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貧乳勇者が巨乳魔族を相手にヒャッハーする話

作者: 結城 からく

アマラさんよりアイデアをいただいた短編です。

ありがとうございます。

 暗雲の立ち込める空。

 怪鳥の群れがしゃがれた鳴き声を落とす。

 不毛なる大地は終わり無き混沌を示していた。


 もっとも、このような辺境にも建物はある。

 荒野にそびえる魔王の城。

 漂う瘴気が近付く者を拒んでいた。

 そんな大陸の最果て。

 挑発の如く開け放たれた門前に一人の女が立つ。


「いよいよ最後の戦いか……」


 ショートカットの黒髪に澄んだ瞳。

 鍛練により引き締まったスレンダーな身体つき。

 動きやすさを重視した革鎧は使い込まれた跡があった。

 腰に吊り下げた聖剣こそ、彼女の唯一の武器なのだろう。

 口を固く結び、女は城の正門を抜ける。


 女は勇者と呼ばれる存在だった。

 神の加護を受けた世界の救世主である。

 彼女の目的は魔王討伐。そのために単身でここまでやって来た。


 決して仲間ができなかったわけではない。

 自らの意志で孤高を貫いたのだ。

 別に女戦士や聖女の胸の大きさが気に入らなかったわけではない。

 魔法使いと踊り子の豊満な肉体だって無関係だ。

 あれは言わば、勇者としての裁量である。

 過酷な道のりを味わうのは自分だけでいい。

 そう言った慈悲深い心を以て、勇者は仲間を作るという選択肢を放棄した。


 正門の先には魔王城の入口があった。

 苦い回想を打ち切り、勇者は再度気持ちを引き締める。

 直感が告げるのだ。宿敵は城の最上階にいる、と。

 旅の終わりはすぐそこだった。


「……よし」


 勇者は慎重に城内へと踏み込む。

 侵入して一歩。すぐに強い魔力反応を察知した。

 身構えた勇者は前方を見据える。

 エントランスの中央。そこには一人の美女が佇んでいた。


 彼女は魔王軍の幹部だ。

 背後には数十の配下が控えている。

 妖艶に笑う幹部は勇者に告げた。


「久しぶりねぇ。前に会ったのは闇の塔だったかしら。あの時は本当に痛かったわぁ……」


「…………」


 勇者は答えない。というより、幹部の話を全く聞いていない。

 彼女の視線はある一点に釘付けだった。 


 それは幹部の豊かな胸。はち切れんばかりに大きな双丘が見事な谷間を形作っている。

 きめ細かなもち肌は触らずとも柔らかさを主張していた。

 幹部の美貌も相まって強烈な色香を醸し出す。

 彼女の配下も魅惑的な肉体の持ち主ばかりであった。


「巨乳……」


 勇者が俯きがちに呟いた。

 どす黒い感情が辺りの瘴気を押し退ける。

 世界を救うという想いは薄れ、強い衝動が彼女を支配した。


 勇者は聖剣の柄に手を添えて構える。

 その双眸には剥き出しの殺気があった。

 次の瞬間、勇者は幹部へ突進する。

 反応される前に彼女は叫んだ。


「――パイ・スラッシュ!」


 怒声と共に放たれた居合斬り。

 聖剣から噴出した光の奔流が幹部とその配下を呑み込む。

 抵抗許さぬ正義の鉄槌。

 圧倒的な一撃により、幹部と配下は塵すら残さず消滅した。

 余波で半壊したエントランスで勇者は静かに息を整える。


 絶技パイ・スラッシュ。

 それは勇者が貧乳神との修行で会得した最終奥義である。

 巨乳への憤怒と嫉妬と慟哭を乗せた斬撃は、空を貫き、海を割り、山を砕く。

 まさに一撃必殺を体現するに相応しい。

 欠点を挙げるならば、並の武器では耐え切れずに壊れてしまうことだろう。

 過去にはパイスラッシュの使用後に折れた剣が幾本と存在する。


 しかし、聖剣『巨滅』がその問題を解消した。

 貧乳神から授かった聖剣は、尋常ならざる耐久性を有していたのだ。

 おまけに『相手の巨乳率によって攻撃力が変動する』という特殊能力も付いてきた。

 巨乳率が高ければ高いほど、聖剣はその輝きを増すのである。


 憎き巨乳を殺すための技術と武器。

 勇者にとってこれ以上の祝福はない。

 聖剣とパイ・スラッシュがあれば、どんな巨乳も屠れるのだから。


 貧乳神と語り合った日々を思い出し、勇者は懐かしさに微笑む。

 彼女の為にも巨乳を滅ぼし――否、魔王を斃さねばならない。

 聖剣を提げた勇者は、駆け足でエントランスの階段を進む。

 続々と邪悪な気配が近付いてくるが、速度は落とさない。


 階段を昇り切ったところで、死角から魔族が飛び出してきた。

 グラマラスな体型のサキュバス。カップはおそらくF。

 その事実が勇者の脳を焼き、鎮火した怒りを再燃させる。

