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器用度チート。実は有能なんです。(Dexterity cheat Smith)  作者: イベリア
第三章 この章は色々と荒れ狂うでしょう
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十二日目朝 本日晴天なれどネジ荒れし。

 今日からは準決勝にあたる大切な局面を迎える。もちろんそれは俺も見ないわけには行かずもちろん観戦に駆けつけた。それに今日はフェオの試合だ。フェオは天使候補でもあるため予めシード権を得ている。ゆえに準決勝からの参戦なのだ。

「雪狼の方角、フェオ・ウル・フェンリル!!」

 よりにもよって雪狼の方角、フェンリルの本人の娘な件についての言及は避けよう。

「水龍の方角レオン・アーデルハイド!!」

 そして相手はあの暑苦しい憲兵だ。両者が対決したところで審判がはじめの号令をかけようとするが、ここであの暑苦しい憲兵のお決まりのセリフが炸裂した。

「始め……。」

 それも審判の号令に割り込む用に、とても大きな声で。

「待ちたまえ!!!」

 もはや、この男はこれを言わないと登場できないのだろうか。かなり彼の個性として確立されている気がする。元々個性の塊みたいな男だがさらに個性を追加するともはやごった煮のような状態である。

「なんだというのだね。」

 これにはさすがの審判も怒りを顕にしている。

「フェオと言ったかな?僕の愛しのアルゼノと親しい仲だとか……?」

 あぁ、嫌な予感しかしない。できることなら外れてくれ。

「それが、なんですか?」

 フェオは鳩が豆鉄砲を食らったかのような顔で答えた。それもその筈突拍子もない問に聞こえなくもない。しかし、彼の性格を知れば必然の問いであり、俺の貞操の危機に直結した問でもあるのだ。

「やはりそうか、ならば今回の試合彼をかけての勝負だ。どちらがより彼にふさわしいか決めようじゃないか?」

 最悪だ、予想が当たった。この暑苦しい憲兵まだ俺を狙ってやがった。本気で気持ち悪い、どうせなら素っ首はねてしまえ、頼むフェオ。

「いいでしょう、受けて立ちます。でも、残念ながらこのフェオ・ウル・フェンリル愛しきご主人様を、私に婚約の指輪をさずけてくれたアルゼノ様をそう易易と渡したり致しません。大口を叩いたからには死ぬ覚悟を決めてかかってきなさい!!」

 あぁ、受けてしまった。しかしフェオが憤慨している。これはレオンが死ぬ可能性もあるのではないだろうか。期待せずにはいられない。だって、あの男が生きてる限り俺に平穏は訪れないのだ。幸い公式試合で死んでも事故扱いで、一切の罪には問われないのがこの世界の文明の法律だ。謀殺してしまえ。

「ふんっ、こちらとて我愛しの彼を我がものとするためなら負けはしないよ。見てておくれアルゼノ、僕は君に勝利を届けるからね。」

 そう言って客席の俺に熱い視線を飛ばしてくる。正直今すぐいって右ストレートをぶち込みたい。それはかなわないのでとりあえずフェオを応援してお茶を濁そう。

「フェオー!!頼むから頑張ってくれ!!。」

 半分懇願になってしまったのはご愛嬌。

「はい!ご主人様!あんな男、ご主人様には指一本触れさせません!」

 なんとも心強い返答だ。俺から目線を外した途端にフェオの視線が殺意よりも恐ろしい何かに染まった気がしたが、むしろ好都合だ。レオには倍返しだ。

「双方、もうよろしいか。」

 審判がしびれを切らして言う。それに対しフェオもレオもうなづいた。

「では、始めい!!」

 今度こそちゃんと言えたと審判が安堵の表情を浮かべる。このレオとかいう暑苦しい男、審判に何度待ちたまえと声をかけたのだろうか。もう、国外つ放しちゃえよこんな奴。

 普段なら開始と同時に動くフェオが今回ばかりは全く動こうとしない。たいして活発に動いたのはレオだった。流石に憲兵、かなり鋭く精度の高い一撃、しかし、それならばこそフェオには読んで弾くことは容易だ。正確に、そして多重のフェイントを織り交ぜた首を刈る一撃をフェオはあえて、リヴの打った剣で弾いてみせた。

