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器用度チート。実は有能なんです。(Dexterity cheat Smith)  作者: イベリア
第一章 どうも主人公です、この章は一章俺の有能さの紹介が行われるでしょう
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三日目朝 どうも主人公です、本日の朝はネジの動きがかなり穏やかでしょう。

 昨日は結局あのあと剣を三本打った。終わった頃には夜もかなり深くなっていたので、その三本はそのまま鍛冶場において帰ると、すぐに寝たのだった。

 というわけで本日、とても眠い。

「あらおはよう、昨日はだいぶ遅かったわね。あまり遅く帰ってくるのは心配なのだけど……。」

 息子を貞操の危機がある場所に送っておいてどの口が言うのだか甚だ疑問だが、寝起きから大声を出すのは先を考えると体が持つ気がしない。

「仕事で遅くなっただけだから大丈夫だよ。」

 実は嘘なのだが、きっとシルヴィア先輩ならわかってくれるだろう。

「ならいいのだけど。」

 どうせなら念を入れておこう、この先も面倒は少ないに限る。

「新入りとは言え、これでも憲兵だし自分の身くらいは自分で守れないと。それに、知ってるだろ?俺がそこいらの犯罪者くらいが相手ならどうってことないって。」

 実際、鍛冶仕事というのは戦闘において結構有用な知識が多く、それらを身につけてしっかりと落ち着いて対処すればたいていの戦闘はどうにかなる。

「そうね、きっと大丈夫よね。」

 これで今日からは帰りが遅くなっても大丈夫だろう。正直、常識人のところに居たいのだ。それに、思春期だし、正直シルヴィア先輩のところに居たい。今のところ面識がある中では唯一の常識を持った女性だし。

「じゃあ、行ってくる。」

 そう言って、昨日誤ってもって帰ってきてしまった鎧を着て詰所へと向かった。昨日のうちに少し調整をしておいた分かなり動きやすい。やはり器用さには自信がある。

 道半ば、犬も歩けばというように俺も歩けばと言いたいくらいの頻度で頭のおかしな光景に直面するが、今日はそれにいちいち心を動かしてる余裕はない。さっさと行ってしまおう。

「おはようございます。少しお疲れのご様子ですが大丈夫ですか?」

 道半ばでガルムに出会った。この男、見た目と声のギャップは否めないがそれを除けば基本俺の安息の場所ともなり得る。

「あぁ、おはようございます。大丈夫ですよ、昨日はあのあと家事仕事に熱中しすぎて遅くなってしまっただけですから。」

 そう言って笑いかけてみせた。

「あまり無理はなさらぬように、倒れられてはシルヴィアさんも僕も心配致しますから。」

 あぁ、本当にいい人だ。朝一番に出会う知り合いがこの人で良かった。

「ありがとうございます。もう少し気を使うことにしますね。」

「はい、是非ともそうしてください。大切な知人が斃れるところなど見たくありませんからね。」

 なんだか、とても育ちのいい貴族の後継とでも話してるかのような気分である。相手の方さえ見なければ。

「そういえば、ガルムさんはなぜ俺に対しても敬語なんですか?」

 一応ずっと気になっていたのだ。

「そうですね。身分、もしくは年が上の方と喋る機会があまりに多すぎて癖になってしまっただけです。」

 それにしても丁寧だ。

「あはは、癖になるとは随分苦労されたようですね。」

 そんな他愛のない、この世界において貴重な常識的な会話をしていると時間というのはすぐに過ぎてしまうもので気が付くと詰所の門の前にまでたどり着いていた。

「あぁ、なんかこの扉を開くのがとても勇気がいる行為なんですが……。」

 鬼が出るか蛇が出るか。安息が出るか、貞操の危機が出るかどちらかの可能性が高い。今のところやたら呼び止めてくる暑苦しい憲兵との遭遇率が非常に高いのだ。

「あぁ、昨日逃げるように帰ったのはそのせいでしたか。僕相手には多少なりともお話していただけたのにと不審に思っていましたが、なるほど、彼に目をつけられたのですね。」

