一年合宿のグループを作ろう
編入期間の終了した次の日の日曜日の午後。私は昼まで惰眠を貪った後、未羽、明美、京子、遊くんとファミレスで会うことになった。
「おかえり!秋斗、上林、俊、雪ちゃん、こめちゃん!」
「「「「「ただいまー。」」」」」
遊くんが迎えてくれる。
ぐったりした私たちを見て遊くんが苦笑する。
「お前ら向こうでかなり騒ぎ起こしたらしいじゃん?従兄弟から連絡あったぜ?」
「あれは…やむを得ずというか…。」
「でもさぁ、お前らのおかげで校内の雰囲気変わったってよ?今までは勉強第一、それが出来なければ人じゃないっていう風潮だっただろ?それがお前らのいた期間は薄くなってきて、みんなとギスギスせずに喋れるようになったってさ!勉強は一体になって頑張ろうって方針に変わったとか!」
「それは良かった。」
俊くんがにこっとする。
行った甲斐があったというものだ。私たちの苦労が報われる。ちなみに、あの後、帰り際に気を失っていた俊くん宛てに向こうから電話で謝罪があったらしい。
「そっちは大変だったらしいじゃない?京子、明美、大丈夫?」
「大丈夫ですわ。先輩方や未羽や遊くんが助けてくれましたもの。」
「私は本気で貞操の危機を感じたけどね。何あの男。怖すぎ。イケメンを怖いと思ったのは初めてだわ。この2日ぐらい?いろいろきつかったぁ!つくづく雪、あんた尊敬するわよ。」
その言葉に秋斗と冬馬くんが不愉快そうに眉を寄せたのを見て、慌てて明美が補足する。
「あ、違う違う!二人をあれと一緒にしてるんじゃなくて…その…」
「今回あの方に追われてた時、学校の女子にも結構嫌がらせされましたのよ。それで、初めて雪入学当時の苦労を実感しましたわ。」
「明美…京子ぉ〜!!!」
な、仲間が。私は遂に共感者を得た!
大抵の場合、「イケメンに追われるなんていいじゃん?何ぜーたく言ってんの?」みたいな顔で見られるのだが、真剣に考えてほしい。日常生活、ほぼ毎日顔を合わせる人たちに、刺すような視線を向けられ、無視され、こそこそと陰口を言われ、そして物理的な嫌がらせを受けることを!!豪華な料亭のご飯を与えるから、ゴミ溜めで生活してね☆と言われるようなもんだ。
「結局あのケダモノ皇帝は諦めたの?」
「一応、帰りはしたようですわ。明美の個人情報は入手したようですけど、家に押しかけたりはしてないそうですし…。」
「メアド変えて、ラインのアカウント変えて、電話番号変えて、それから昨日と今日の午後は生徒会の小西先輩がうちで念のため防衛してくれてたんだよ。」
「すごい徹底具合だね。」
「それぐらい追っかけまわされたってこと。はぁ。」
明美も苦労したようだ。
「雪もそれぐらいした方がいいんじゃない?」
「未羽っ!!」
「どういうことですの?」
「ライバルが、増えたみたいだし?」
にやぁという未羽の笑いに、三人が秋斗と冬馬くんを見る。
秋斗は不機嫌そうに顔を顰め、冬馬くんは頭を押さえていた。
「雪、大丈夫ですの?!」
「ああいうケダモノなの?!」
「いや…むしろ、女嫌いなやつだよ。それもかなり徹底した。同じ空気吸うのも嫌がるくらいの。」
「じゃあなんでまた…」
「雪がねぇ、そのかたーい氷のような女嫌いを一部崩しちゃったんだよねぇ?俺の女って言われたんだもんね?」
「え?!何!?雪ちゃんまた逆ハーレム増やしたの?!」
「逆ハーレム言うな、遊くん。なんなら遊くんにあげるわよ?女嫌いみたいだし、男好きかも?」
「じょーだん!!俺は女の子専門ですから。」
「ゆきは色んなとこで魅力振りまくから困るよ…。」
え?馬鹿猿呼ばわりして、喧嘩ふっかけて勉強で競い合うのが魅力振りまく行為なの?
「本当に、相田は目が離せない。これ以上面倒なの増やさないでほしい。負ける気はないけど。」
「なんだと?上林!それはこっちのセリフだ!」
「それよりも!こめちゃんが、とうとう!」
話題を強引に変えると、今度はこめちゃんが顔を真っ赤にしてあわわわわとし始める。病院で異常なし、が出されて今朝お家に帰ってこられたのだ。
「え??なになに??」
「なんですの?」
敏感な恋愛レーダーで気配を悟った女子二人はこめちゃんに迫る。
「…せ、生徒会長の…海月…春彦先輩と、お…おつき合いすることに…なりましたっ!」
「「おおおおおおおおおおお!」」
こちらからすれば、まだ付き合ってなかったのか?くらいなのだが、それは二人を常に目の前で見ているから言える話。明美や京子はそれを知らない。
「あれだよね、こめちゃんが生徒会役員選挙あたりからずっと気にしてた!」
「それ以上にあの会長様の方がこめちゃんを慕われてたと聞きますわ!」
「え?!どんなシチュエーションで告白されたの?チューした?!」
どんなシチュエーション?友達4人と知り合い3人のほんの3メートルくらい前で公開告白を。
チューしたか?そりゃあもう。目の前でバッチリと。
目の前でまざまざと見せつけられたのを思い出した秋斗と冬馬くんがちょっと顔を赤らめたのを見て、女子二人のテンションは急上昇する。こめちゃんはあわあわあわ、としながら、「その、キスはしましたっ」と正直に答えてしまい、二人が嬌声を上げる。
遊くんが、「俺だけ…俺だけ置いていかれる…」とさめざめと泣いており、あれを思い出してしまった俊くんが、遠い目をする。
「俊くん、大変だねぇ、これからもっと。」
「…うん。兄さんがさ、昨日帰ってから、兄さんらしくなく家で浮かれまくって鼻歌歌っててさ…。僕に将来の姉なんだから大事にするようにって言うんだ…。」
会長!!気が早すぎます!!
