五日目昼 どうも主人公です。お気の毒ですが荒ぶるネジは一本追加されました。
どうしたものだろうか、本当にどうしたものだろうか。魔族の弟子などどう扱っていいのかわからない。
「そちらの魔族っぽい雰囲気のお方はどなたでしょうか。」
戦後処理の最中、真っ先に駆けつけたのがエストリアで正直助かった。
「拙者このお方の弟子となり申した。よって戦の手を止めこうやって平伏しているのだ!。」
そう言って威張ってる相手が現在俺の雇い主で、この国で王様の次に偉い人なわけだが。
「あぁ、これはエストリア様。この者を弟子にしないと毎日この国へ攻め入ってくると言っておったため俺も仕方なく……。」
エストリアは一瞬考え込むような仕草をした。そして、そのあとはこの王子の聡明さに驚かされることになった。
「なるほど、そう言われて毎日攻め込む敵がいるよりもそれをそのまま味方にしてしまえば得だという考え方ですね。」
本当に驚きだ、弟子にしてくれと頼んだ時に思ったことをそっくりそのまま推理してみせた。
「その通りです。よろしいでしょうか?」
尋ねると王子はにこやかに答えた。
「幸いこちらに死人は出ておりません。死者が出たのは魔族だけです。魔族に対する恨みといえば折角の城門を壊されたことだけです。直して頂ければまずは監視付きでアルゼノ様の弟子として王宮に来てもらうことはやぶさかではありませんよ。」
またも驚いた、この王子戦後処理が始まってからの短い期間で自国の損害を完全に把握している。
「ということらしい、まずは門を直せ。弟子にするのはそのあとだ!」
そう言うと男は喜んで門の修復の段取りに取り掛かる。
「それはありがたい。者共、門を治すぞ!木を切って参れ!!」
なんだか、魔族に指示を出した気分。
「なんだかこうして魔族が従ってくれているのを見ると自分が魔王になった気分です。」
エストリアがそう言う。
「そうですね、なんとも先が思いやられます。」
そう言って、二人でため息をついた。
「ご主人様、私たちが殺してしまった魔族さんたちどうします?」
フェオが訪ねてきた。そういえばそうだ、特に俺とフェオはかなりの数の魔族を殺してしまった。
「恨まれたらどうしよう……。」
なんだか身震いしてくる。恨まれて寝首を掻かれる可能性を失念していた。
「魔族では強いものこそ正義!それゆえ戦場で鬼神のような振る舞いをされたお方を尊敬するものはおっても恨むものはいません。それに、拙者はあなた様こそ魔王を超える強さをお持ちと考えております。」
魔族の男がそう言う。そういえば、魔族たちが俺に平伏する時も険しい表情をするものはいなく、むしろある種の憧憬に満ちた表情だった。
「それならばいいんだが……。」
まだ、少しばかり恐ろしくて首をすくめていると魔族の男が大笑いで言い放った。
「それに、拙者の大切な師を易々と殺させるとお思いですか?拙者も魔族腕っ節には自身がござる、いざという時は僭越ながら全力にてお守り致す。」
そんな話をしていると気を切りに行っていた魔物たちが帰ってきた。
「切ってきましたぜ親分!」
どうやらこの魔族の男の子分も一応人語を話すようだ。
「ここからは拙者の腕の見せどころ。ご覧くだされ!」
そう言うと魔族の男は小さな手斧を取り出し、器用に木を板に加工していく。
「大親分、腹減ってやせんか?」
魔族の子分が言っている。
「ご主人様、きっと大親分ってご主人様のことです。」
フェオがそう言ってくる。
「いやいや、あるわけないって。こいつらの仲間殺したし、こんなになつかれることなんて……。」
途中で魔族の子分が割り込む。
「大親分は大親分でやんすよ?」
いま確定した、こいつら俺に言っている。
「いやいやいや、わかってる?お前らの仲間殺しちゃったんだよ俺。」
そう言うと子分たちは少しうつむき気味に言う。
「おいら達、戦争に負けたんすよ。それなのに生きてるのは大親分が親分を弟子にとってくれたおかげです。それは仲間を殺されたのは悲しいけどそれでも感謝することはあっても憎むことはありやせん。それに……。」
おかしい、この魔族の子分たち下卑た目をしている。しかもそれはフェオに向いていた。
「それに……?」
嫌な予感しかしない、聞かなければいいのに気になってしまう。
「人間の女っていいっすね。おいら達こんなべっぴんさん見たことねーっす。」
あぁ、こいつら根が野蛮人だ獣だ。ひょっとしてとんでもないものを街に招き入れてしまったのではなかろうか。
