四日目午後 どうも主人公です王都はネジが飛び交う大混乱。大荒れとなる予想です
夕方頃にはエストリアに頼まれた剣も仕上がりようやくゆっくりできる時間が出来た。そう思っていた時期が俺にもあった。
「とりあえずこれ着てみないか?」
仕上がれば帰ると言っていた神が未だに帰らない。しかも、しきりに俺に女装を勧めてくるのだ。
「ご主人様は、男性のままのほうがいいと思います。」
珍しくフェオが協力的である。
「そっちのほうがなんと言いますか、こう色々と興奮致しますし……。」
前言撤回。フェオはフェオだった。自分の欲望に忠実な、どうしようもない変態だ。
「しかし、たまにはいいかもしれんぞ。愛しの人が自分と同じ体で攻め立てるのだ。」
会話がすごい方向に向かってる気がする。
「それはいいかも知れないですけど……。」
いかん、フェオが篭絡されそうになっている。
「だから、女装はしませんよ!」
思わず叫んでしまった。
「とはいえなぁ、リヴは女神だぞ。それがまるっきり男というわけにもいかないのだが……。」
いくら全鍛冶師の最高神とはいえ譲ってはならない気がする。
「何を言われても俺は女装はしません。というか俺が女装しても気持ち悪いだけでしょ?」
おかしい、目の前で全鍛冶師の夢が項垂れている。
「そうは言われても、アタシはお前にリヴをついで欲しいのだ。」
それ自体は名誉なことなのだ。
「なんでそんなに俺にこだわるんですか?」
尋ねるとリヴは俯いたまま答えた。
「アタシが、初めて剣を作って以来、アタシの剣はほかの誰の剣よりも強かった。だから、初めて人間に負けた。」
リヴの顔が少し赤くなっていくのが見て取れる。
「すべての剣を超えるあの一振りにアタシは惚れ込んでしまったのだ。そして、そんな剣を打てる鍛冶師の虜になってしまったのだ。」
間違えじゃなければ、告白されている。しかし、鍛冶の神だけに惚れる部分も鍛冶一辺倒だ。
「えっと、それとこれとはどういう関係が?」
惚れているから神格を継がせるというのは色々とおかしい。
「わからないか?私をお前の、次のリヴの従僕にして欲しいんだ!お前になら、私の炉をくれてやっても構わない!だから、諦められなくて……。」
「リヴ様!?そんなこと言っちゃダメ!!??」
鍛冶師の女が炉をくれてやると発言する意味。それは、私の初めてをあげる。あなたのために、もう二度と炉にはいれなくなっても構わないということだ。炉に入っていいのは処女と男のみ、ただしリヴとしての神格を持つ者だけは例外である。思春期男子にはこの発言は非常に心臓に悪い、そのせいで口調がおかしくなってしまった。
「いくら神様相手でもご主人様は渡しません。」
背中に柔らかい感触。
「抱きつくな離れろ、心臓に悪い!!!」
あぁ、柔らかい。フェオのおっぱい。どうするどうする、修羅場だ。超修羅場だ。奴隷と神が俺をめぐって争っている。嬉しいやら、恐れ多いやら、心臓に悪いやらで精神がぐちゃくちゃだ。
「アルゼノ様。国王様より、玉座の間にお越しいただくようにとの言伝を賜っております。」
いきなり飛び込んできた救いの手とも思えるこの使用人は顔が青ざめるほどに緊張していた。
「分かりました。」
そう言うと、この使用人が平伏する。
「あぁ、神に相応しきアルゼノ様。どうぞ私ごときに敬語などお使いにならないでくださいませ。」
態度が明らかに違う。一気に身分が上がりすぎて把握不可能すぎる。
「アルゼノ様。恐れ多くもご案内させていただきますので、背を見せる不敬をお許しくださいませ。」
面倒くさい、神様扱いされるのもとても面倒くさい。
「もっとフランクになりません?背中見せるのかも気にしなくていいですし。そっちのほうがやりやすいんで。」
しかし、使用人もかたくなである。
「恐れながら……。」
仕方ない。
「じゃあ、命令です。そんなこといちいち気にしないでください。」
こういう命令みたいなものは使いたくなかった。
