一年合宿前に先輩たちにお願いされよう
登場人物紹介に、誰にも需要がないかもしれない生徒会補助員の紹介と、天夢高校のみんなの容姿紹介を追加しました。興味のある方はどうぞご覧ください。
家に帰ってから未羽と電話する。
「ね、一年合宿って、崖落としイベントがあるんじゃなかったっけ?京都奈良って崖なんてあったっけ?」
『ないんじゃない?そもそもゲームでは京都奈良選ばないし。』
「選ぶ?どういうこと?」
『雪、知らなかったの?』
「えへへ。結構日々忙しくてさ。合宿あるってこと忘れてた。」
『はー。あんたらしい。…うちの学校、一学年600人って多いからさ、合宿先って3箇所候補があって、選べるんだよ。一コース200人。A県コースか、東京横浜コースか、奈良京都コース。ゲームでは自動選択でA県。』
A県って名前に誰も違和感を覚えないのは、日本人なのにみんなの髪や瞳の色が黒目黒髪じゃないことに誰もおかしいと思わないのと同じか。
「なぜに?」
『ゲーム制作的には、現実にある場所や施設にしちゃうと著作権とかの関係で色々問題があるんだろうねぇ。だから架空のA県っていうとこにするわけ。ゲームの中では人工のスキー施設があってね、そこで同学年攻略対象者つまり逆ハーなら秋斗くんと上林くんね、彼らとイチャラブすることになるの。それで合宿の散策の最中にそれを妬んだ相田雪が崖から突き落とす!となるわけ。今回はこっちからそのゲーム設定を崩してやろうと思って、A県は最初から選ばなかったの。東京横浜なんて人ごみでしょ?あの二人と行ったら…はい、予想つくよね?だから、京都奈良!』
「なるほどね。それ、ゲーム補正で崩される可能性は?」
『ほぼないね。予め先着順のコース権を確保してあるし。』
「さすが未羽様!…夢城さんは?」
『A県コースを木本さんと選んでた、はず。でもここには補正かかって、こっちのコースに来るかもしれないから、そこのところは念頭に置いて行動計画立ててあるわ。ま、他のみんなも夢城愛佳は苦手だし、避ける方向で行ってくれるんじゃない?』
「ねー未羽。ゲームってまだ続いてんのかな?こめちゃんが主人公だったら、会長個別コースでハッピーエンドなわけでしょ?もうゲームは終わりじゃない?」
『ほう?じゃあ空石雹の雪への俺の女宣言がこめちゃんエンド後に生じたのはなんで?』
「うっ!…ってことは、こめちゃんは主人公、じゃない?」
『そういうことになるわね。まぁ、逆ハーはもう無理でしょ。それをあの女が分かってるかは謎だけど。念には念を入れて、気をつけるにこしたことはないわ。』
「ん、オッケー。」
次の月曜日の放課後。私たちは久しぶりに生徒会の仕事に向かった。
今回、私たちが合宿に行くのは10月の第3週。ちなみに本格的な修学旅行がある先輩方は10月の最終週に行くことになっている。君恋高校の文化祭・君恋祭が11月の末にあるので、先輩たちは帰ってからかなり忙しく過ごすことになる。
「この前の編入中はありがとうございました!お仕事大丈夫でしたか?」
私たちがお礼を言うと、先輩方はヒラヒラ手を振って問題ない、と返してくれる。
「あのドレイ三人組がまるでアリのように働いてくれたからな、大丈夫だった。」
「そういえば、三人はどこです?」
東堂先輩に俊くんが問う。
「今頃燃え尽きて自宅休養してるんじゃないか?」
そうとうこき使ったんですね、先輩方。三人に人権はないらしい。
冬馬くんが話題を変える。
「…こちらに来た天夢高校の皇帝が凄かったと聞きましたが。」
「あぁ。凄かったな。風紀の乱れは過去最悪だったと言っていい。去年こちらに来た生徒たちが大人しかったらしく、すっかり油断してしまったんだ…私の可愛い女の子たちが何人も犠牲にっ!」
「美玲先輩、止めるときに襲われなかったんですか?大丈夫ですか?」
「くっ。あの野郎、私を見て、『俺はもう少し肉付きがいい方が好みです。男性趣味はないので。』と言ったんだ!にっくきケダモノめ。次に会ったら焼いてやる!」
美玲先輩はここでも女性扱いされなかったらしい。
