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器用度チート。実は有能なんです。(Dexterity cheat Smith)  作者: イベリア
第三章 この章は色々と荒れ狂うでしょう
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七日目午後 ネジは多少のザワつきを見せるものの大した被害はもたらさないでしょう。

 何十何百と鎚を振り下ろした剣がようやく形になった。木剣では再現しなかった突起を持たせ相手の武器を破壊するタイミングを調整する設計になっている。フェオが使う二段目のパリィに加え武器破壊による敵の動揺を誘って隙を大きくし、三段目の致命攻撃を最大限確実に叩き込むための設計だ。自分で言うのもなんだがこれならフェオのための剣といっても遜色ないだろうと思える仕上がりだ。

「フェオ、できたぞ。ちょっと試しにこの剣構えてるから弾いてみてくれ。」

 そう言いながらフェオに出来上がった剣を渡して自分はそこらへんにあったなまくらを構えてみる。なまくらとは言え鉄の塊だそう易々とは折れることはない。

「分かりました!」

 フェオはいつもどおりの低姿勢で普段より少し上向きに飛ぶ姿勢をとる。その間に俺も構えをしっかりと決めてフェオの二段目の攻撃に備える。

「よし、来い!」

 開始の合図を告げるとフェオが二段目から始まる攻撃を仕掛けてきた。

「はぁっ!!」

 気合とともに全体重を利用したパリィはしっかりと剣を跳ね上げていく。そして狙い通りに、パリィが終わる瞬間に剣が折れる。

 それを確認すると、一応念のために後方に飛び退くがフェオもそれ以上攻撃を続けない。というよりは続けられなかった。パリィをした時の感触に驚いて固まってしまったのだ。

「フェオどうだ?これなら使いやすいんじゃないか?」

 そう言いながらフェオを見ると我に帰ったような表情を一瞬浮かべたあと、思い出したかのように興奮したような態度になる。

「すごいです!まるで魔法みたい!いつもみたいにやっただけなのに気がついたら剣が折れてて。これならどんな相手でも負ける気がしません!!」

 フェオは本当にしっぽが雄弁だ。またちぎれそうなくらいに左右にブンブンと動いている。おかげで本心が一瞬でわかるのが非常に信用しやすいところだ。

「魔法か……。これから魔法を使うのはフェオなんだがな。」

 目で少し促してみるとフェオはハッとしたように剣を見る。

「魔剣化ですね?」

 そう言いながら魔力を込める。相変わらず膨大な魔力量らしく青い光を放つ短剣が出来上がる。魔剣化されたエルドリアはより美しく輝き、硬度と柔軟性、その両方をとてつもないレベルで発揮した剣になっていくのだ。これならリヴのあのネジが緩んだ頭でも驚くだろう。

「ところで、お前魔剣化以外に魔法とか使えないの?」

 思わず気になって聞いてみた。安彦いわくマジヤベー量の魔力を保有しているらしいのだから。

「魔法は何も使えないんです。以前初級の簡単な魔法を使おうとしたらおかしくなって部屋中がすすまみれになっちゃったんですよ……。」

 そう言いながらフェオがなんだか恥ずかしそうな顔をしている。そういえば聞いたことある、魔法に対する理解が足りない者の使用による魔法の不発。魔法本来の効果が発揮されず、副作用がかなりの大規模で発生する。

「つまり、あれだ。炎の魔法を使おうとしたけど理解できてなくて不発した?」

「そういうわけです、はい。」

 そういえば、その話には続きがある。そんなミスをする人間はよほどの馬鹿で、今後何年かかろうとも未来永劫魔法など使えないだろう。

「魔力はたくさんあるんだよな?」

 見てわかるが聞いて確かめる。

「それはフェンリル族の特徴の一つでもあるので。」

 なんだかいじめてる気がしてきた。要するに、フェオは魔力だけ言うなら伝説クラスなのにもかかわらず魔法が使えないのだ。そうなると魔剣を作るときくらいしか魔力の使い道がない。つまり、せっかく神から与えられた規格外の能力なのにも関わらず使いどころが非常に狭く限定されていて、使いどころに困っているわけだ。誰がこんな無意味な能力を与えたのだろうか。いや、決まっている。この世界の頭の弱い神々だ。ほかにありえない。

 そんなことを考えていると鍛冶場の扉がノックされる音が聞こえる。

「急に訪ねて申し訳ない。エルスです。」

 まともな方の魔族の訪問者が来る。とても気まずい、いま魔族討伐隊の選考を行っているというのにこんなタイミングできてしまうとは。しかし、来てしまったものは仕方ない迎え入れるとしよう。

「安彦を返しに参りました。」

 あ、まともじゃない方の魔族も連れてきてしまっている。本当に仕方がない、できれば安彦は連れて帰っていただきたい。オレの胃袋のために。

「はい、どうぞ。」

 そう言いながら、いやいやドアを開けると丁寧に頭を下げているエルスが居た。タキシードに身を包もうとも見た目は少女のそれだ。

「ただいまっす、チョリーッス。」

 今すぐ帰れ安彦。もしくはくたばってしまえ。

「いつも急で申し訳ない、連絡手段がないものですから。」

 そう言って深々と頭を下げるエルスの横で安彦は何をアホヅラを晒しているのだろうか。しかもエルスは安彦がどこかへ行かないようにしっかりと手を握っているのだ。まるで母親のようだ。

「安彦、僕は忙しいから帰らなきゃいけないけどアルゼノさんに迷惑かけないようにしっかりと言う事きくんだよ。」

 なんなのだろうか子供をあずけられる親戚のおじさんか何かになったのだろうか俺は。

「わかってるっす。しっかりやるからそろそろ手を話して欲しいっす。」

 対して安彦はこの上なく鬱陶しい。

「もう、ちゃんとわかってるのかな。ごめんなさいアルゼノさん。安彦をお願いします。」

 そう言って終始頭を下げつつ姿を消してしまうが。完全に魔王軍のお母さんにしか見えないのはきっと俺だけではないはず。まぁ、エルスは一応男性なのだが見た目も性格も女性的すぎるのだ。

「お、フェオさん。それ新しい剣ですか?拙者のいないところで師匠に打ってもらうとかマジ妬ましいっす。」

 あぁ、お願いしますエルスさん。今すぐ戻ってきてこの安彦持って帰ってくれませんかね。

 しかしながら、安彦は鍛冶をしている時だけは至ってまともなのだ。故にもうずっと鍛冶場に放り込んでおこうか。

「安彦、お前明日はずっと芯金作ってろ。俺とフェオはちょっと行くところあるから。」

 冷たく言い放ったつもりだが、このバカはなんなのだろうか。何を勘違いしてるのだろうか。

「拙者ひとりで打ってるとかまじ寂しすぎるんで拙者も行くっすよ~。」

 本当についてこなくていいのに。

安彦再来の危機

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