七日目昼 ようやくネジが落ち着き仕事も少しははかどるでしょう。
ようやく国王やら何やらの波乱が過ぎ去り静かになった。何もかもエストリアがマロを連れて行ってくれたおかげである。あの王子には頭が上がる気がしない。
「じゃあ、そろそろ材料もあるしフェオの剣を作るとしよう。」
そう言うとフェオはわかりやすいほどにはしゃいでいる。耳がぴくぴくと動きしっぽが左右にちぎれんばかりに振られている。そんなに振って痛くないのだろうか。
「お願いします!」
期待を込めた眼差しで見られるのは少しばかりプレッシャーではあるが同時にやりがいでもあるのだ。
「どんな剣が使いやすいのか考えてみるからとりあえず模擬戦でもしてみるか……。」
そう言って近くにあった木材で適当に木刀を仕上げる。この程度のことが5分未満で住んでしまうのは我ながら少しおかしいとも思えるが。
「分かりました、じゃあ全力でやるので上手く防いでくださいね。」
万にひとつも怪我をさせたくないそんな彼女の思いをその瞳が雄弁に代弁する。
「大丈夫だ、来い!」
しっかりと構えるとそこにフェオが低空からの一撃を放ってくる。
「やぁ!」
防いだ直後には気合を入れ直したフェオの中段の折り返しの切りつけが襲ってくる。それもかなりの精度で胴を狙うと見せかけた武器狙いの弾き飛ばしだった。
「速っ!!??」
驚きつつも剣をはね上げられないように向きを調整して三段目に繰り出されるであろう首狙いの斬撃に備える。そしてそれは恐るべき速度と精度で気管を狙って放たれた。
同時に咄嗟に繰り出してしまったのは木の目を読んだ武器破壊の掌底と、その直後に胴体、特に肋骨を狙った一撃だった。このままではいくらフェオと言えど肋骨が折れると思い咄嗟に木剣の向きを変え峰を当てる。
「きゃっ!?」
短い悲鳴とともに木剣を砕かれ、腹部に打撃を食らったフェオが軽く吹き飛ぶ。
「わるい、大丈夫か?」
フェオを案じて駆け寄り覗き込むと、フェオの両腕が首に巻きついてきた。
「えへへ、負けちゃったけど捕まえました。」
笑顔を浮かべ少しばかり甘えようというフェオの思惑が少しわかった気がした。
「大丈夫じゃないみたいだな。よし、じゃあお姫様を特等席にお連れしよう。」
そうやって陽気にフェオを抱き抱えてみると案外と軽いものだ。
「え?ご主人様!?」
少しばかり戸惑っているフェオがなんだかいつもと逆で小気味いい。いつもはフェオの危険な発言に俺が戸惑っているのに。
「ほら、どうせ大丈夫なんだろ?わかってるよ、ただちょっと無理させちゃったから。」
笑ってみせてフェオを鍛冶場で俺が仕事してる時にフェオがいつも座る場所に座らせる。
「ご主人様はずるいです……。」
そう言ってフェオが少しばかりすねてしまった。ねだられるまで待っておいたほうが良かったのだろうか。それとももっと抱き上げていたほうがよかったのだろうか。どちらにせよ、フェオの貴重な表情が見れたのは少し特をしたと言えるだろう。
「ご主人様だからな。」
なんて、格好をつけて笑ってみせるが内心ではとても安心している自分が居る。
「ねえ、ご主人様。私、強かったですか?」
そんなことを言いながら顔を覗き込んでくる。
「強かったよ。間違いなく安彦より数段強い。俺も本気になっちゃったしなぁ。」
言いながら炉に芯金の材料を放り込む。
「ご主人様の本気は強すぎます。」
そういえばこれまで本気で戦ったことなんてなかった。安彦と戦った時もさほど本気ではなかった。本気を出してしまうと容赦なく相手を殺してしまいかねないのだ。
「悪かったって。肋骨とかだいじょぶか?」
もう少し早く聞いたほうがよかったかもしれないが、とりあえずフェオの剣の芯金を作りながら訪ねてみた。
「咄嗟に加減してくれたおかげでちょっと痛い程度です。」
そう言って笑ってくれた。本当によく出来た奴隷なのであろうか。色々とあったし男女の仲と言っても過言ではないので彼女というべきだろうか。
「よかった、痛みが引いたらこれから作る予定の剣の模型を作るからそれでもう一回模擬戦だ、今度は本気出さなくていいぞ。使い勝手を確かめるだけだからな。」
芯金を打つ手を休めないまま言う。
「分かりました、次は止めの一撃は自重しますね。」
フェオは苦笑いを浮かべている。なかなかに痛い思いをさせてしまったようだ。
「じゃないとまた痛い思いをさせてしまうからな。」
同じような苦笑いを返した。
ほどなくしてフェオが言い出す。
「もう私大丈夫です。」
人間ならまだ痛むはずだがフェンリルの治癒能力は凄まじいらしく動きを見ても、つついてみても無理をしているようには見えない。
「わかった、じゃあこれを使ってみて欲しいんだ。」
そう言って差し出した模型は極端に湾曲した両刃のククリナイフのような形状の短剣。しかし、片側は直剣としても役割を果たせるように湾曲を抑えてある。
「変わった剣ですね。どうしてこんな形状に?」
そう言ってその木製の模型をあれやこれやと眺め回しているフェオは不思議なもを見るような目をしていた。
「片側はお前の二段目の弾く攻撃をより効果的にするものだ。名づけてパリングククリ。」
そう言うとようやくわかってもらえたようで思惑通りの握り方をしてくれる。
「ご主人様、よくこんな形状思いつきましたね。加えてご主人様の腕なら私の戦い方にぴったりのものができそうな気がします。」
僅かに恐れているような、でも期待に胸をふくらませているような表情でフェオがそういった。
「そういうふうに作るのが鍛冶屋の仕事だ。さぁ、試してみて。」
言いながら構えるとフェオは先程のような低姿勢を取り、そこから低空の一撃目を放ってきた。先ほどと同様に対処はできたが問題は二段目だ。
「はぁ!」
気合とともに繰り出された二段目の攻撃は先程と同じように対処をしたにも関わらずこちらの剣を跳ね除けていった。
そして、そのままの勢いでフェオが三段目をわざと空振りする。先程の約束を守ってくれたようだ。
「すごいです!ご主人様!これ、私の思った通りに相手の剣をはね上げれます。」
喜んでいるのが手に取るようにわかる。なんといってもしっぽが雄弁すぎるのだ。
「うん、思ったとおりの機能があるみたいだな。使いやすかったか?」
尋ねてみるとそれはもう満面の笑顔が咲き乱れる返事が帰ってきた。
「はい!」
魔王討伐隊選考試合編まだ続きます。とはいえ半分は鍛冶仕事の話ですが……。