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ゲーム補正を求めて奮闘しよう!  作者: わんわんこ
【高校1年生編・後半】
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一年合宿の京都では包囲網から抜け出そう( 4日目)

「雨っ!」

鮫島くんが飛び出し、明美の右ストレートがみぞおちに決まって倒れた空石雨を起こす。

「ゆき!」

その間にみんなも走り寄ってきて、秋斗が私のことを庇うように空石雨から遠ざけ、がるるると番犬のように唸った。

「今私何もされてないよ!明美も秋斗も落ち着いて!」

「だめよ、雪。こいつに近寄ったらニンシンしちゃうわ!」

よっぽど嫌っているらしく、明美は殴った手をポケットから出したお出かけ用消毒ティッシュ(キ◯イキレイ)で拭いている。

「ごほっ。あ、明美さん。あなたは…俺の行動のせいで俺が嫌いなんですか?」

「えぇ!もちろん!」

「だから俺がラインしても返事がないし、電話しても『おかけになった電話番号は現在使われておりません』になるし、お家には生徒会の男性の様な女性の先輩が般若の形相で立っていたんですか?」

取りうる手段は全部したんですね。明美の対策は全て功を奏していたようだ。

そして美玲先輩が般若の顔だったのは個人的な恨みも入っていた。間違いなく。

「その通りよ!なんであんたなんかと仲良くしなきゃいけないのよ!」

彼はばい菌のように忌み嫌われていることが腑に落ちないらしく首を捻っている。

「でも、他のみなさんは向こうから積極的に近寄ってきましたけど…。」

それはあなたの顔のせいでしょう、ええ。

鮫島くんに支えられてようやく立ち上がった空石雨が明美に手を伸ばすのを明美が跳ね除けて叫ぶ。

「触らないで!汚らわしい!気持ち悪い!」

それを聞いてさすがの彼も傷ついた顔をする。

うーん。同じ言葉を秋斗に吐いたことのある私としてはなかなか古傷が抉られるが…。

「明美。今のは人に対して言う言葉としては適切ではありませんわ。謝りませんと。」

「京子!京子だって嫌な目に遭ったでしょう?!」

「そうですわね。でも言っていいことと悪いことはありますわ。」

「…っ。そ、そうね…。確かに今のは言い過ぎたかもしれない。」

空石雨は恐る恐る明美の方に一歩踏み出すが、明美は一歩下がる。

「わ、悪かったわ!今の言葉は取り消す!」

明美が目を逸らしたまま謝った。

「でも私、あなたに近寄られると鳥肌が立つのよ。ほら。」

本当だ。わざわざブラウスをめくって見せられた腕には見事なサブイボが立っている。

「だから近寄らないで。もう私のことは放っておいてお願いだから!」

自分を睨みつけながら言い切った明美を見て、一瞬口をつぐんだ空石雨はやがて決心したように口を開いた。

「…明美さん。貴女が俺を嫌う理由は俺の女性との行動のせいだと言いましたね。だったら俺が変わったら、貴女も少しはマシになりますか?」

「は?何言って…」

「俺が身を清くしたら。貴女に近づいても逃げられませんか?」

真剣な眼差しの攻略対象者様のこの攻撃に明美がたじろぐ。

それを見て有効な打開策だと判断したのか、彼は更に言い募った。

「俺、これから半年、一切女性に触れません。交流すら断ちます。半年後…高校2年に上がった時、貴女の前できちんと告白してもいいですか?」

うはー!!!会長に引き続く攻略対象者様の告白ラッシュにこっちがビックリだ!

楽しそうにスキップして近くに来た未羽がケータイの録音ボタンを押してるのが見えたぞ!!

「雨、本当か?」

「雹!」

いつの間にか空石雹(そらいしひょう)くんと種村斉(たねむらせい)くんが合流していた。

そんな雹くんの腕には明美並みの鳥肌が。おそらくここにいる明美、未羽、京子に反応しているんだろう。

「うん、本当。気付いたんだ。俺、このままじゃダメだって。」

遅いよ!

「きっかけをくれたのは貴女です、明美さん。友達のために俺のこと張り倒したり、俺に会ってそこまで拒絶反応を示す人はあなたが初めてでした。」

え?そこ?あなたもドMな方?