「私はご主人様のものです。ご主人様以外が許可なく私をいやらしい目で見ないでください。」
フェオはそう言うが、ぎゃくに俺だったらいいのだろうか。
「ご主人様ならいやらしい目で見ようと、いやらしいことしようが構いませんよ?」
「心の中読まないでくれる?あとそういうの本当に心臓に悪いからやめて!」
女の子がひどい扱いを受けてるのが見てられなくて買っただけなのにどうしてこうなったのだろうか。
「ははは、大親分が羨ましいのでオイラ達も人間の女に惚れてもらえるくらい頑張りやす!」
こいつら、普通にいいやつかもしれない。もしかしら結構常識人なのかもしれない。
「お、いたいた。全く心配する必要もなかったな。」
聞こえてきたのはシルヴィアの声だった。
「あれ?シルヴィア先輩にガルムさんじゃないですか?」
声のする方にはガルムを従えた、シルヴィアがいてこっちに手を振っている。
「よっ!」
エストリアに、シルヴィアにガルム。常識人トリオが揃った。なんだかホッとする。
「聞いたぞ、今回の戦争終わらせたのがお前だってな。すごいじゃないか。」
そう言ってシルヴィアが笑いながら小さな手で背中をバシバシ叩いてくる。手が小さいくせに筋力があるから地味に痛い。
「大親分の知り合いでやんすか?腹減ってるでやんすか?」
魔族の子分が言う。そういえばそんな話だったと今更思い出した。」
「減ってる減ってる、なんだ?魔族の食物か?」
シルヴィアは喜々として答えた。
「じゃあみんなで食べるっすよ。題して戦場で簡単、魔族クッキングっす。」
魔族の子分がそう言うとそこにいた一同声を揃えていった。
「「「おぉ~!」」」
まるで打ち合わせでもしているかのような息の合い様である。
「おぉ……。」
とりあえず中途半端に便乗しておいた。
「まず取り出しますは、鍋。これはオイラ達が出陣の前時に毎回持っているものでやんす。中に水を入れて沸かします。」
そう言って鍋の下に薪をおいて魔法で火を起こす。
「グツグツと煮えたら、先ほど森で捉えてきた鹿を入れやす!」
そう言ってどこから持ってきていつ捌いたのだろうか、見るからに新鮮な鹿の肉を放り込む。
「続いて、調味料をここにたっぷり入れます。」
そう言いながらいくつかの薬草や香草、香辛料と塩を入れていく。既にいい匂いが立ち込め始めている。
「戦のあとは塩多め、こうすると余計に旨く感じるっすよ。」
手際が非常に見事である。ひょっとして魔族って意外と文化的なのかもしれない。
「あとはここに、野菜と麦を入れてしばらく蓋をして似たら完成でやんす。親分!飯っす!」
そう言いながら驚くべき手際で、どこから取り出したのかもわからないちょうど一人前くらいの器に盛っていく。本当に呆れるほどの手際である。
「今行くぞ~!」
そう言いながら魔族の男が小走りでこちらへやって来る。
「拙者も同席して構いませぬか?」
なぜか俺に聞いてきた。
「いいけど、なんで俺に聞いた?」
問い返すと男は満面の笑みで答えた。
「我が師匠故!」
なんだかとてもやりづらい。
魔族が作った昼食は赤唐辛子がピリリと辛く、いくつかの香草の良い香りと鹿の出汁、それから塩味が絶妙に混ざり合いそれはそれはうまかった。戦場でこんなにうまいものを食べている魔族、見た目や行動や服装からは想像できないくらい文化的なのだ。
「いや、こんな文化的なら服装どうにかしろよ。」
思わずつぶやくと魔族が笑って答えた。
「紳士服で戦う魔族みたいっすか?」
想像するととてもカオスである。
「すまん、見たくない。」
誰が背骨の曲がった小人が紳士服を着てボロボロの剣を振り回すところが見たいのだろうか。それこそ、こいつらの親玉である魔族の男のようにほとんど人間の見た目ならば別だが、それでも紳士服で戦争は見たくない。
「ところでお前たち戦場にいない時はどんな格好なんだ?」
ふと気になって聞いてみた。
「人によるっすけど、男は紳士服、女はドレスっす。服に金かけすぎて武器買う金がないっす。」
聞いて後悔した。本当に変に文化的な奴らだ。
こうして、魔族と人間の奇妙な城門修復作業が始まった。魔族の男は非常に手際がよくものの三時間程度で終わった。聞く所によるとこの魔族の男は鍛冶が一番得意であるがほかにも様々な職人技術を持っているらしい。もう、戦争なんてしなければいいのに。
ちなみにですが常識人はあと2,3人しか出てきません。