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器用度チート。実は有能なんです。(Dexterity cheat Smith)  作者: イベリア
第三章 この章は色々と荒れ狂うでしょう
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十一日目昼 鍛え上げられた鋼と蒸気系の二つのネジがしっかりと噛み合うでしょう

 アエラとリヴが出て行ってしばらくするとようやく寝ていた他の面々が起きてきた。にしてもまぁ、男のいる中でよく寝られるなこの女たち。俺は案の定リヴとアエラについての質問を四方八方からぶつけられていたわけだが、それも昼過ぎになってようやく落ち着く。落ち着いたというより矛先が変わったのだ。アエラに手を引かれて随分と可愛らしい服装に身を包み、しっかりと髪も整えられた顔の真っ赤なリヴが帰ってきたのだ。

「驚いた、それリヴか?」

 もうすっかり、敬語を使う気も失せた神様が今度は女として株を上げ始めて流石の俺も驚かざるを得なかった。流石の俺というのは語弊があるかも知れない、なんせ俺はここ最近驚いてばかりなのだから。

「そうだよ。どうかな?驚く程可愛いと思わないかな?」

 アエラがその無い胸を張りながら自らのセンスを誇る。いや、まったくもっていいセンスをしている。鍛冶場の男勝りな女が、どこぞの名家で育てられた人形のような令嬢のような様に早変わりしている。その体からはほのかに洗顔料の匂いが香っている。つまり、アエラは甲斐甲斐しくもリヴを風呂にいれ、髪を梳かし、結って、服屋にも連れて行ったのだ。それは見違えるわけだ。

「へ、変じゃないかな?」

 アエラの後ろでリヴが恥ずかしそうに消え入るような声でつぶやいている。そんな様も可愛らしい。

「変じゃない、すっごく可愛いぞ!」

 こういう時女というのは強いな。そう思えるくらいにまっすぐな感想をシルヴィアが述べた。

「あ、ありがと……。」

 相変わらずリヴはたじたじだ。しかも、しっかりとアエラの手を握って離さない。信頼関係はしっかりと構築したというところだろうか。一体どんな魔法を使えばものの数時間でこうなるのか。男の俺にも出来る方法をぜひご教授願いたい。

「リヴ様、お化粧してます?唇もツヤツヤになってます。」

 フェオがそう言うと、アエラがまたも胸を張る。ただし、今回ばかりはお前が胸を張るところではないように思える。

「してないんだこれで。お風呂で少しいい洗顔料を使ったらこのとおり。透き通る白磁の肌にうるおう唇。つややかな髪に、長いまつげ。すごく素質が良かったんだよ。」

 確かに、化粧をしている不自然さはない。それに加えてこの整いよう。世のご婦人方大激怒間違いなしの仕上がりだ。ついでにしおらしさが加わって、リヴとは思えないのである。

「そういえば、なんでみんなリヴって呼んでるのにお前は驚かないんだ?」

 リヴの名を持つ者は鍛冶神リヴ以外にない。なにせ、この名前は一万年も前の言語の名前でその言語は今はもう失われている。神代の言語なのだ。

「それは、彼女から聞いたんだ。この子本当にすごいね、鍛冶師ならみんながこの子を崇めてるんだろう?」

 なぜかアエラが嬉しそうだ。いや、嬉しいのだ。見惚れた相手が、自分を慕ってくれている相手が神だった。そこで腰を抜かさないのがアエラらしいとも思えるが。アエラは基本動揺しない。肝が据わっているのか、全て想定内なのか。どちらにせよ恐ろしい女である。

「もちろん、俺も崇めてたんだがな。女装してリヴの神格を継げと言われたり、いろいろでこの神様は自分の株を大暴落させてしまったんだよ。」

 やれやれと首を振りながら言うとアエラが俺の肩を叩いて優しい目で言ってきた。

「悪気があったわけじゃないんだよ。この子はね、君のこと好きになっちゃったけど人と神は交われないからいっそ君を神にしちゃえばいいって思っただけ。でも、そんなの素直に伝えられる子じゃじゃないんだ。許してあげておくれ。」