「本当なのです!私は、『あなたはもう少し大人になってからお相手してくれると嬉しいです。』とかぬかしやがったのです!17歳の乙女に向かって失礼なのです!」
外見幼稚園児の泉子先輩はここでも高校生として見られなかったらしい。
「大丈夫、ボクにとっては美玲も泉子も立派な女の子だよ?それにね、綺麗な男の子を否定するのはよくな」
「ところで会長。」
桜井先輩の言葉をぶった切ったのは秋斗だ。
「なんです?」
「俺たちに、お咎めはないんですか?向こうで騒ぎを起こしてしまって…。」
天夢高校との親睦を深めるのが表向きの目的なのに勝負して引っ掻き回してしまったのだから、お咎めが来る可能性はある。
「あぁ、そのことに関しては。むしろ天夢高校の雰囲気は良くなったとの話がこちらに来てますからね。今年の1年はかなり格差があったようなので、マシになって上の学年の生徒は安心しているとのことでしたよ。お手柄です。」
「よかった…。」
俊くんがほぅと息を吐く。
「しかし。」
「「「「「え?」」」」」
「まいこさんをあんな勝負に巻き込んで危険な目に遭わせたことについては、許せませんね。」
こめちゃんを除いた私たち四人の顔がムンクになる。来ると思ってたんだ!!!
「春先輩っ、それに関しては私も同罪です!むしろ、罰なら私が代わりに受けますっ!私は何もしてなくて、みんなは頑張ったんですから!」
「まいこさん…。貴方への罰は、もう決まっています。」
そう言って優しくこめちゃんを抱き寄せ、頭の上にキスを落とす。
「は、春先輩、それは罰じゃないです…。」
「じゃあ続きは、またあとでにしましょう。」
こめちゃんが真っ赤になる。
「…とりあえず、みんなの前で二人の空気作るのはやめろ?一年が凍りついてるだろ?」
この場で言えるのは東堂先輩か美玲先輩だけ。
あとのお二方は止めるつもりもないらしい。
「ハニーちゃんはついに春彦と付き合っちゃったんだね〜残念!でもね、恋愛じゃない結びつきもあると思うんだよ。ボクはハニーちゃんと恋愛の次元を超えてつながバフゥ!」
「どんな繋がりも許しませんよ、尊?」
桜井先輩が会長に踏みつけられていた。
…桜井先輩は、四季先生並みに空気の読めないお方だ。
「あの先輩方、俺たち、明後日から一年合宿で…。」
「知っていますよ。お仕事の方はこちらでやっておきます。」
冬馬くんににっこりする会長。
「あ、みなさんはまいこさんと同じ班なんですよね?しっかり見ていてくださいね?怪我や迷子はあり得ませんし、ナンパなんかは決して見逃さないように。相手には鉄拳をもって後悔させてやってください。特に、俊?あと、相田さん?」
「「はいぃっ!」」
「俊には私が家で散々言っているから分かっているでしょうが、相田さんも女子だけしか入れないところもあるのでくれぐれもよろしく頼みますね。これは会長としての命令です。」
会長!職権濫用です!そんな権限使わなくてもおそらく私たちは逆らえません!
ほら、俊くんが震える子ウサギのようになってますよ!!
「じゃあ私からは、上林くんと新田くんにお願いしよう。」
「「何をです?」」
美玲先輩が冬馬くんと秋斗に向かい合う。
「雪くんに、ゴミ虫が付かないよう、きちんと見張っていてくれ。」
「それは言われなくても。」
「見張りますとも。」
そんなとこで息を合わせる必要はないよ、お二人さん。
「写真もいっぱい撮ってきて、なのです!あきときゅんにお願いしとくのです!」
「分かりました。」
「エロいゆきぴょんや愛らしいこめぴょん、可愛いしゅんぴょんの写真お願いなのです!」
俊くん!!!まだ泉子先輩に男子扱いされてないよ!
「ボクは、いつでもキミたちの心の中にいるからね!寂しくなったらすぐに電話をかけて?ボクが専用の子守唄を」
「絶対にお世話になることはないのでもういいです。」
「秋斗くんは本当に恥ずかしがり屋さんだなぁ〜。冬馬くんもだよー?」
「いえ、謹んでお断りします。」
先輩方は、いつでも変わらないらしい。




