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器用度チート。実は有能なんです。(Dexterity cheat Smith)  作者: イベリア
第二章 この章でいろいろ明かされるでしょう
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六日目午後 王国で発達したネジは北方フェンリル居住区に直撃しました。十分ご注意ください

 結局どう紹介するか決まらないままここについてしまった。白銀の世界の中、洞窟が大きく口を開けて闇を孕むその胎内からは生暖かい風が噴き出してくる。それに混じって計り知れないほどの巨大な地響きのようないびきが聴こえてくる。

「うぐ~……グガッ……フゴッ……。」

 得体の知れない恐怖そのもののような寝息が止まった。

「いかん!睡眠時無呼吸症候群だ!!」

 思わず飛び込んだ。大仰ないびきをかいているんだから頼むからもっと威厳を持ってくれ。顔も見る前に勝手に死の危険に晒されているとか威厳の欠片もない。

 奥に駆け込むと、そこには大層立派な毛並みを持つ巨大な狼が青い顔をしながら眠っていた。

「おい、あんた起きろ!」

 そう言いながら何度か起こすために体をゆする。自分の何倍もある体躯だ、横向きに変えることなんてできないから無理やりたたき起こすしかない。

「ん……うぐっ……。何者だ……?」

 ようやくこの寝ぼけた狼は起きたようである。吐息が酒臭いのもそこらじゅうに酒瓶が転がっているのも無視しよう、ただ、悲壮感溢れる表情なのはどうも頂けない。仮にも幻の獣で神にほど近い存在と言われているのだ。それがこんな有様ではほかの生物に申し訳が立たない。

「ん?お前フェオか!?」

 どうやら、残念なことにこの駄目狼がフェンリルで間違いないようだ。どうにも威厳の欠片もないしフェオも少し嫌そうな顔をしている。

「お父様なのですか?」

 フェンリルとしての威厳だけでなく父親としての威厳まで一度に失ってしまっている気がしてならない。

「オオー!フェオおぉぉぉ!大きくなったなぁお前!!」

 そう言いながらフェオに泣きつくフェンリル。こんな伝説見たくなかった。

「やだ、ちょっと、離れてくださいお父様。」

 実の娘に嫌がられる伝説の幻獣……。

「なんで、嫌がるんだ?まさかお前まで母さんのように俺を捨てるのかあああぁぁ!!??」

 冴えない労働者のような伝説の幻獣。正直幻滅だ。

「違います!せっかく買ってもらったお洋服が鼻水で台無しになるからです!!??」

 なんだろうか、フェンリルがものすごく哀れになってくるのだが。フェオも少しばかり気を使ってやればいいのに。いや、少しは気を使ってもこれにはうんざりか……。

 そんなこんなで約30分ほどはフェンリルは泣いていた。それも豪快に天地を揺るがす大号泣だ。図体が大きいばかりに鳴き声も大きい。頼むから態度と図体のサイズを揃えて欲しい。と、思った矢先泣き止んだフェンリルの態度はようやく威厳を持ったものになった。正直手遅れなのだが。

「申し訳ない、取り乱したようだ。娘と再開させてくれたことこのフェンリルの名のもと称えよう。我が名はフェンリル、娘を連れ帰りし英雄よその名を聞かせてくれ。」

 なんだろうか、二重人格なのだろうか。それとも先程のが本性なのだろうか。

「俺はアルゼノだ。よろしくフェンリル。」

 一応偉い人なのだがこのフェンリルには敬語を使いたくない。

「アルゼノ、心得た!して、フェオお前とこのアルゼノいかなる関係であるか?」

 最悪の展開だ。フェオが変な行動に出たら俺が噛み付かれかねない。下手をすると殺される。

「はい、お父様。アルゼノ様は私の大切な人です。どうかご理解ください。」

 意外な展開だった、フェオの眼差しにはいつものような野獣の眼光ではなく真剣な鋭い光が宿っている。そしてただまっすぐフェンリルの瞳を射抜かんが如く真剣に見つめているのだ。