 そう言って、困ったようにガルムが笑った。

「そういうわけです、はい。」

 その後、ガルムは少し考え込むような素振りをしたあと手をポンと鳴らして言う。

「大丈夫です。今日は彼は非番です。今日は僕たちにとって幾分か過ごしやすい日になりそうですね。」

 そう言いながらガルムが扉を開けた。そこにはシルヴィアが居た。

「あ、シルヴィア先輩。なんか、今日本当についてます。」

 あぁ、朝から感動で涙が出そうだ。

「おはよう。朝からどうした、今にも泣きそうじゃないか。」

 シルヴィアが心配してくれる。

「彼、朝からだいぶ苦労しているみたいなので気にしないであげてください。」

 ガルムがフォローしてくれる。そうだよ、これだよ。これがあるべき姿だよ。視覚的に多少の違和感は残るが。

「ふむ。まぁ、昨日は散々だったしな。仕方ないか。」

 あぁ、本当にいい人たちだ。

「ありがとうございます。」

 そんな話を切り上げるとシルヴィアが本題を切り出した。

「今日の予定だが昨日鎧を調整してくれた礼をしたい。だから、一緒に灼鉄の炉へ行く事にしよう。面白いものを受注したからきっと驚くぞ。」

 そう言ってシルヴィアはいたずら好きの少女のような笑顔を浮かべる。ほかの人間なら安心はできないが彼女のことだまともな方向で俺の期待をはるかに超えたものな気がする。

「灼鉄の炉ですか、たしかあそこには腕がよく仕事も早い鍛冶師がいるという噂ですが。」

 噂になるのは未だゴレリヴァのことだろう。彼のこなす仕事の数は、この国で最も多いのだから。

「それ、俺の師匠なんです。」

 なんだか自分の師匠を褒められるのはかなり照れくさい気もするが悪くない。

「そしてコイツはそんな師匠より腕がいいんだぞ。」

 そして、自分を褒められるのはとても照れくさい。

「きっと素晴らしい職人なのでしょうね。そのうち技を見てみたいものです。」

 しかし、ここまで言われると悪くない。

「話を戻すがその次は、少しばかり取り決めの勉強のためにもある街に行ってもらう。かなり危険なところだが知っておいて損はないし私がいるなら問題はないだろう。」

 シルヴィアがそう言うとガルムは少し引きつった表情をしている。

「今日は少しばかり嫌なものを見る羽目になるかもしれませんが、お気を確かに。そして、気をつけてくださいね。」

 そう言われて送り出された。

 しばらく歩いているとシルヴィアがポツリポツリと話し出す。

「お前、憲兵の仕事は好きか?」

 奇妙な質問をしてくるなと思った。

「憲兵自体はなんとも。」

 いつになく真剣な面持ちだ。

「それは良かった。憲兵を三日以上続ける人間は憲兵希望の約半数だ。」

 思わず息を飲み、尋ねずにはいられなかった。

「なぜ、と聴いても?」

 シルヴィアはそれを許してはくれなかった。

「それはおいおいわかるとして、まず私の話を聞け……。」

 一息ついたあと、静かな声で語りだした。

「憲兵というは、犯罪を取り締まる関係上志願者はかなり多い。それこそ全て憲兵にしてしまったらこの国のふたりに一人だ。収入は安定している、生活に苦労もない。その上追加報酬もある。自由度もこの国の職業では最も高い。それなのに、なぜ治安が維持されると思う。」

 確かに疑問ではある。検挙に対して支払われる追加報酬、高すぎる自由度。それなのにこの国の憲兵は仕事をしているのだ。

「理由は二つだ。」

 俺が尋ねる前に答えを出した。

「一つは憲兵隊監視役が持つ真実の鏡。これの前ではどんな存在であろうと嘘は付けない。そういう祭器だ。もう一つは憲兵法。」

 思わず復唱した、それがなぜか得体の知れないものだと感じて。

「憲兵法……?」

「憲兵法もまた、祭器だ。これは誰が作ったかわからない、有史より以前にあった法律書。取り締まる側の人間の規範を全て記してある。どれかに違反すればそれが書いてあるページが勝手に開き違反者の名前が浮かび上がる。罰せられるまで消えることはなく、憲兵書自体も動かすことはできない。」

 それが事実だとしたら創世に立ち会った神々の遺物だろう。

「それがあるのは、この国だけですか?」

 その質問を受けてシルヴィアがやれやれと首を振る。

「どういうわけか、国があるところに憲兵法も真実の鏡もある。まぁ、この話はここまでにしておいてお礼の話をしよう。」

 気が付けば、もう灼鉄の炉が見えてきた。

「私の友人には、一人頭の切れる奴がいてな。そいつにとあるものの設計図を頼んだんだ。」

 先程とは打って変わって、それはそれは楽しそうに喋っていた。

「設計図?」

 首をかしげながら尋ねると要領を得ない返答が帰ってきた。

「そう、設計図だ。それを頼んだら、ものの数分でいとも容易く書き上げてしまってな。ついでに腕のいい鍛冶師で一番信用できる人物に頼んだ。とはいえ私が面識がある鍛冶師なんてゴレリヴァ殿だけだからな。」

 正直、この国で最も名が知れている鍛冶師もゴレリヴァだ。

「それで、その設計図を師匠に渡したわけですね。」

 シルヴィアは頷いて話を進める。しかし、わざと別の話をしたりところどころ間を置いて発言したりと色々と不思議な部分がある。

「そしてその設計図も、おそらく完成品もここにある。」

 全ての不思議が驚きへと変わった。示し合わせたように灼鉄の炉の扉を開ける。

「先輩、今までの話は全部この演出のための時間調整ですか?」

 正直、シルヴィアの演出家魂に驚きを隠せない。

「ゴレリヴァ殿?」

 シルヴィアが俺の声など無視して、さらに話を進める。

「おう、ちょうど出来たところだ。入んな!」

 珍しく気合の入った師匠の声を聞いた。

「まさか、ここまで?」

 そう尋ねると流石に首を振った。

「いや、流石に偶然だ。」

 それにしても、色々といい意味で驚かされている。そう思いながら灼鉄の炉へ入るとさらに驚かされた。俺の作った剣に少しばかり大きいが鞘がついている。

「これどうやって?」

 尋ねるとゴレリヴァが嬉しそうに言った。

「まぁ、抜いてみな。」

 言われるがまま促されるがままに抜刀すると、刃が一切鞘に触れていないのだ。峯や側面をうまく支えるような構造になっており刃の部分を直接鞘に触れさせないことによって鞘が切れてしまうことを防いだのだ。どんなに鋭い刃でも触れていないものを切り裂くことはできない。

「面白いものだといっただろう?」

 威張ったような表情をしているがこれでいい、そう思えてしまうほどに驚いたのだ。

「いやぁ、盲点だったな。切れるなら触れさせなくえればいい。それで峯を支える。」

 本当に盲点だった。しかもヘパイストス鋼で作ってある。よほど張り切ってくれたようだ。

「ありがとう先輩、師匠。」

 そう言うとシルヴィアは笑ってみせた。

「今度、お前の鍛えた剣を振ってみたくなっただけだ。」

 こうして、俺の涙が出るほどまともで思わず頬が緩んでしまうほど平和な朝が終わった。

次回!メインヒロイン登場!!!今度こそホントだよ!!

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