二日目正午 吹っ飛んでいたネジは次第に落ち着きを見せ昼過ぎには収まるでしょう
とりあえず、サボっていいなら義を通しに行きたい。ということで我が師ゴレリヴァの所をへ来た。
「すみません、なんかしばらく憲兵になることになって。」
とりあえず、謝ってみたはいいもの状況を説明できる気がしない。
「あぁ、まぁ仕方ない。大方憲兵に捕まって強引にだろう。あの連中頭のネジが緩いからな。」
「聞き捨てならん、と言いたいが残念ながらそのとおりなんだよな。おかげでこんなふうにサボれる訳だ。」
師匠の言葉にこの養女のような上司がやれやれと、首を振る。
「おっと、そう言うあんたは千里走りのシルヴィアか?良かったな、アルゼノ。この人はしっかりネジが閉まってる人だ。」
あぁ、しまってない人間が過半数みたいに。いや、実際そうなのだが。
「はぁ、それは良かった。」
思わず大きくため息をついて金床の前の丸椅子にへたりこんだ。
「先輩、よかったら鎧調整しません。ところどころ調整が甘いみたいなんで。」
そう言って手を差し出す。
「できるのか?」
シルヴィアと呼ばれたこの幼女先輩は不思議そうに尋ねる。しかしどちらかというと俺の本業は鍛冶師。さらに裏付けをしてくれるであろう師匠もここにいる。
「こいつ、鍛冶仕事に関しちゃ俺よりもうまいことは確認済みだぞ。」
そう、これだ。こういういたって平凡なやりとりがしたかったんだよ。あぁ、なぜか涙が出てきた。
「おぉ、あのゴレリヴァ殿が言うなら間違いはないな。是非ともやってくれ。」
そう言いながら、甲冑を脱ぎ始める。最初はその下に何も着ていないのではないかという悪寒と予感を抱いていたが中にはしっかりとインナーを着ており、夏場なら街で見かけてもおかしくはない格好になった。あぁ、俺もこの世界に毒されてきたなと少し悲しくなった。
「ふぅ……、良かった。」
思わずつぶやいてしまったが俺は悪くない、世界が悪い。
「どうした?」
深い溜息を着いた俺を心配してゴレリヴァが訪ねてくる。
「いや、鎧を脱いだ時にもしかしたらまたおかしなところでもあるかと思いまして。」
それを聞いて、シルヴィアがクスクスと笑い出す。
「なんだったら、鎧を脱いだら裸だと良かったか?」
思わず喉が鳴る。わけもない。なんたって目の前の女は身長もかなり低く、その平坦で薄っぺらな胸部にはなんの魅力も感じない。
「あ、そういうのいいっす。」
あぁ、常識人ならもっと魅力的な人が良かった。でも、常識人が居ただけでも少しは嬉しい、いや、正直かなり助かっている。
「お前ちょっとひどくないか?それは、私は子供みたいに見えるかもしれないけどれっきとした女なんだぞ。」
あぁ、ひどく常識的だ。なんか感動してきた。そんなことを思いながら、シルヴィアの鎧を拾い上げ金床で調整を始める、泣きながら。
「お前、なんで泣いてるんだ?」
シルヴィアが、首をかしげながら聞いてくる。こうして見るとなんだか可愛いかも知れない。こんな娘だったら嬉しいかも知れない。
「いや、ここに常識人しかいないのがなんか嬉しくて……。」
そんなことを言ったら、二人に気の毒そうな目をされた。
「お前、苦労してるのな。」
しかも、打ち合わせでもしたかのように声を揃えて言われた。
シルヴィアの鎧を直し終わった頃にはもうすっかり日が傾いていた。シルヴィアはその鎧を着なおすと素直に賞賛してくれた。
「おぉ、これはすごい。まるで体の一部みたいだ。ついでに剣も少し研いで欲しいのだが……。」
この要求は少しまずいかも知れない。
「あぁ、それはやめといたほうがいいぞ。こいつに研がせると鞘がバターみたいに切り裂かれる事に成る。」
さすが、ゴレリヴァである。俺の求めた言葉を的確に……。
「そこまでなのか?」
シルヴィアが信じられないという目で見てくる。
「えっと、まぁ……。」
うまく説明できないでいると、ゴレリヴァが又しても助け舟を出してくれる。
「そこの石畳に穴が空いてるだろう?それはこの前こいつの打った剣をただ置いた場所だ。」
あぁ、なんか幸せってこんなに近くにあったんだなぁ。
「ゴレリヴァ殿にまで言われては疑う余地もないな。にしてもお前はアレだな、その技術に関しては頭のネジが緩いな。」
この世界で一番言われたくないことを言われた。