 弾かれたレオには予想通り大きな隙ができる。胸を大きく開けて、懐を広げてしまっている。短刀で胸を刺すならこの瞬間。それにも関わらずフェオはその空いた胸に掌底を入れるだけだ。これでは勝負がつかない。だがこれはやられた方はかなり辛い、呼吸を強制的に崩され、息が苦しくなる。加えて心臓に負担が掛かり体力を一撃で大きく消耗させられる。

 それにも関わらずレオは次の一撃を送り込む。今度は非常に強力な攻撃に見せかけた中途半端な一撃だ。はじかれることを計算に入れたフェオの天敵に成り得る攻撃。

 しかし、そんなことはフェオの前では全く問題にならない。今度は俺の打った剣を使って、レオの剣を折ってしまわないように刀身の一部だけを抜いて刃に切れ込みを入れ、引っ掛けて跳ね上げる。またしても懐が大きく空き、そこに今度は剣の柄による打撃。今度のこれは直接骨に振動を与えるためかなりの激痛を伴い、さらに心臓への負担を大きくする。何度も続ければ殺すこともできる一撃だ。それをただ冷静に淡々と打ち込むフェオは俺から見ても少しばかり恐ろしい。

「なかなか、やりますね。」

 哀れな脳みその憲兵である。その刃を見ろ、亀裂を走らせたその鈍らで一体何を切れるのか。その折れかけの戦意で何と戦えるのか。それでも諦めないというのならそれは意地などと見栄えのいいものではない。ただの欲望だ。命を落とすとしても諦めきれない惨めな未練だ。

「わからないんですか?まだ手を抜いているんですよ。貴方は馬鹿ですか?いかにあなたがご主人様を想おうとも、ご主人様があなたを想うことは決してない。そして私は決してそんなあなたにご主人様を渡すつもりはない。ほら、わからないなら分かるまでかかってきてください。骨の髄まで叩き込んで差し上げます。」

 しかし、レオはまだ分かっていないフェオに対して一切の勝ち目がないこと。自分が、どれほど愚かな勝負を吹っかけたのか。全くわかっていない。

「なら、僕ももう少し本気を出すとするよ。」

 そんな強がりを言って、フェオにまっすぐ正面から今度は居合の連撃の構えで斬りかかる。しかし、フェオの本分は速さだ。抜かれるより先に抜こうとかけられた手を蹴り上げる。

「ぐっ!」

 短い悲鳴とともに塚から離れた手を、フェオは容赦なくもう一度蹴り上げる。

「少し、何ですか?」

 冷たい目で見下ろすフェオの瞳はやはり殺意よりもっと恐ろしいものにまみれている。

「ほら、どうしたんですか?かかってこないのですか?」

 そんなセリフを笑顔で吐きつつフェオは何度も肋骨に掌底を入れていく。もはやレオには自分の意思で呼吸をすることもままならない。それでも何度も何度でも立ち上がるレオが少し哀れになってくる。と同時に恐ろしくなってくる。余りにも執念深すぎる。

「この程度だと何度でも立ちますか?じゃあ私の本気少しだけお見せしましょう。」

 フェオの構えが変わった、低い構えだ、フェオの一番得意な構えだ。そこから繰り出される攻撃を俺は何度も見ている。自ら巻き起こした風にたなびく銀糸の髪はまるで地吹雪の如く、貫く一閃はまるで一条の光のようで、うねる体躯は風のように軽く見えてしまう。されどその一撃は少女一人分の体重とフェオの誇る速さの乗った一撃だ、軽い訳もなく当然とてつもなく重い。

 そして、その一撃は確実にレオを殺してしまえる。されど殺すことは非ず、首の皮一枚だけをそいで、同時に胸に掌底を当てる。肋骨が折れる音が会場に響き渡り、レオは血を吐いて気絶した。

「しょ……勝負アリ!!!」

 審判が叫ぶと同時に会場がどよめき立つ。皆口々にこういうのだ。

「これまでの試合と次元が違いすぎる。天使に選ばれる人間はこんなに強いのか?」

 だが、フェオと同等に戦えるものを俺は少なくともあと三人知っている。

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