表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゲーム補正を求めて奮闘しよう!  作者: わんわんこ
【高校1年生編・後半】
99/258

君恋祭の準備を始めよう

監禁事件から2週間ほど過ぎもう11月も第2週目に入った。先輩たちが帰ってきて、私も秋斗と一緒に新しいケータイをゲットした後の頃。

私たち生徒会は既に11月最後の週にある文化祭の準備を始めていた。君恋高校の文化祭は11月の第4週、最後の土日月の3日間をかけて行われる。大学祭と似た規模で行われ、各部活の部長とクラス代表が実行委員となる。私たちのクラスからは夢城さんと木本さんが実行委員として選出済だ。

そして、この文化祭の統括は生徒会の一大仕事となる。

「ですので、前もお伝えしましたが、14日までに各部及びクラスの出し物を提出して下さい。期限に遅れた場合には出場停止となります。」

会長が最高責任者。

「食べ物系をやるところはきちんと別紙をこっちに提出してくださいです!衛生管理を徹底しなければいけないのです!」

泉子先輩が椅子に乗ったまま告げる。椅子に乗らないと後ろまで見えないからだ。

何せ全校生徒1800人の学校だ。各クラスだけで代表者2名×10クラス×3学年で60人。それにたくさんの部活と同好会の部長がいる。

「それから、金銭関係はボクの方に頼むね〜。チェックしないと予算出ないからね!締め切り厳守!さすがのボクでも女の子に甘くできないからね☆」

会計担当の桜井先輩がいつもの調子で言う。君恋祭の時の予算管理は、年度初めの予算申請、年度末の会計監査と並ぶ大仕事で、去年桜井先輩ですら一人では終えられなかったほど大変だ。

「じゃあこれで終わりだ!何か質問ないか?…あれば後ででもいいから来てくれ!以上だ!」

東堂先輩が締め、会議が終わる。



私たちが生徒会室に戻ると、会長とこめちゃんが荷物をいそいそとまとめる。

「それじゃあ我々はこれで失礼しますね。」

会議が終わった直後なのに仕事もせずに会長が帰る理由、それは。

「こめちゃん、お誕生日おめでとう!」

「うんっ!雪ちゃんありがとう!」

今日、11月10日はこめちゃんのお誕生日なのだ。これから二人はデートに行くことになっている。

「こめぴょん、楽しんできてくださいなのです!」

「こっちのことは気にしなくていいからね!」

泉子先輩と秋斗の言葉ににこにこしたこめちゃんは会長と仲良く手を繋いで生徒会室を出ていった。


ふぁ―――。

二人が出て行ってから、みんな一斉に詰めていた息を吐く。

「やっと、行ってくれた…。」

美玲先輩の言葉通り。

「会長、早く会議終わらせたくていつもの数倍オーラが出てたよね、早くしろオーラ。」

「兄さん、公私混同はだめって言ってるのに…。」

大事な彼女(こめちゃん)の付き合って初めての誕生日を一刻も早く祝いたい会長は、1秒でも早く会議を終わらせようと張り詰めた空気を出していた。あと5分延びていたら「こんなに繰り返して言わないと分かりませんか。あなた方の脳みそはナメクジスピードでしか働かないのでしょうね、高校生にもなって嘆かわしい」くらいの暴言は吐きかねない、そんな雰囲気だった。そのせいで最後の質問タイムに誰も手を挙げなかったのだ。

会長様、あなたの処理能力と比べたら私たちだってカメさんスピードですってば。

「それにしても、すごい人数ですよね。あれをまとめきらなきゃいけないなんて…。」

私が呟くと、美玲先輩が苦笑する。

「そうだな。私たちは実行委員として常に開催時本部にいなければいけないし、私たちはあまり回れないと思うが…。これは生徒会に選ばれた運命だと思って諦めてくれ。」

「それは全然。でも、美玲先輩、演劇部ですよね?出られるんですか?」

「それに関しては問題ない。それぞれシフトを組んでね、出られるようにしている。もちろん雪くんたちもだ。まぁ丸1日は無理だろうけどな。」

「むしろ今年は美玲たちは楽だ。」

「ん?どういうことですか、東堂先輩?」

「高校2年はクラスがいくつかまとまって演劇を披露する。全部で3つずつだったか。それは演劇部主催で指導するから、美玲と桜井の場合、部活とクラスの出し物が被っているんだ。」

なるほど。

「あ、今年僕たちはAクラスの出し物に出なくていいことになってるよ。四季先生が去年兄さんたちが疲労困憊しているのを見て、今年は先生方にかけあってくれたんだって。」

四季先生が珍しくまともな働きを!!

「その代わり先生が生徒五人分働くんだって。」

先生っ!身を犠牲にしてらっしゃる!

ん?先生が助っ人って、余計に生徒が必要になるんじゃないか?

