事を言わせて!」
少し拗ねて、頬を膨らませている彼女も少し可愛いな。
「なら、少し本気にしちゃうけど?」
「あ、いや……私も心の準備が……」
物凄く小さな声で、目をそらされながら言われた。可愛いなー。
「まぁ、卒業まだ時間はあるし、焦らないで行こうか? 終電を逃すと、それこそ俺の部屋に泊まる事になるか、車で送る事になる。そうすると、本当に抑えられないと思うから、取りあえず今日のキスは、花火に誘ってくれたお礼に一回だけ許可してあげたんだからって事にしておいて」
「……わかったわ。花火に誘ってくれて、楽しい思い出が作れたお礼に一回だけ許可したって事で」
少しうつむいて、恥ずかしそうに言っているが、俺も物凄く恥ずかしい。
「うん、じゃあ、一旦家まで帰ってから駅まで送るよ」
「あ、今のやり取り! なんかすごく甘酸っぱい感じだったよね? まさかこんなのが経験できるなんて、私凄い幸せ!」
「今後も、そういうの増えていくと思うから、覚悟していて」
はぁ、少しだけ良い雰囲気だったのに、最後の最後で少しだけ残念だったな。
後悔はしない、反省もしない。