「本当はやめようって何度も思ってたけど、なぜかダメで…でも、貴女を想ってなら頑張れそうです。いや、やり遂げて見せます。だからどうか俺にチャンスを下さい。お願いします。」

明美の前で頭を下げる美少年に今度は明美が慌てている。

「ちょっと、やめてよ!そんなことここでされても!」

「あなたがうんと言ってくださるまで頭を上げません!」

周りの人がなんだなんだと注目している。そりゃあそうだ。攻略対象者が4人、それに準じる方が3人もいるこの集団だ。人の注目も集まる。

明美がとうとうその状況に耐えられなくなり、ヤケクソで叫んだ。

「分かったわよ!ただ、それで何か了承するとかはないから!」

「本当ですか!!やった!」

美少年がぱあっと顔を明るくして上げる。もともとが儚げで華奢な感じだから、それは大変美しい笑顔だった。

そして未羽がその笑顔を直視して白目を剥いていた。

「未羽ー。帰ってこーい。」

目の前で手を振っても当然反応はない。

「雪!!」

「げっ。」

すっかり存在を忘れていたが、にこにこと笑う金髪紫目の攻略対象者がこちらに近づいてくる。

「久しぶりだな!会いたかったぜ!」

近寄ってきた雹くんを止めたのは笑顔の冬馬くんだ。

「悪いけど、相田に近寄らないでもらえるかな?」

「ゆきは誰にも渡さないから!」

再び私を抱く腕に力を込める秋斗。

公衆の面前でのこれはかなり恥ずかしいから放してほしいなぁ。

それにね、さっきから周りの女性たちが恐ろしい目でこっちを見てるんだよ。あれは「見てる」んじゃなくて「睨んでる」とか「呪い殺そうとしている」とか言った方がいいんじゃないかって目だよ。

だがそんなことを空気の読めない(KY)遊くんが気づくわけもなく言ってくれた。

「え、そいつが雪ちゃんの新しい逆ハーレム要員?!やべえ!レベル高すぎだろ!?」

遊くんのバカっ!

「…逆ハーレム?」

ぴくり、と鮫島くんの眉が上がる。そりゃそうだ、誰でも自分の友達が弄ばれていると言われたら怒るに決まっている。

「鮫島くん、これには大いなる誤解が!私はそんなもの作る気は毛頭なくてっ!今まで私は身に降りかかる恋愛というものを片っ端から全否定してきたけど、これからは誰か好きになったらきちんとその人と向き合っていこうと決心したところなの!そういうわけだから逆ハーレムなんていうのは最初っから全くする気はなくて…!」

「え!?ゆき、どういうこと?!」

「相田、本当か?!」

なぜ庇ってくれていた二人がこっちへの攻撃に転じるの?!

あ、未羽に更なるクリティカルヒット!未羽のヒットポイントは0になった!

「未羽ちゃん!」

「未羽さん!」

未羽がばったり倒れ、こめちゃんと俊くんが慌てて駆け寄る。

でもなんで未羽がクリティカルヒット受けてるんだ?今なんか萌えるポイントあったっけ?


そんなことをしているうちに遠巻きに見ている女性方から明美と私に飛んできている殺視線が威力を増していた。今なら目から破壊光線が撃てそうですよお姉さま方。

「面白くなってきたね!ね、秋斗くん、これから君たちの自由行動に僕たちも混ぜてよ。」

冗談でしょ?!

「いーね!俺も最近変わったっていう天夢のやつらと話してみたいし!」

遊くん!!!周りの視線に気づいて!!

「待って!この状況が見えないの?周りの人が完全に美少年を狙う肉食獣の目で見てるんだよ!?」

「え、むしろいーじゃん。こんなに女の人たちに囲まれているなんてさ!ハーレムハーレム!」

「ハーレムなんていう可愛らしいものかしら?明らかに獲物を狙うハゲタカの目だけど?」

今はお互いに牽制しあっているから向かってこないだけで、一人が誰かに連絡先を訊きに近づいたらあっという間に乱闘になるに違いない、そんな雰囲気だ。

「まぁでも通してもらおうと思えばきっと…。」

「秋斗、甘い!本能むき出しの女性というのは恐ろしいもんだよ?ライブ会場でアイドルに押し掛けるファンの子や、年齢層を上げるならスーパーの安売り30%引きタイムセールや詰め放題に走ってくるおばちゃんたちを想像しなさい!」

「…雪、俺たちは売れ残りの大根や詰め合わせのきゅうりと同じってか…?」

「あーもうっ!問題は、そこじゃないの!ここにいるのは誰だ?!」

私が指したのはこめちゃん。もう顔のむくみは取れて可愛らしい小動物系美少女に戻っている。

「え、わわわわ私?」

「げ、その子は、あの…」

「君恋高校の会長の溺愛彼女!」

斉くんと鮫島くんの言葉にこめちゃんが「溺愛だなんて…」と照れている。

あれを溺愛と呼ばずして何を溺愛というんだい?こめちゃんよ。

「この群衆が押し寄せてこめちゃんにかすり傷でもつけたら…みんな分かるでしょ?」

俊くんが未羽並みにクリティカルヒットを受け、あとの人たちもかの会長様の存在を思い出して青ざめる。

「は、春先輩は優しいよぉ?」

それはあなた限定ですよ!

「まずはどうやってここから抜けるか、よ。」

私はジリジリと包囲網を狭める野生の目をした女性方を見て宣言した。



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