 勇者の変化に気付かず、サキュバスは高らかに笑った。


「おーっほっほっほっほ! ここから先は――」


「くっそがああああぁぁあぁっ」


 殺意を剥き出しに一閃。

 聖剣は狙い違わずサキュバスを葬る。

 先ほどの幹部の時よりも激しい斬撃だった。

 サキュバスの方が巨乳率が高かったのだ。

 それを見逃す貧乳の勇者ではない。

 世の中に不平等さに苛立ちつつ、次のフロアへ進む。


 魔王城の二階は入り組んだ廊下が続いていた。

 たくさんの扉があるが、勇者は寄り道をしない。

 無人の部屋に用はないからだ。

 彼女の巨乳センサーは、廊下の最奥だけを示していた。

 三階への階段を見つけた勇者に、二つの影が立ちはだかる。


「アタシは阿吽の阿! サイズはGッ」


「私は阿吽の吽! 同じくGッ」


 看過できない発言であった。

 勇者は足を止め、声の主を見遣る。 

 ド迫力のバストを有する双子の魔族。

 腰のくびれから紡がれる膨らみは凶悪の一言に尽きる。

 露出過多なボンテージ風の装備も実に扇情的だった。


 この世界の魔族はやたらと巨乳が多い。

 末端の者でも胸だけは大きいのだ。

 女が勇者となる決意をした最大の動機でもある。


「どいつもこいつもデカい乳ぶら下げやがって……」


 次々と現れる魔族を前に、勇者の理性は臨界点に達しようとしていた。

 吊り上がった口に散大し切った瞳孔。

 濃密すぎる殺気が靄のように発散される。

 双子の魔族が襲いかかっても、勇者は動こうとしなかった。

 そして鋭い爪が首に触れる寸前、聖剣がぶれて消える。


「……パイ・スラッシュ」


 神速の二連撃が魔族を捉えた。

 聖なる力が廊下を包み、飽和した光が廊下の扉や窓ガラスを吹き飛ばす。

 光が収まった頃、双子の魔族は跡形もなく消え去っていた。

 貧乳の修羅に目覚めた勇者にとって、魔族の攻撃は遅すぎたのだ。

 それこそ、わざと先制を許せるほどには。

 勇者は聖剣を下ろし、荒々しい足取りで三階へ赴く。


 それからも勇者の無双は留まることを知らなかった。

 群がる魔族を蹴散らし、感情のままに暴れまくる。

 階を進めるごとに敵は強くなり、同時にバストサイズも高まった。

 揺れる乳。怒る勇者。完全なる悪循環である。

 しかし、勇者が敗北感に晒されるほど、貧乳神の加護は破壊をもたらした。

 誰も貧乳の進撃を止められない。


「我は魔王軍千人隊長、黒鋼の――」


「うるせぇ、このIカップがッ!」


 全身鎧を纏った女騎士が一太刀で消し炭にされる。

 勇者の観察眼を以てすれば、鎧に隠された爆乳をも見抜けるのだ。

 口上を遮った勇者は、次の獲物へ目を向けた。


「怒りに支配されし幼き勇者よ、貴様が魔王様と戦うなど――」


「誰が幼児体型じゃゴラアアァァァァッ!」


 電光石火で放たれたアッパーカットがローブを着たHカップ魔族を殴り飛ばす。

 魔族は高速回転しながら壁をぶち抜き、放物線を描きながら屋外へ落下した。

 悲痛な声はすぐに聞こえなくなる。


「てめぇらの乳、まとめて削いでやるからなぁぁぁああああ!」


 おぞましい脅し文句を叫びながら、勇者は階段を跳躍していく。

 途中で斬りかかってきたGカップ悪魔は飛び膝蹴りで返り討ちにした。

 魔法を撃とうとしたロリ巨乳は肘鉄で階段から落とす。

 平均Fカップのダークエルフ部隊は、パイ・スラッシュでその階層ごと一掃してやった。


 為す術もなく倒される魔族たち。

 中には罠を仕掛ける者もいたが、勇者の歩みは加速するばかりであった。

 貧乳神の加護は、巨乳の愚策をも打ち砕く。

 なぜ罠が効かないのかと言えば、それは魔族が巨乳だからだ。

 怒髪天を衝く。勇者の想いが理不尽を貫き通す。


 そうして数百の魔族を倒した頃、勇者は最上階へ到達した。

 ついに訪れた最終決戦。世界の命運が決まる瞬間。

 さすがの勇者も冷静さも取り戻す。

 ゆっくりと大扉を開いた勇者は、神妙な面持ちで室内へ入った。

 荘厳な声が彼女を歓迎する。


「よくぞ来た勇者よ。余が魔王だ」


 勇者はハッとした表情で身構えた。

 玉座に座る絶世の美女。

 対峙しただけで分かる威圧感。闇の魔力が肌を刺す。

 そして圧倒的な巨乳。今まで戦ってきたどの魔族よりも大きい。

 黒いドレスの膨らみは、まさに最終兵器と呼ぶに相応しい代物である。

 衣服で見えない状態にも関わらず、魔王の胸は強大な力を主張していた。


「そんな……」


 あまりの戦力差に勇者は絶望する。

 無意識のうちに自身の薄い胸に触れてさらに落ち込んだ。

 しかし、すぐさまネガティブな感情を殺意と怒りに転換する。

 何度となく受けてきた屈辱だ。