「なるほど、フェオももう15だったな。我が勇者アルゼノよフェオを頼んでも良いか?」

 その一言は重く、今の今までに手放してきた威厳というものを全て込めたかのように圧倒するに足る力を持って発せされた。

「フェオはいつも俺のことなんやかんやで考えてくれてる。ちょっとおかしなこと言うこともなくはないけどそれでも感謝してるし悪くないと思うんだ。俺はフェオの事好きだ。任せるというなら任された。フェオの幸せなら無理にでもぶんとりに行くさ。」

 そう言って威圧感に負けないようにフェンリルの瞳を見つめる。

「優しい男だ、そしていい男を選んだものだ。フェオこの男を裏切る事などしないよう、努めよ。」

 フェンリルは今度は遠い目をしていた。いくらフェンリルでも人の親。娘の旅立ちを喜びつつもそれを寂しがっているのだろうか。

「ところでなんでフェオとあんたは別れる羽目になったんだ?」

 つい気になった。聞いていいことな気はしないが聞いておきたいことでもあったんだ。

「三年ほど前の話だ。妻はフェンリルである我にももったいないほど美しく慈愛に満ちた女だったのだ。しかし、魔王が世界にかけた狂気の呪い、その影響を色濃く受けてしまった我が妻は俺を裏切り魔王と恋に落ちたのだ……おぉー!なぜ俺を捨てたあああぁぁ!」

 またもフェンリルの威厳が地に落ちた。しかし、事実であるならそれは許せない。

「なるほどな。だとしたらこいつが奴隷商に売られてたのも魔王のせいか。」

 つい口が滑ってしまった。

「なんだと!?それは誠か!?」

 威厳を取り戻したりかと思えば全部ぶち壊しにしてしまったりと大概忙しい幻獣である。

 今にも魔王を倒さんと、住処の洞窟を抜け出そうとするフェンリルを静止した。

「魔王を倒しに行かなかったのには理由があるんだろ?」

 そうであるはずなのだ。狂気の呪いの影響をほとんど受けていないように見えるから冷静に何かを待っていたように思えるのだ。

「その通りだ、我一人では魔王を倒すに至らぬ。しかし、悔しくて仕方ない。この牙で魔王めの首を噛み砕いてやりたいのだ。」

 そう言ってまた遠い目をした。

「なら、同盟と行かないか?あんたと俺たちとで魔王をぶちのめしに行く。それでどうだ?」

 言ってみればフェンリルはフェオの方を気にしている。

「お父様、私奴隷として売られてしまって最初は少し不安でした。でもアルゼノ様と出会えた、私は今幸せです。だからゆっくりお母様を取り戻すため、そのためだけに魔王と戦いましょう?万が一お父様が死んでしまったら呪いが解けたお母様が悲しんでしまいますから。」

 どうやら吹っ切れたようだ。まっすぐこちらを見つめてくる。

「我が勇者アルゼノよ。その提案に乗った。我はどうすればよい?」

 どうやらなんとかなりそうだ。これで頭が緩い奴らもどうにかなるといいのだが。

「俺はとりあえず、王都で休みをもらってくる。それにもしかしたら討伐隊を編成してくれるかも知れない。」

 続けようとしたがフェンリルに遮られた。

「なら王都まで送ろう、自慢ではないが馬車などとは比べ物にならないほど速いぞ。」

 そうは言ってくれても王都にいきなりフェンリルが現れると混乱が起こりかねない。

「気持ちはありがたいけど……。」

 またもフェンリルに遮られた。

「ありがたいなどと水臭いことを言うな。それ行くぞ!」

 そう言って夕暮れの空に向かって駆け出してしまったのだ。俺と、フェオを乗せて。

「話を聞けえええええええええ!!」

 もうどうにでもなればいいのに。

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