六日目朝 本日の降ネジ率は20%となっており穏やかでしょう。
目が覚めると部屋に安彦がいる。すっかり忘れてしまっていたが彼も魔族なのである。目が覚めて部屋の中にいるととても心臓に悪いのである。
「うおっ、なんでここにいるんだよ!!」
思わず飛び起きてしまう。
「あ、すんません。なんか拙者に魔王軍からの使者が来たらしいんで、なんとか追い返してもらえないかなって思ったんすけど、ちょ、ダメっすか?」
寝耳に水とはこのことというより魔王軍の使者には是非時間を選んで来て欲しい。
「とりあえず、扉の前で待たせてるんすけど。」
一体どんな要件なのだろうか。万に一つ宣戦布告なら相手を間違えているしその場で拘束すればいい。とりあえず、身支度をしたら入ってもらうことにしよう。
「あー、わかった。お前は外に居て俺の身支度が済むまでその人に待っててもらってくれ。」
そう言って安彦を放り出す。チラリと見えたが、支社はどうやらかなり小柄で人間に近い種類の魔族のようだ。
一応礼服に着替えて魔族の使者及び安彦を部屋に招き入れた。
「このような時間に失礼かとは思いましたが、どうしても時間が取れず申し訳ない。まずはこうしてお会いできたことに感謝致します。僕の名前はエルスと言います魔王の側近を務めさせていただきます。」
見たところダークエルフだろうか。耳が長く目が金色に光っている。髪は長く腰まで届くほど。それを束ねて邪魔にならないようにしている。声を聞いたところ少年で、しかし、見たところは少女だ。
「これはアレですね、男の娘ってやつですね?」
おかしいフェオの声が聞こえる。
「なんでいる?」
「ずっといましたよ?」
なぜフェオが嬉しそうに答えるのか俺にはさっぱりわからない。
「いつから居た?」
「それはもう、ご主人様がおめざめになった頃から。」
思わず、脳天にキツめの拳骨を一撃入れてやった。フェオは部屋の隅でうずくまっているので話に支障は来さないだろう。戻ってきたらまた拳骨だ。
「すまない、失礼をした。いきなり男の娘などと。」
そう言って詫びを入れてみるとエルスは笑みで返した。
「気にしませんよ。」
しかし、安彦が茶々を入れる。
「あはは、失礼でも何でもないっすよ。だって男の娘っすよこいつ。」
みるみるエルスの笑顔が凍りつき、先ほどの俺と似たような拳骨を安彦にお見舞いする。部屋の隅で頭を抱えてるのが二人に増えた。
「なんだか、エルスさんも苦労してるみたいですね。」
なんだか親近感が湧いてきた。
「そちらこそ。」
そう言って二人で少し笑ったあと深くため息をついた。
「ところで要件を聞いてもいいですか?」
尋ねてみるとエルスは少しばかり困った表情で返した。
「安彦が魔王軍をやめたことに関係しているのですが……。」
連れて行ってくれるのは正直ありがたい。そのくらいにはこの魔族に苦労させられている。
「とはいえ、安彦はあなたの弟子、返せとは言いません。代わりに少しお貸し頂いて正式に魔王軍の除隊手続きをしたいのですがよろしいですか。」
魔王軍に入隊しようかと思うほどしっかりとした体制と規律で縛られているようだ。
「それはそうですね、手紙一通で魔王軍を辞めるなんて駄目ですね。」
そう言うと安彦が帰ってきてしまった。
「拙者いやっすよ?魔王さまと会うのとかマジ気まずいですし。」
エルスはほとほと困り果てたような顔をしている。
「でも、魔王様心配してたよ。それに魔王様軍隊長のひとりでもある安彦がやめて大変だったんだからね。だから魔王様に顔出してあげてよ。」
困り果てているのに、慈しみ深く優しげな声で語りかける。
「でも、気まずいし。嫌だ、拙者嫌でごーざーる。」
それに対して安彦は子供のような態度と思い出したかのような武士言葉で駄々をこねた。
「魔王様怒ってないから。それに魔王様安彦のこと本当に心配してるんだよ。だから、一回魔王様に元気な顔見せてあげるの。そのくらいの僕のわがまま聞いてくれないかな?」
なんだか魔王軍のイメージが禍々しい地獄の軍勢から魔王軍幼稚園に早変わりした。魔王も相当な苦労人な気がしてならない。そしてこのエルスという少年は優しい副園長先生的な印象になってしまった。幼い容姿と裏腹に高い包容力と強い母性を兼ね備えている。あぁ、なんというか大丈夫なのだろうか魔王軍。
「うん、わかった拙者行ってくる。」
もう、魔王軍の威厳とか恐怖とかまとめてどこかに忘れてきてしまったのではなかろうかこの魔王軍。
「というわけで行ってきていいっすか?」
なんだかなめられてるような気がしてならない非常に腹が立つムカつく。でも、まぁいいか。
「行ってこい、帰ってこなくていいぞ。」
とりあえずぶっきらぼうに答えてみると安彦は少し涙目になっている。精神年齢幼稚園児クラスなのではなかろうか魔王軍。
「苛立つのはわかりますがあまりいじめないであげてくださいね?」
もう、エルスは魔王軍のお母さんなのではなかろうか。いや、エルスは男性なはずなのだが。あぁ、なんというかこれはエルス苦労しそうだ。
「わかった、帰ってきてもいいからとりあえずお前魔王に謝ってこい。」
敵であるはずの魔王をこんなふうにいうのはとても複雑な気持ちになる。
「んじゃ、拙者ちょっと魔王様に謝ってくるっす。」
道中安彦がエルスに苦労をかけないかとても心配である。
「今日はありがとうございました。僕たちは魔王様に報告に戻るのでまた今度お礼でもしに伺います。今日はご迷惑をおかけしました。」
魔王軍、実は心優しい魔族の集まりなのではなかろうか。そう思いながら、背中を見送る。
「なんか、エルスさんってお母さんみたいな人ですね。」
「俺もそう思うが本人の前で言うなよ。」
こうして魔王軍のなんとなくの雰囲気をつかんだと同時に煩わしい人間が一人減った。
新ジャンル、ショタオカン。