 なんだかアエラがちょっと見ないうちにリヴのよき理解者になっている。ただ、アエラの後ろに隠れているリヴがとても恥ずかしそうにしている。若干公開処刑だからやめてやれ。

「いや、許すもなにもたいして怒ってない。継がない選択肢も与えてくれたんだしな。ただ、神様って案外身近なものだって思っただけだ。」

 そう言って笑ってみせると、アエラの後ろでリヴの表情が少し明るくなった気がした。リヴも鍛冶一辺倒な脳筋でなければ惚れていたかもしれない。そう思わせるくらい今のリヴは可愛らしかった。

「ご主人様!」

 そんな事を言っているとふと頭の上にわずかな重みッ……。

「ご飯にしましょ?」

 振り返るとそこには顔いっぱいに笑顔を貼り付けたフェオがいた。

「そうだね、頃合だね。おいで、リヴせっかくフェオが作ってくれたんだみんなで楽しもうよ。」

 本当によくできた嫁である。一体いつの間に作ったのだろうか。そしてアエラはびっくりするほど策士である。しっかりとリヴの横を確保してしかも、自然に俺との距離を少しだけ離している。

「おぉ、一体いつの間に作ったんだ?あ、私の分もあるか?」

 そう言って自然にリヴと俺の間に割って入ってくるシルヴィアに関しても全てアエラの計算通りなのだろうか。何を吹き込んだのかは知らない、でも今はリヴとちょうどいいと思える程度の心の距離を感じる。いや、これまでがおかしかったのだ。俺の鍛冶仕事に惚れ込んだからといって過程をすっとばしすぎているのだ。本人の気持ちも本当にそれが恋愛感情なのかもはっきりしていないはずなのにあんなことを言われてはこちらも反応に困るのだ。もしも本当にそうなのなら俺はしっかりと彼女の気持ちに答えられないことを伝える義務があるわけだ。おそらくアエラはそれを見つめ直す時間を作らせたのだろう。

「美味しいね、リヴ。フェオは料理が上手だ。ボクもこれくらい美味しいものを作れたらいいんだけど。」

 ほんの少し離れたところでリヴとアエラが楽しそうに食事をしている。

「じゃあ、アタシが味見したげる。」

 完全にふたりの世界なのだろうか。リヴはアエラの影に隠れているせいか先程までの消え入りそうな声ではなく普通に会話をしている。

「ありがとう、じゃあ今度またボクの家においでよ。味見役としてね?」

 本当にどんな魔法を使ったのだろうか、あのリヴがすごく健全に会話をしている。

「にしても、本当にフェオはすごいないつの間に用意してたんだ?」

 向こうは二人だけの世界のようだしこちらはこちらで楽しもう。

「えへへ、じつは昨日寝る前に仕込んでおいたんですよ。」

 そういえば、武器の作成中にフェオは全員の夜食を作りに行った。その時に作っておいたのだろう。そして隠しておいたのだろう。

「はー、すごいなフェオ。おい、アルゼノぉ尻に敷かれるなよ?」

 シルヴィアは一体何を考えて発言しているのだろうか。いや、こういう場面に限ってなにも考えてないのがシルヴィアだ。

「まだ。そういうのじゃないですよ。」

 まだ。を強調して言って笑ってみせた。正直俺の心は固まっている。だから、リヴが俺じゃなくてアエラを好きになったとしても問題はない。いや、厳密にはあるのだが正直本人がそれでいいなら俺は口を挟む余地はない。最初から俺のことを好きになったことがないなんて言われるのは少し残念だが都合は良い。なんにせよ、今は全部がリヴの判断を待てばいいと思う。正直、明日にはアエラに告白している姿しか思い浮かばないが……。

もうお分かりかもしれませんが蒸気系ネジとはアエラのことです。スチームパンクな格好をイメージしているのでこんなふうに表現しました。

鍛え上げられた鋼のネジはリヴです。あの駄女神自体鋼を鍛えますからねw

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