「僕さ、こめちゃんが一緒にいる場所で一瞬たりとも気を抜けなくなったんだよね…。怪我でもさせようもんなら…!」
「俊くん、ご愁傷様…。」
未羽がさすがに俊くんに憐れみの目を向ける。
「それより、未羽さんはあっちに参加しなくていいの?」
俊くんは女子三人を指さす。
「いーのいーの。大体把握してるから。」
盗聴でな!
「そういえば、未羽ちゃんって、あの空石のバカのことも知ってるよね?なんで?」
「横田はあの場にいなかったわけだし、知り得ないだろ?」
まずい!!!
「それはその、えーっと。」
「え?私は雪の一番のファンだもの。私が雪のこと知らないわけないじゃない?」
そう言って、未羽が私に抱きつく。
その様子に三人はそれほど疑問も持たずにあぁ。と返した。
なんで?!疑問持てよ!
「それよりさぁ、もうすぐ、一年合宿だよな!!もうとっくにグループ申請始まってんだよ。」
ようやく泣いていた状態から復活した遊くんが気を取り直して言う。
「一年合宿はクラス別にされずにグループ組めるし、俺らで組もうぜ?上林とか弓道部の方で組む可能性もあるし、一応確認してから、と思って仮申請だけしか出してなかったんだ。」
「遊、気が利くな!サンキュー!」
「俺もこっちで組むから本申請しよう。」
遊くんがバックから申込用紙を取り出し、冬馬くんに渡す。
「俺?」
「字、きれーだろ?俺だと漢字ミスりそうで。」
「でも俺、ペン持ってないんだけど。」
「あ、俺持ってる。ほら貸してやるよ。」
秋斗がペンケースからペンを取り出して冬馬くんに渡す。
「あれぇ?秋斗くん、そんなペンケースだっけ~?」
ぎく。
「違う違う!これ、9月からなの!」
テンションの高くなった秋斗が嬉しそうに笑う。
「これさ、ゆきからの誕生日プレゼントなんだよ!!これと、これ!」
腕を見せる秋斗。
「バングルですわね!素敵ですわ!」
「でしょ?すっごい大切なんだ!」
にっこにこの秋斗。大したものじゃないのでそこまで喜ばれるとこちらが照れてしまう。
「へぇ。誕生日プレゼント、ねぇ。」
冬馬くんが目を細めてそれらを見たあと、こっちをじぃと見るのであえて視線を外しておく。
冬馬くんはプリントに丁寧に私たちの名前をあいうえお順に書き連ねる。グループは男女別で、それを合体させて1つの班にするのだ。
男子グループ: 上林冬馬 海月俊 新田秋斗 野口遊
女子グループ:相田雪 武富士明美 辻岡京子 増井米子 横田未羽
「班長と副班長は?」
「もうさ、上林くんと雪でいーじゃん。男女それぞれ出さなきゃいけないんだし。」
「え?!そんなのダメに決まってる!」
「名前も一番前だしちょうどいいじゃありませんの。」
秋斗の制止を笑って止める京子。
冬馬くんは満足そうにそのまま自分の名前と私の名前に丸をつけた。
こうなったらどーにでもなれや!と、完全放置の私。
「そういえばさ、どこに行くんだっけ?」
「え、雪、知りませんの?」
「奈良京都だよぉ!雪ちゃん!」
それから私たちは3日後の1年合宿こと修学旅行に備えて買い物に出かけた。旅行は4泊5日。本当は自由行動時間の使い方についてもっと早く色々計画しておくべきだったのだけど、私たちがいなかったため、そこは遊くんたちが決めておいてくれた。買い物自体は、特に必要なものはない、とのことで歯ブラシとかシャンプーとかを買うだけで済んだ。
「あ、大事なものを忘れてたよ!」
「何?未羽。」
「下着ショップ!まだ雪のやつ、2セットしか選んでないし!」
「要らんわ!!」
「でも今回は私たちも必要ですし、行きましょう!」
「ふふふふ。また選んであげるよ、雪、こめちゃん♡」
「助かる〜こないだのは平気なんだけど、古いやつがちょっときつくなっちゃったの。」
「えええええ!こめちゃん、更にまた!」
結局、女子は再び下着ショップに流れ込み、男子は待たされることになった。
と、いうわけで一年合宿編が始まります。結構長い編になりますがお楽しみいただけたらいいなーと思います。後半部は前半部に比べて少しシリアスがあったり動きが大きかったりするのですがお楽しみいただけているのかな、と若干不安になりつつ。