「申し訳ありません。肝に銘じます。」
天界の神々は気楽だと聞くが神格の継承権保有者は楽じゃない。
「とりあえずわかりました、案内お願いします。」
そう、言うと使用人は頭を下げつつ振り向き玉座へと先導を始めた。
かくして、玉座の前に来たのだがこれがまた驚くことの連続だった。
「アルゼノ様がお越しなされました。」
使用人が言うと、扉が開け放たれる。国王は玉座に座っておらず、玉座に向かい膝をついている。ちなみに国王は、予想通り先日俺を無理やり確保してこの王宮に連れてきた麻呂だった。ほかにも玉座へ向か道の両脇には幾人もの騎士が並んでいた。
「えっとこれは?」
使用人に聞くと使用人は膝をつき頭を下げながら言った。
「奥へ、玉座にておくつろぎくださいませ。」
とてつもなく嫌な予感がするが、もう従うしかない。
玉座に向かい歩いていくと、俺を眼前に捉えた騎士が膝を折り平伏していく。どこかで見たことあるぞ、これものすごく偉い人を迎える時のやり方だ。これは、玉開きといい王以外が玉座に座る例外の一つ。王が、自らより高い地位にいる人間をもてなす時のやり方である。敗戦後敵の指揮官に対して行ったり、神の使いが来た時に行われる。
仕方なく渋々と玉座に座ると国王が話しだした。
「此度、恐れ多くもあなた様をお呼び立てしたのはかの鍛冶神リヴ様より神格の継承権を賜りしあなた様が我が息子に剣をおつかわしになった御恩によるものでおじゃりまする。」
相変わらず国王は麻呂である。
「あのですね、俺は報酬もらってますし仕事しただけでここまでされるようなことしてないんですよ。」
王は頭をあげない。それどころかより深く平伏する。
「斯様に慈悲深きお言葉賜ってこのマロ・イルゴット心より感謝させていただきまする。」
名前までマロだった。
「あのですね、俺はですね、そんなに遇される覚えはないんですよ。」
「分かっておりますとも、全てはアルゼノさまが慈悲深いが故でおじゃりまするな。」
「話聞いてます?」
「わかっておじゃります。聞いておじゃります。皆の者、宴の用意でおじゃる!」
あぁ、聞いてない。
こうして、苦労が絶えない宴が始まり終わることにはすっかり夜だった。
今日は疲れたし、早く寝たい。そう思いながら部屋に戻ることにした。
「あの、僕の父が大変迷惑をかけたみたいで。父はいつも話を聞かないので……その……ごめんなさい。」
トビが鷹を生むとはこのことだろうか。王子は本当に心根の優しい人間である。
「気にしないでください。国王陛下もきっと我が子の宝を喜んだだけでしょう。俺は今日はもう寝ます。エストリア様も早く寝ないとお体に障りますよ。」
そう言って、部屋に入った。疲れた体をベットに投げ出しそのまま意識が消えていった。
しばらくして、何か違和感を覚え目が覚めた。
「いくらリヴ様といえどご主人様に夜這いとは許せません!。」
小声だがフェオの声である。
「うるさい、アタシはアルゼノに炉をくれてやるのだ。」
同じく小声、今度はリヴの声である。
「ご主人様は私のものです。鍛冶の腕に惚れて急に出てきた泥棒猫には渡しませんよ!!」
不穏な会話である。
「アタシの神格継承者だ!黙れ失せろ消えろ。」
あぁ、目が覚めてしまった。
「お前ら。」
寝ぼけてるという理由で神に対する暴言も何もかも許してもらおう。
「出てけ!この色魔ども!!」
そう言ってリヴとフェオを追い出すと今度はしっかりと施錠をして眠りに就いた。
長い一日だった……。
次の話で一気に色々と世界が見えてくる予定です。
ここまでは話を展開させていくために必要な最低限の役者を集めるためだけのストーリーでした。
皆さん、長らくお待たせして申し訳ありません。
次回予告。
本編本格始動。
「どうも主人公です、大荒れだったネジは台風一過のごとく一気に収束するでしょう。」
あ、あと一話ごとの題名はいつも頭のネジのことを言っています。
聡明な読者さんたちにはバレバレだったかな?