一日目 どうも主人公です。本日は夕暮れどきから夜にかけて頭のネジが飛ぶでしょう。
はじめてのコミカルファンタジーに挑戦です。息抜き作品なんでまったりお茶でも口に含みながら読んでください。
なお、汚れたものに関しては弁償致しません。
というのはほんの少しでも読者様に笑っていただくための冗談として、この小説は最近少し落ち込み気味の家族にほんの少しでも元気になっていただけたら書き始めたものです。
せっかく書いたものはなくならない、どうせなら皆様の笑いの種となれば幸いと投稿しました。
生まれつき、器用さには自信があった。だから職人になろうと思って毎日毎日、剣を研いだ。ある日できた最高の一本の剣は鞘に入れて傾けるだけで鞘を切り裂いて地面を切り裂いてやがてやっと摩擦で止まった。
「って、なんだよこれ。性能いいのに、最高なのに、持ち歩けねぇじゃねえか!!」
「でっけー声出すな。手元が狂ったらどうする?」
気だるそうに煙草をふかしながら答えたのは一応この鍛冶場の主人。やる気無さそうにしながら一日に百本は剣を仕上げる名の知れた鍛冶師だ。
「おっと。すみません。剣ができたんですが鋼の鞘を切り裂いてしまって。」
頭をかきむしりながら火事場の主人は刀を受け取った。
「鞘を切り裂いた?そんなけんあるわけ……。」
言いかけて職人の目が見抜いた。その剣の鋭さを。
「お前。こりゃ、神の宝剣にも勝る大業物だぞ。こんなの鍛えたっていうのか?」
ただ首を縦に二回振ると事の重大さに気づかされた。
「ちょっと待ってろ、今からこいつの鞘を鍛える。」
そう言って取り出してきたのはエルドリア鋼とオリハルコンの原石。エルドリア鋼はこの世界に存在する最も弾性に優れた金属でオリハルコンとの混合により魔力が結合反応を起こし極小の繊維を形成する。それを何度も折り曲げ叩いて伸ばすことにより複雑に絡まり合い、最高の盾の材質となる。現状これを超える強度のものとなると神が直接鍛えた祭器以外は無い。それに、神によって作られた鞘は一つも無い。
「にしてもお前、才能とかそんなものでこんなのは打てねぇぞ。実は神の生まれ変わりとか言われても驚かねぇぞ俺は。」
そう言いながら何度も何度もオリハルコンとエルドリア鋼の合金であるヘパイストス鋼に鎚を振り下ろしている。
「とは言われても、神様ならなんかほかにも取り柄とかあるもんじゃないですか。その点俺は器用だけが取り柄で他に何もありませんよ。」
そう返すと鍛冶場の主人が首をかしげた。
「だから不思議なんだよ。人間にしか思えないのになんでこんな剣打てるのか。大体、初めて打った剣だって俺のより出来が良かったじゃねえか、師匠なんていらなかったんじゃないのか?」
「そう言われましても、俺はただ言われた通りにしてみただけですし。刀鍛冶を教えてくれたのは師匠ですよ。」
そう、このやる気のなさげな火事場の主人は俺の師匠なのだ。
「まったく、出来すぎた弟子を持つと師匠は苦労するぜ。」
そう言いながら、我が師匠は珍しく笑った。
話は変わるが、この鍛冶場の主にして我が師匠。名前はゴレリヴァ、どうも故郷の言葉では鋭い刃という意味らしいが見てくれはなまくら。髪を切るのをめんどくさがり伸び放題の髪を邪魔だからと大雑把に束ねた鍛冶一筋の頑固親父。手入れしてないせいで、煙に燻された髪は元は白髪だったらしいが今では黄ばんでいる。決して不潔ではないが近くによると鉄と炭の匂いが多少鼻につく。
そしてその弟子が俺。アルゼノ。名前には願いという意味が込められているらしいが、いまいち実感はない。
ゴレリヴァが考えうる最高の鞘を作り上げた頃には日が暮れていた。
せっかく作ってくれたものだから試さないと勿体ないので収めてみたら。見事に鞘が切り裂かれてしまった。
「ありえないことが眼前で起こったぞ。」
ゴレリヴァはそう言いながら身をわなわなと震わせている。
「ええ、ありえないはずですよね?」
もちろんそう返すしかない。
「ただの鉄だろ?なんでヘパイストス鋼を切り裂けるんだ?」
確かに使った材質は鉄だけ。加えてまだ刀は研いでいない。
「俺に聞かれてもわかりません。俺いったい何作ったんですか?」
「やっぱりお前本当はリヴの生まれ変わりなんじゃないか?」
リヴとは神代の武器鍛冶である。
「いや、違います。そもそもリヴは女性ですし、俺男ですし。」
