十四日目朝 とうとう訪れた作戦最終会議。ふさわしいネジの締まり具合でしょう。
王族、及び軍事大臣、その他大勢の国の上役が集まる中会議は始まった。参謀として選ばれたのはアエラであった。先日の安彦との戦闘よってその知略を大きく買われての抜擢である。続いて、右翼方面軍総指揮を任されたのはルシオ。右翼は魔王軍主力にぶつけることを想定され防戦になれた国防軍及び憲兵団、近衛騎士団の団員が多く配置される。逆に左翼側は魔王軍を横合いから殴りつける役目を与えられ、戦術指揮官としてエストリアが配置され加え火力最大主力としてフォルトが配置された。
本陣にはアエラをはじめとする、軍の頭脳となり得る要員が配置される予定だ。そしてその最高決定機関の総内訳を決めたのはほかならぬマロ国王である。どう見ても安心な陣営なのにも関わらずマロの采配と思うと不安が払拭しきれない。
そして、魔王攻略隊本隊に選抜されたのは俺を含め現段階議場にいるだけで四人。マロの話によれば後からもうひとり来るらしいがひとつも安心ができないのは気のせいだと思いたい。
「よくぞ集まってくれた、まずはそれに礼を言うものでおじゃる。さて、魔王討伐戦でおじゃるが、まろの見立てでは四人ではちと荷が重いと思うのでおじゃる。そこで最後の一人最強の助っ人を用意しておじゃる。入ってく来るが良いぞ!」
マロが言うと玉座の間の扉が大きく開かれ、姿を現したのは安彦であった。
「石清水安彦忠恒、只今参上つかまつった。」
決勝ではその再生が間に合わず欠場を余儀なくされた安彦だったが、見たところ再生も終わり十分戦闘できる状態だと判断できる。
「参謀よ、余の采配は妥当でおじゃるか?」
今回ばかりはマロも真面目なようで、第三者の意見を取り入れた。
「その強さは、ボクが一番知ってる。妥当だと思います。彼なら他の四人に引けを取らないでしょう。」
アエラの私見による意見だが、それはひどく妥当である。しかし、問題がひとつある。
「その前に彼の意見を聞いておきたい。構いせんか国王?」
聞くためにとりあえず名乗りを上げる。
「構いませぬ、好きになされよ。」
頼むから、敬語は使わないでくれよ国王……。
「安彦、お前はこれから、元の主に牙を剥くことになる。一体どんな覚悟で臨むつもりだ。」
これが一番の問題だ。安彦はいくら強いとは言え元魔王軍、使えるものなら使いたいが離反の危険性が有るものをむやみに使うわけには行かない。
「我が主はアルゼノ様をおいて他にござらぬ。アルゼノ様が滅ぼすというのなら我が命を賭してでも滅ぼしてご覧に入れましょう。例え元の主といえど一切の容赦はいたしませぬ。故に我が参陣お許しいただきたい。」
黙って、安彦の目を見つめた。揺らがない、一切の迷いがない。こいつは、本気で死んでもついてこようとするだろう。
「ならなんで魔王軍に居た?」
安彦の覚悟は伺えた、あとは全員の前で裏付けをするだけだ。
「それに関してはボクが説明しよう。彼の生まれた東方の国はここだよ。」
そう言って地図の一点を指し示す。その位置は完全に人間の文明がなく魔王軍の支配地域だ。そしてそれは魔王軍によって包囲される格好の場所であり、要するに魔王領の中心にほど近い。
「かつて、先代魔王は落ち武者族の集落を襲撃した。その際に捕虜になり魔王軍の一員となったのだ。しかし、先代魔王は死に体制が変わった。彼を魔王軍の将として働かせるための人質も全て既にこの世にないことを知り、魔王軍は彼をつなぎ止める楔を失ったんだ。それで彼が人間に寝返った。ということだろう?」
確認するようにアエラは安彦に問う。
「そのとおりでござる。拙者は人が憎かった。逆恨みしてきた人が憎かった。されど、我が伴侶に二度目の死を与えた魔王軍はもっと憎い。されど、拙者を受け入れてくれたアルゼノ様は恨めぬよ。されば、我が剣はアルゼノ様のために有り!」
感情論を抜いた話がアエラの話で、抜けた感情論が安彦の話なのだろう。
「お前の覚悟はわかった、ならいっしょに魔王軍を滅そう。俺に力を貸してくれ。」
安彦の肩に手を置くと安彦はうなづいて、剣を途中まで抜くと戻して金打の音を鳴らす。
「あなたより賜りしこの刀に誓って……。」
それを見てうなづいた国王は開戦前の最後の仕上げにそれぞれの役割を告げていく。
「右翼の陣、ルシオ・ヴァレンタイン!」
呼ばれたルシオはすぐさま短い返事を返す。
「はっ!」
国王は確固たる威厳を持って告げる。
「其方らは、南方に布陣し中央を死守せよ!」
続いて、呼ばれたのは左翼の陣である。
「左翼の陣、エストリア・イルゴット!」
そのにはこの瞬間から父と子の関係はなく国王と将の関係であった。
「はっ!」
故に、エストリアもルシオを習うかのように短い返事を返す。
「其方らは、北方に展開し敵の横合いより奇襲を狙え!」
そして、回ってきたのは俺たちの番だった。
「アルゼノ、フェオ、フェンリル、シルヴィア、安彦!」
気持ちが一つになっていれば声も自ずと揃った。
「「「「「はっ!」」」」」
国王はかつてないほど重苦しい声で言い放つ。
「其方らに、勇者の号を授ける。決して死ぬでない。生きて帰って我が国に凱歌を轟かせよ!」
そして国王が最後の総仕上げに入る。
「参謀、アエラ・ハンツマン。軍事大臣、ルビエスト・ウォーズマン!」
呼びかけられた二人は即座に返事を返した。
「「はっ」」
これが、戦争開始前の国王の最後の仕事だ。
「これより、指揮権を其方らに託す。我が国に栄光を。」
場内のすべての兵が一斉に起立し、敬礼し、唱える。
「「「「「我ら金の延べ棒を持って富をもたらすもの!我ら、鋼の延べ棒を持って富に陰りをもたらすもに誅を下すもの!!我ら、白金の延べ棒を持って凱歌を歌うもの!!!イルゴットに栄光あれ!!!!国に富あれ!!!!!」」」」」
式典が終わり、行進が始まる。
「軍靴を踏み鳴らせ!法螺を吹け!!行進開始だ!!!!」
ルビエストが叫ぶ。それに答えるように兵たちは強く地面を踏み鳴らし戦場へと向かっていく。




