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幼な妻の剣と盾  作者: 雪見桜
番外編
11/13

家族の絆・前

全3話の番外編となります。主人公の兄・レイリック視点+最後のみリルハ視点です。よろしければお付き合いください。



『レイお兄様、わたし立派な奥方になります!』



それはあまりに早い嫁入りだった。

明るく甘え上手で、笑顔の絶えなかった妹。

今でも「レイお兄様」と私を呼ぶあの高い声が耳の奥に残っている。

わずか13で供も付けずたった1人この国を去っていった妹は、やはり最後まで笑っていた。


リルハは男ばかりが生まれてきた我が家で唯一の女子だ。

歳が一番近い私ですら5歳も離れている末の姫。

当然のごとく父も兄達も勿論私もリルハが可愛くて仕方なかった。

きっと誰よりもあの子は愛され甘やかされ育ってきたのだと思う。


そんなリルハを眺めて父はよく「母によく似たようだ」と呟いていた。

目を細め嬉しそうに言っていたのが印象的で、私もよく覚えている。

ただ、その意味を当時の私は理解できなかった。

厳しさの目立つ母と無邪気なリルハがどうにも繋がらなかったのだ。


その意味を、私はやっと知ることとなる。




「ようこそ、カタへ。歓迎いたします、レイリック殿下」



あれから7年。

妹の夫となったライル殿は、相変わらず快活に笑う気持ちの良い男だった。

人格も素養も申し分ないと父が太鼓判を押したのも納得いくほどに。

誠意には誠意を返し、蛮行には毅然と立ち向かい、そして公私混同することなく常に自身を律することのできる領主。

いくつもの戦場を駆け功績を立てた将軍の名はシモニアにも広く伝わっている。



「快く迎えて下さり感謝致します。お久しぶりですね、ライル殿」



お互いの国の敬礼で挨拶をすれば、次の瞬間には双方ふっと吹き出す。



「何か変な感じだな、やめようか。別に国の公式行事じゃねえんだし。久しぶりだな、レイリック殿」


「はは、そうだな。ライル殿もお変わりない様子で何よりだ」



私はこのライルという男を人間としても好いていた。

強く賢く公正で、しかし奢ることなく誰とでも分け隔てなく接するというのは、簡単そうに見えて非常に難しい。

それを現実にできるだけの人格と才をこの男は持っている。

私よりも10年長く生きるリオドニアの将軍は、全てにおいて私の一歩先をいくようなそんな人物に思えたのだ。それは憧れにも近い感覚なのかもしれない。


そんなライル殿の横、少し下がった位置にリルハはいた。

遠い記憶の中のリルハしか知らない私は、見事な華へと成長した妹にしばらく言葉を忘れてしまう。

背が伸びた。顔つきも、その体も、静かに佇み微笑むその姿も、何もかもが変わっている。

ああ、と軽く涙すら滲んできそうなほどに。



「……久しぶりだね、リル」


「はい、お久しぶりですレイお兄様」


「とても綺麗になった」



思わず本音を呟けば、彼女は照れたように、そして嬉しそうに頬を染めた。

大事にしてもらっているのだと、幸せなのだと、伝わってくるようなそんな笑み。

昔と変わらないものがあるとするのならば、その真っすぐな笑顔だろうか。

良かったとそう素直に思えることが今は嬉しく思う。


とそこまで確認した私は、はっと我に返りその場に跪いた。



「貴国の援助に心より感謝申し上げます。特にカタや南部一帯の方々には多大なる支えをいただきました」


「いえ、こちらこそ貴国の誠意に感謝します。シモニアは我らがリオドニアの大事な盟友、また何かあれば遠慮なく言っていただきたい。カタはいつでも駆け付けましょう」


「……ありがとう。こちらこそ我々の力になれることがあればいつでも頼って欲しい。全力で力になろう」


「はは、そりゃ頼もしい限りだ。ありがとう」



ライル殿から差し出された手に自らの手を乗せ、私達は固く握手をする。

我が国シモニア公国は、リオドニアの支援を受け何とか復興の目途をたてることができた。

今日こうしてカタの都まで足を運んだのは、一重に最も尽力してくれたライル殿やカタの住民達に直接感謝を伝えたかったからだ。



『礼なんて良いって、お互い様だろこういうのは。でもまあ、そうだな。そういうことなら、カタは歓迎するぞ? 兄君が来たらリルも喜ぶだろうしな』


こちらの提案にライル殿が快く応じてくれたのは今からもう数か月前の話。

ずっと伝えたかった言葉を言えたこと、そしてやっと再会できた妹の元気な姿にほっと一息つく。

すると今度は私のすぐ後ろから、思わずといった風な感極まった声が響いた。



「姫様……っ」


「うう、姫様、ご立派になられて」



おそらく必死に堪えていたのが零れてしまったのだろう。

そういえばリルハは城の者達にも大層可愛がられていたなとこんな時になって思い出す。

思わず苦笑して「申し訳ない」と謝りを入れれば、向かいにいるライル殿もリルハも同じように苦笑していた。



「皆も久しぶりね。元気そうで良かった!」



従者達の声に返事をするようリルハが声を上げれば、すすり泣く音はさらに音量を増す。



「ははっ、お前ずいぶん愛されてたんだな。らしいっちゃらしいけどよ」


「えへへ、あっちでもこっちでもお世話になり通しなんですよ私」


「リルが長期不在になったらうちもああなりそうだな。つーか、すでに雰囲気にのまれて泣きそうな奴いるじゃねえか」


「え、ど、どうして!? ちょ、ちょっと、泣かないで下さい皆さん。私が悪い子みたいじゃないですか!」



慌てるリルハを見てどこからか笑い声が響いた。

声が重なり温かな空気に包まれると、何とも懐かしい気持ちになる。




「変わらないね、リル」


「え、ええ? レイお兄様まで!? そんな、私これでも一応20歳なんですよ?」


「うん、そうだね。綺麗なレディになったね」


「……の割に、何だか視線が小さな子供を見守るような類のものに見えるのですが」


「さあ、気のせいではないかな?」



そう、いつでもリルハの周りでは笑顔が絶えなかった。

真っすぐで、いつだって一生懸命だった自慢の妹。

どうやらそれはここへ来てからの7年でも変わらないらしい。

途端に7年前に戻ったような、そんななんとも不思議な気分だ。


相変わらずなやり取りが照れ臭いのか、リルハはコホンと咳をひとつ落とす。

そうして妹は赤くなった顔はそのままに、綺麗に笑った。



「何はともあれ、皆さまシモニアからの長旅お疲れ様でございました。カタは活気溢れる街です、どうかこの滞在が皆さまにとって楽しいものになりますように」


「……ありがとう」



……それでも、どうやら何もかもが変わらないというわけではないようだ。

淀むことなく挨拶するその姿は、私の知らないもの。

そこにいたのは、シモニアの王女としてではなくカタ領主の妻としてのリルハ。

外見だけではなく中身も、健やかなに育ってくれたらしい。



『あの子には強かに生きてもらいたいのですよ。ひとつ芯のある女性になって欲しい』


ふと亡き母の言葉が頭をよぎる。

厳しく笑顔も少なめで、頑固なところがあって、しかし誰よりも慈愛に満ち人のため動いていた母上。


何故だろうか、リルハと母上は全く違うというのにどこか重なって見えた。











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