そう言うと、ゴレリヴァの目が光る。
「お前ちょっとリヴにあって来い。」
もう一つ補足すると神にはそう、気軽に会えるものじゃない。
「無理ですって。」
「お前なら行ける、これ持って鞘作ってもらえ。」
そんなことは普通無理なわけで。
「一体俺に何を求めてるんですか?」
そう言うと、また煙草を取り出して火をつけて、一息ついてから言った。
「まぁ、冗談はさておき今日も遅い。もう帰れ。」
そう言われて家路に着くことにした。
「はい、お疲れ様でした、ではまたあした。」
勢いで自分で打った剣も作ってもらったけど壊れた鞘も持ってきてしまったがどうするか。
「おいお前、いいもの持ってるじゃねーか。それヘパイストス鋼だよな、ちょっと財布が寂しくてさ。それ置いていってくれない?」
そう言いながら腰にさげている剣に手をかける。そういえば、この体制肘の神経むき出しなんだよなぁとかそんなことを考えながら曲げた肘の下側を人差し指で小突く。
「いっ!!??」
目の前の男には悪いことをした、これをされるとものすごく痛い。
「すみません、師匠がせっかく作ってくれたんで人にあげるのとかちょっともったいなくて。」
あぁ、俺結構冷静だな。そんなことを思いながら普通に歩いて立ち去ろうとした。
「なにしやがったてめえ。ムチャクチャ痛えじゃねえか。」
当たり前だ、神経をもろに骨にぶつけてやった。大の大人でも泣き叫ぶもの。
「あぁ、簡単ですよ。肘とかぶつけるとビーンってなりません?」
俺は、チンピラと何を仲良く話しているんだろうか。
「なるな。」
こいつ腕の痛みは大丈夫なのだろうか。
「それを狙って小突いただけなんでしばらくすると元に戻りますよ。」
何を呑気に話しているのだろうか。
「お前、なんて器用なことしてくれとんじゃあああああ!!??」
あ、また器用って言われた。
「よく言われます。じゃあ先を急ぐんで。」
そう言って、さっさと帰ろうとした矢先、不穏な声が聴こえてくる。
「待ちたまえ!!」
憲兵の声だ。あぁ、こうして冤罪って生まれるんですね母さん。
「君が、この男を暴行したのかね?」
あぁ、母さん今日は帰れそうにありません。
「あ、違います。俺がカツアゲしようとして返り討ちになりました。」
そう、元はといえばこの男が。あれ?
「お前、なに自主してんの!!??そこはさ、大体俺に罪着せるとこだよね?」
「いやいや、罪を着せるだなんてそんな悪いことしないよ。」
この強盗さんなんか変です。
「カツアゲも悪いことだよ?いいの?もう罪犯しちゃってるよ?」
なにかがおかしい、本当にこの強盗なにかがおかしい。
「憲兵さんに見つかって、その上罪を上塗りしたら後が怖いもん。」
何この真面目な強盗、どっかおかしいよね。俺がおかしいのかな?
「事情はよくわかった。にしても強盗は良くないぞ。」
にしても、この強盗が変に真面目で助かった。あぁ、こんな真面目君にすごい痛いことしちゃったなぁ。少し申し訳ない気分になった。
「じゃあ、用は済んだみたいなので帰りますね。」
そう言って立ち去ろうとしたら、本日二度目の不穏な声が聞こえた。
「待ちたまえ。君には話があるのだ。」
神様、俺になんか恨みでもあるんですか?あぁ、早く帰りたい。
「なんですか?俺、早く帰らないと心配されるんですが。」
どうせダメだろうなぁ、と思って一応言ってみる?
「それなら日を改めよう。明日の朝でもいいか?」
はい、そうですよね。ダメですよね。あれ?本日二度目のあれれれれ?
「あの、暴行を罪に問われるとかじゃ?」
そうだとしか思えない留め方だったのに。俺がおかしいのかそれともこいつらがおかしいのか。後者だ、後者であってほしい。
「何を言っているんだ?この程度正当防衛だが?もっとやってもいいくらいだぞ?」
やめて!俺がおかしいみたいな目で見ないで!
「じゃ、じゃあ俺帰りますね。」
そう言うと本日三度目の不穏な声が聞こえてくる。
「待ちたまえ!」
あぁ、なんだよ、なんの恨みがあるって言うんだよ?
「まだ、なにか?」
恐る恐る、問い返すと憲兵は爽やかな笑顔で言った。
「帰り道、護衛は必要かね?」
「ズコー!!??」
ズコーと口にしたのは初めてだ。効果音だと思っていたが、まさか自分の口で言うことになるとは。
その後。騎士とは他愛ない話をしながら一緒に帰りましたとさ。