「さ、当日の負担を減らすために準備はしっかりしないとな。」

東堂先輩がパンパンっと手を叩いたのを合図にみんな一斉に仕事モードに切り替わる。

「もう出し物を決めて提出してる部活やクラスもあるからそれのチェックと、あの場所の配分割りもやらないとな。上林と俺と美玲でいいな。」

「はい。」

「構わない。」

「会計もいくつか予算申請来ているからやろう秋斗くん!二人きりで!」

「やりますが、ここで、みんなと一緒の場所で、やります。」

「OBOGの方への招待状作りと、それから装飾作りをやるのです!招待状の方はパソコンなので、雉に任せます!」

「はい!」

「装飾作りの方をやりましょう、ゆきぴょん、しゅんぴょん、猿!」

「「はい!」」「 もちろんッス!」

猿も雉も、きゅんがつけてもらえないんだな、と気づいた。



私たちは先輩の言いつけに従ってそれぞれが動き始める。

私は今、泉子先輩班で装飾作りの真っ最中。猿と泉子先輩がタッグを組んでものすごい速さでレースやら何やらを作っている。ちなみにロリコンの猿の顔は憧れの泉子先輩の側にいてデレデレしすぎて既に原形をとどめていない。

私と俊くんは手縫い担当。

なのだが。

「…雪さん。」

緊迫した空気の中、ついに俊くんが声をかけた。

「今話しかけないで、俊くん。私は戦っているの。」

大量に刺さったまち針の目印の中、慎重に縫っていく。

「いったぁ!!!!」

じんわりと指に血が盛り上がる。もう何か所刺しただろうか。

「…ゆきぴょん、私はホラーな衣装を作れとは言ってないのですよ?」

すでに持っている布は私の出血により血染めになっている。元の色が赤系統でよかった。

「だ、だって。針が、針が仕掛けのように出てくるんです…。」

裁縫は大の苦手。ダンスと同じレベルだ。まち針がこれだけ刺さっていたら私にとっては針山の上を歩くも同然。さっきから縫っている針を進めるたびにまち針で手を突き刺している。

「…相田、お前まさかボタン付けも出来ないとか、ないよな?」

「東堂先輩!出来ますとも!流石に!」

家庭科であるんだから、一応できる。家で自分のコートのボタンをつけたことだってある!…お母さんがため息をついてやり直していたが。

「馬場先輩、ゆきに裁縫させるのは無理なんです。俺、代わりたいんですけど。」

「あきときゅんは知っていたですか?」

「そりゃあ、もちろん。小学校の時からありますからね、裁縫。」

「なんで踊りは知らなかったんだよ?」

冬馬くんの質問にこの時ばかりは素直に答えてくれる秋斗。

「ゆき、体育祭では徒競走やリレーばっかりだったし、ダンスじゃなくて組み体操の方やってたから。音楽は、いつも打楽器伴奏に立候補してて、リコーダーでは楽譜の下にカタカナで、ド、レ、ミってふって後は回数練習して体で覚えてたよね。」

「秋斗ぉ!!!それ以上私の忌まわしい過去を暴露しないで!」

秋斗は呆然とする周囲と私の叫びを無視して私の方に歩いてくる。

「ゆき、俺の代わりに会計やって。電卓や計算の方が出来るでしょ?」

「嫌。きっと、出来る!私はやればできる子だもん!」

「やれやれ。強情なゆきにはこれくらい許されるよね。」

「何を」

秋斗は徐に血の滲んだ私の指を掴み、

ぺろっと血を舐めとった。

「!!!!!」

ばっとすぐに手を取り戻したがあまりのことに冬馬くんや俊くんも凝視したままだ。

「意地っ張りゆきはこれくらいしないと聞いてくれないもんね。ほら、向こう行っておいで。ね?」

「は、はい!」

私は頭から湯気を立てたまま桜井先輩の隣に移動する。

確実にあとで「これくらいってどのくらい?」って未羽に訊かれる!盗聴はしてるからな!なんて説明するんだ、こんなもん!

「白猫ちゃんが真っ赤だね!可愛いな、食べちゃいたいくらいだよ!そうだ、僕も指をぺろっとアガッ!」

桜井先輩が、言った瞬間に辞書くらいの厚さがある大量の書類のファイルを勢いよく頭に乗せて沈んだ。

「すみません、こっちのチェックもお願いしますね、桜井先輩。」

冬馬くんの笑顔が黒い。

「…上林くん、海月のそういうところを継いではならんぞ?」

美玲先輩が恐る恐る言い「もう遅いだろ…」と東堂先輩がため息をついた。



こうして私は桜井先輩と予算チェックを行っていくことになった。

順調に提出された紙と必要な金額内訳をチェックしていく。

「あ、うちのクラスだ。」

私たち1-Aは焼きそばをやるらしい。

「あれ?この字…。」

この丸っこい字には見覚えがある。それも最近。

「あ!」

「どうされました?!女王陛下?」

私の大声に雉が慌てたように尋ねるが無視だ。それどころではない。

手帳を出し、見比べると、やはり同じ大きさ、同じ癖。

こないだ倉庫から助けてくれた人だ。うちのクラスの子?誰だったの?

目を指名欄に向ける。

「え、夢城さん?」

そこには、夢城愛佳の名前があった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