ダンスの練習をしよう
次の日のLHR。
私たちは、議長として教壇にに立ち、上林くんが司会進行を、私が番書することになった。
「まず体育祭実行委員を決めたいと思います。立候補募るんだけど、誰かいない?」
手を挙げる人がいない――はずはない。
「あの、私でよければ」
さりげなく、でもしっかりと手を挙げる夢城さん。
「じゃあ夢城は決定な」
「頑張って、愛佳ちゃん!」
木本さんの声が聞こえてちらっと未羽の方を見ると、未羽はけっという顔をしている。
それ、女としてどうなんだい、未羽さんよ。
「じゃあ、男子で誰か?いないか?」
誰からも手が上がらない。憧れの的、美少女・夢城愛佳と一緒に仕事をすることに怖気づいているらしい。腐っても主人公である夢城さんは、周りがうっとりするくらいの美少女だ。
「困ったな。誰かやらないといけないんだけどな」
「冬馬やればー?」
「俺、もうこっちで手一杯。無理無理!」
「確かになー」
「じゃあ、新田くんは?」
再び木本さんの声がする。さっすがサポートキャラ!
「ごめん俺も無理。ちょっと忙しいんだよー」
秋斗はこうげきをかわした!
人望のある二人はこういう時に必ず名前が上がる。
結局サポートキャラの努力もむなしく、体育委員の山田くんがもう一人の実行委員になった。
「んじゃ、次、席替えな」
上林君の声に教室中が湧きかえる。そりゃ、席替えって一大イベントですよね。
「このくじ引いてって」
私はその間に番号を割り当てた紙を黒板に貼る。
わらわらと集まるクラスメートたちに、がたがたと机を動かす音。懐かしい席替えの風景に前世からの郷愁を感じてぼーっとしてから、はっと我に返った。
どうか、どうか、夢城さんや秋斗と近くになりませんように!
こういうのをフラグと言うんでした。
ドアの近くにある私と上林くんの席は固定している。
その私の後ろが秋斗、秋斗の後ろが未羽、通路を挟んだ上林くんの隣が木本さん、木本さんの斜め左後ろが夢城さん。なんだこの密集具合。
「んじゃあ、決まったな。それじゃ、あとは、体育祭の種目決めだよな。これ、貼っとくから埋めといて」
貼られたのは種目一覧表だ。
私たちが出なきゃいけない競技はそれぞれ2つと、1年女子はダンスがあるので3つ。
あらかじめ、夢城さんが出る種目は未羽から聞いてある。夢城さんは、木本さんと一緒に二人三脚と大玉転がしに出るらしく、書き込んでいた。これはゲーム通りだ。そして、ゲームの大玉転がしでは悪役・相田雪が攻略対象者たちと仲がいい主人公に嫉妬して大玉が来たときに彼女を押し、怪我をさせるらしい。
つまり、ゲームの相田雪は大玉転がしに出ているということだ。
「ゆき、何に出るの?」
「100メートル走と1000メートルリレー」
友達がいないボッチな私に二人三脚などもってのほか。
それから万が一ゲーム補正が効いて夢城さんが大玉から玉入れなどの大人数競技に変わったときのために個人種目を選ぶ必要があった。ということで、この種目になっている。
「ゆき、男子混合だって分かってる?」
「もちろん。これから練習しまくるから」
走るのは苦手じゃない。だから練習次第ではそれなりの順位に食い込めるだろう。
問題は……
「組み分けを発表しまーす」
体育祭実行委員の夢城さんがプリントをもって発表する。
「1-Aあ組 斎藤・山本……」
これは、1年女子が体育祭でやらなければいけないダンスの組み分けだ。
「え組 相田・河合・木本・夢城・横田 以上です。それぞれ組になって練習してください」
やっぱり、同じ組。未羽が「ゲームで同じ組だったからねぇ」とか言っていた。ま、元悪役と元サポートキャラだもんね。
「とりあえず、曲に合わせて動いてみようか。一番中心で踊る人決めなきゃだもんね」
河合さんの掛け声で一斉に予め練習してきている振付を一人ずつやってみる。
中心は周りと違う複雑な動きがあるため、一番うまい人がやるのが定石だ。それでチェックしているというわけ。
「わぁ、愛佳ちゃんうまーい☆」
確かに夢城さんの動きはしなやかで曲によく合っていた。
ふんわり巻いた髪の毛が綺麗に舞って美しい。
「これだけでスチルになる理由は分かるよねー」と隣で未羽がつぶやいていることからすると、おそらくこのシーンはゲームにあるんだろう。
「そんなことない、ちょっとバレエとかやってただけだもん。じゃ次相田さんやってみて?」
「わ、私はいいよ。ダンス苦手だし。だから端がいいなー」
控えめに主張してみたのだけど。
「えー、相田さんってなんでもソツなくこなす感じじゃん☆謙遜とかいらないよ!」
謙遜じゃないのに。
「ゆ……相田さんにしては歯切れ悪い感じだね。さっさとやってよ」
未羽まで言い出す。
いいだろう、やってやろう。この私の動きを見せてやろうじゃないの!
手の先までピンと伸ばし。
静と動を使い分け。
足は膝のところにしっかりつけ。
この物悲しい美しい音楽に合うように表情までつけ。
細部まで気を配る。
どうだ!!!
見せつけた私の前には沈黙する4人。そしてとうとう夢城さんが控えめに口を開いた。
「なんていうか、その、独創的だね」
「あ、あははは☆そんな感じ」
「意外だったなー」
極め付けは未羽だ。
「なんていうか、動くトーテムポールの呪いの儀式みたいだった」
だからダンスは苦手だって言ったんだよ!!!!
次回から体育祭編突入です