三日目午後 落ち着いてたネジは一気に荒れ狂う予想です
買ってしまったものは仕方ないわけで、とりあえず匿う場所を考える事にしよう。それに、我が家には頭のゆるい母親が居る。むしろ最近は帰りたくないと思うことも少々ある。
「今から少し忙しいけど大丈夫?」
今日は仕事も早く終わったし色々と回ることにしよう。
「はい、ご主人様と一緒ならどこへでも行きますよ。」
こういう時に従順であることは非常に助かる。そういう扱いをする気はないが奴隷という身分であるがゆえに扱いやすいとりあえずは服だ。今のままでは奴隷だということが丸出しだ。次に、資金作り最悪家を買うことも考えて多めに見積もることにしよう。まずは服屋だ。
道中、退屈もするので話でもしながら向かうことにした。
「そういえば、名前まだ聞いてなかったな?」
最初に聞いておくべきだったと公開しているところである。
「名前ですか?フェオル・ウル・フェンリルですよ。長いのでフェオって読んでください。」
聞き間違いじゃなければすごいことをいったぞこの奴隷。
「フェンリル!!??」
この世界においてフェンリルを含む名前はフェンリルの一族以外には禁忌とされている。そもそもフェンリルというのは幻獣種と言われる希少種であり、神に等しい力と知能を持った種族である。
「あぁ、お父さんがフェンリルでお母さんが人間のハーフフェンリルなんです。」
あぁ、すごいこと言ってた……。
「なんで奴隷になんかなってるの?」
どう考えてもおかしい。
「それは……まぁ、いいじゃないですか?それより、フェオって呼んでください。フェンリルって呼ばれるとすごく目立っちゃいます。」
聞いて欲しくないというサインだろうか、それともただ単にフェオと呼ばれたいだけだろうか。後者の気がしてならない。まぁ、放っておこう。
「まぁ、いいか。よろしくなフェオ。もし、お前が望むならフェンリルにも会いに行こう。」
奴隷でないことが一番幸せなんだ。だから、もし望まれたなら家族の元へ。
「もう、お父さんへの挨拶だなんて。私とご主人様は恋人同士じゃないんですよ?」
ものすごい勢いで曲解されてますけども。それより何なんでしょうかこの上目遣い。可愛いですよ。そりゃ可愛いですけども。
「そういう意味じゃないからね。」
くだらない話をしていると、目当ての洋服屋についた。
「いらっしゃい、あら初めてのお客さんね?」
ここはシルクケープ装具店。主に女性向けの洋服屋アクセサリーを販売するところである。
「どうも、この子に似合う服を探してまして。」
そう言って、半歩後ろで半身を俺の影に隠しているフェオの背中を軽く押して店主の目の前に出す。
「あら、あらあら。これはすごく楽しい仕事になりそうだねぇ。それじゃあ早速……。」
そう言って店主の手によってフェオが試着室の中に連れ込まれる。その時店主の目が少しばかり歪んでいた気がするが気にしないことにしよう。
「あ、きゃっ!どこ触ってるんですか!!??ん、ひゃうっ。」
なんだか中からフェオのいやらしい声が聞こえる。気にしておいたほうが良かった。
しばらくするとカーテンが開く。そこにはもともとの耳や尻尾などの種族特徴やボディラインなどの身体的特徴を生かしたコーディネートを施されたフェオが居た。素材がよく、奴隷によく見られるボロ布一枚でも十分に可愛らしく見えるフェオだしっかりと着飾ったならそれはもう野生と品性を兼ね備えた美の権化。お世辞にも可愛くないなどと言えない、それどころか街を歩けば男の目線は全て彼女のものだろう。
「ご主人様以外の人にいろんなとこ触られちゃいました……。ひっぐ……ぐすん……。」
加えて涙目なのも非常にいいものだが発言が少々気になる。
「あらあら、この子あなたの奴隷ちゃん?」
あいも変わらずこの店主は愉快そうである。それより奴隷は一体世間にどういう認識をされているのだろうか。非常に気になる。
「はい、私はご主人様の従順なる奴隷です!犬です!わおーんです!!」
「胸を張るな!それからお前は狼だろ!?」
そう言いながら頭に軽くチョップをかます。
「あうっ!そうでした狼でした。夜はご主人様の方が狼ですけどね?」
「変な捏造するな、お前は今日買ったんだ!。」
もうらちがあかない、呆れられる前に会計を済まそう。
「すみません。あの、お代は……ってなんでプルプルしてるの?」
なぜか店主が今にも笑いだしそうになっている。
「わおーんって、ご主人様が狼って……、だめ、あははははは。ごめ……ちょっとごめんなさいね。お、おだ、お題ね?ぐふふ……120ゴルドです……くふふふ……。」
あぁ、すごいなにげに三種類の笑い声。ちなみに120ゴルドはそれなりに綺麗な宿を一泊借りる位の値段だ。金貨一枚と銀貨二枚である。
「はい、じゃあこれで。」
きっと冷め切った声だっただろうな。
「ふひっ……毎度あり~……ぶへへへへへ。」
いつまで笑ってるんだこの人。それと、笑いのボキャブラリー多いな。
用が済み、店から出ると息を切らしたゴレリヴァが居た。
「お前ちょっと来い。」
そう言われて無理やり手を引かれて着いた先は灼鉄の炉だった。もちろんフェオもつい来ている。流石獣人であり全く息切れはしていない様子。
「此奴がこちらの剣を打ったのかえ?」
えらく偉そうな声が聞こえておそるおそる声のする方を見た。勾玉のような眉毛と小さな口、中肉中背でふっくらとした体と顔。えらく偉い人である。王族である。
「はっ、間違いないかと。」
ゴレリヴァが膝まづいて言う。
王族が持っている剣は昼間に奴隷横丁でフェオと交換した剣だった。とりあえず情報が早すぎることに対して物申したいが王族の御膳、非礼は許されない。
「此度はどういったご用向きでございましょうか?」
この麻呂、もとい王族はそれはたいそう愉快に言い放った。
「確保ー!」
飛び出してきたのは意外や意外、ガルムとシルヴィアであった。
「すまん、仕事なんでな。」
シルヴィアが耳元でボソリと呟く。
「一体何が?どうして?」
正直パニックだ。
「そちの剣非常に見事でおじゃる。よってこれよりそちを王宮鍛冶師に任命致す。ついては王宮内にある鍛冶場兼自宅に即刻連行せよ!」
あぁ、連行しなくても行くのに。かあさん、今日は帰れそうにありません。ついでに、この王族無駄に状況把握能力に優れていてフェオまで俺の従者として王宮勤務となった。
フェオちゃんぐへへ
ちなみに麻呂の名前はマロ・イルゴットです。