 ダメージを食らいはするものの、復活だって早い。

 聖剣を掲げた勇者は、何か喋ろうとする魔王へ突進した。


「待てっ、まだ諸々の段取りが――」


「くたばれ魔王ッ! パイ・スラッシュ!」


 ボス戦前のお約束を知らない勇者はいきなり必殺技を放つ。

 聖なる光の斬撃が床を這い、玉座にいる魔王へ炸裂した。

 部屋全体を揺らす大爆発が起き、光と闇の混ざった魔力が天井を押し上げる。


 全身全霊を込めた一撃だった。

 勝利を確信した勇者は玉座を見て固まる。

 そこには無傷の魔王が立っていた。

 朱い双眸が勇者を射抜く。


「フン、何だ今のは。痛くも痒くもない。ふざけているのか?」


 腕組みする魔王は、余裕綽々といった様子で鼻を鳴らした。

 パイ・スラッシュを受けたはずなのに、外傷は見当たらない。

 被害と言えば、ドレスの端々に切れ目が走った程度だ。


 勇者は狼狽する。

 正真正銘、最強の攻撃が通用しなかった。

 それはこの戦いでの実質的な敗北を意味する。

 バーサーカーのような勇者に他の策などなかった。

 焦る彼女はもう一度パイ・スラッシュを撃とうとして、止まる。

 見開かれた目は、魔王の胸部に注目していた。

 勇者の視線に気付いた魔王が首を傾げる。


「ん……?」


 魔王の凶悪な胸の形が崩れて波打っていた。

 ぷるぷると動く様はまるでプリンか何かのようである。

 いつの間にか勇者の顔が訝しげなものとなっていた。

 数秒後、勇者が出し抜けに声を上げる。


「あっ」


 ずるり、と魔王のドレスの切れ目から何かが零れ落ちた。

 派手な水音が室内に響く。

 それは二匹の大きなスライムだった。

 柔らかボディーで床の上を蠢く。

 胸部の膨らみがなくなったドレスが、ぺらぺらと虚しい音を立てた。


「…………」


「…………」


 胸から滑り落ちた二匹のスライム。

 姿を消した双丘。

 唐突に出現した絶壁。

 これらから導き出される結論は一つだった。

 気まずい沈黙の中、勇者は言う。


「虚乳、だと……?」


 魔王の肩がびくりと跳ねた。図星らしい。

 そう、魔王の巨乳は見せかけの紛い物だった。

 スライムを詰め物にして誤魔化していたようである。

 パイ・スラッシュが効かなかったのも、魔王が貧乳だったからだ。

 巨乳率が低いせいで、聖剣の攻撃力が著しく弱まったに違いない。

 エフェクトだけがやたらと派手だったのは、魔王に対する無意識の嫌がらせか。


 魔王は縮こまり、両手をそっと胸に当てた。

 微かに柔らかな感触がある。お世辞にも大きいとは言えない。

 彼女は震える声で弁明し始めた。


「だ、だってこれは突然変異だから、仕方ないし……? 周りは巨乳だらけなのに、余だけが貧乳だったら立つ瀬がないではないか……」


 必死に言い訳をする魔王。

 そこに先ほどまでの威厳など欠片もなかった。

 仕舞いには涙目になっている始末である。

 そんな魔王に勇者は歩み寄り、優しく抱き締めた。

 困惑する魔王をよそに勇者は囁く。


「魔王……分かるよ、あなたの気持ち。辛かったね」


「うぅ、勇者ぁ……」


 同志故に伝わる温かい言葉。

 堪らず魔王は涙を流した。

 彼女も孤独だったのだ。

 巨乳ばかりの魔族には、魔王の苦悩を理解できる者はいなかったのだろう。


 かつて宿敵だった魔王と勇者は熱い抱擁を交わす。

 貧乳。それが彼女たちの共通点であり、唯一の繋がりであった。

 それ以上の言葉などいらない。

 こうして世界の行方を左右する戦いは、意外な結末で幕を閉じた。


 後日、『貧乳教会』なる組織が誕生した。

 教祖である魔王と勇者は、大陸各地に赴いて貧乳の素晴らしさと魅力について説いたという。

 結果的に貧乳派の人間が増え、どの女性も胸を張って生きられる世の中となった。

 勇者の選択と魔王の決意があらゆる垣根を越えて世界を変えたのだ。

 この出来事は後世において『貧乳革命』と称され、末永く語り継がれたのであった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 草生えるwww [気になる点] 強いて言えば後の勇者や魔王の子孫に巨乳の子が生まれなかったかどうかが気になる。 貧乳教会の教えに生まれながら反しちゃうことになるしね。 [一言] >『貧乳革…
[一言] 貧乳無双! 最高に狂ってやがるぜ。 いい意味で突き抜け過ぎて面白かったです。
[良い点] なんだこの作品!? [気になる点] なんだこの作品!? [一言] なんだこの作品!? もう顔中草まみれや
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