天夢編入で激闘を繰り広げよう(3日目)
その後の体育。
冬馬くんたちがやっていたのと同じ走り込みだ。さっきの啖呵は全クラスの生徒が聞いていたらしく、同じクラスはもちろん他のクラスの生徒も授業中なのに外を覗いている。
「で?どっちが相手になるんだ?まさか、体育は2組の助っ人を使うとかじゃねーよな?」
「まさか。私が相手になるわよ。」
体力勝負を俊くんに任せるわけにはいかない。
「女が?」
ぴくりと眉を上げるボス猿。
「ふん、やってみてから言ってくれる?」
9本の200メートル競争。体育祭より本気だ。
はぁ、はぁ。
結果は4勝5敗。徒競走とかって、速い人と走ると速くなる、とよく言うよね?まさにあの原理。
最初の1本、2本は負けた。多分こいつ冬馬くんと同レベルだと認識した私の体は必死で火事場の馬鹿力を発揮。3、4、5、6と勝った。しかし流石に足が速いと言われている高校男子には体力負けしてしまい、そのあとの3本は負けた。今は苦しくて声も出せないくらいだ。限界を超えて走った時の常で喉の奥で錆びついた味がする。
「やる…な。女。」
「…そっち…こそ。…さ…すがボス猿。」
「ボス猿…だと?」
「猿山のボスみたいなもん…でしょ?クラスで…上下つけ…て威張ってるのなんて!」
「…ふん。なりたくてなってるわけじゃねーよ。あいつらが勝手にやってるだけだ。」
周りの男子がざわついている。
「やべえ!あの子、女の子じゃねぇよ!空石様に4本勝ってる!」「でも、さっき空石様自身で確認してたぜ?胸ホンモノだろ?」「でもよ、3組の子ほどねーし!詰め物かも!」
聞こえているぞ、お前ら!!
次の時間は化学。
私は体育で疲れ切っているし相手にならなかったが、ここは俊くんの出番。
俊くんは、化学が最も得意で、冬馬くんや私に1位を渡したことがない。
この時もテストで俊くんが空石雹に競り勝った。
「俊くん、ありがとう!」
「いや、雪さんが彼を疲れさせてくれたおかげだよ。ミスしてくれたし。」
確かに空石雹はモル計算でらしくない計算ミスをしていて舌打ちしていた。
「この調子で頑張ろうね。」
「うん!」
他のクラスの二人も接戦になっているらしく、秋斗が体育で勝てば、古典で種村くんに負け、冬馬くんが物理で勝てば、化学で鮫島くんに負けたりしたようだ。
ちなみに3組の走り込みでこめちゃんが走ったときはまた全く違う毛色の歓声が上がったという。
へろへろの状態で家に帰り着くと、なんと。
「お邪魔してまーす。」
「未羽?!」
「お友達?未羽ちゃん、っていつも聞く子でしょ?お待たせしてごめんなさいね?」
「いえいえ、こんな時間にすみません。ちょっと雪と話したくて。あと、これ。」
そう言って持ち上げられたのは湿布だ。声が聞こえているから分かっているらしい。
私の部屋で話し込む。
「あんた、うちの場所知ってたの?!」
「盗聴相手の家を知らないとでも?GPSついてるし。」
そうでした。
「ほら、足出しなよ。」
「ありがとうー。棒切れみたいだよー。痛くて痛くて。編入中もう体育なくてよかった…。」
「ばっかねぇ。高スペック攻略対象者に喧嘩売って。彼って、上林くん並みのスペックだよ?天夢行ってたら上林くんは今よりもっと能力高かったんだろうけどね。」
「悔しかったんだよ、君恋のことバカにされて。俊くんも私も秋斗も冬馬くんもこめちゃんも。」
未羽が私の顔を覗き込む。
「あんたさ、なんだかんだ、君恋高校好きでしょ?」
「…うん。まぁ、今は結構。最初はなんだこの学校って思ったけど。」
未羽はそれを聞いてにこっと笑う。
「ほら、イヤリング貸して?まだ微調整が必要なのよ。」
渡すとなにやら工具を出していじり始めた。手先器用だなぁ。それは他に生かせないもんなのか。
「そうそう。こっちの様子なんだけどね。」
「あぁ、いいよ。ケダモノの話は。またそういう系なんでしょ?」
「まぁ聞きなよ。というか聞かないとまずいよ。…あの男が明美を狙ってる。」
「…は?!どうして?夢城さんじゃないの?」
明美は美少女、とかではない。顔のレベルで言えば、中の中。モブの一人だ。だが明るくて話してて面白い、竹を割ったような性格が外見以上の魅力をもたせる子。
「どーやらねぇ。夢城さんは興味なくなったみたい。ほら、あの子、自分美人!って分かってる子だからね?それを見透かしたっぽくて興ざめしたって感じ。」
主人公なんだけどなぁ…。
「んでね、最初は京子に目つけたんだよ。ほら、京子和服美人でしょ?たまたま茶道部で紬着て練習してるとこにばったり会っちゃってさ。」
なんでわざわざ紬なんて着たんだ。いつも制服なのに!
「その後、あの皇帝が京子を追い掛け回してたんだけど、明美はあの皇帝のそういう話いっぱい聞いてるから、京子を会わせないように妨害してたわけ。だけど、とうとう今日のお昼、見つかっちゃったのよ。その京子を助けるために、明美が無理矢理介入して、『二度とそのツラ見せんな!ケダモノ!』って啖呵切っちゃったわけ。」
「明美らしいなー…。」
「そしたら皇帝は明美の方がお気に召したらしくって。今は遊くんとか生徒会の人たちに京子ともども匿われてるんだけど、大変だったんだよ。」
「…そっちも苦労してるわね。」
「ほんと。私も見えない位置に移動させたりさぁ、皇帝に見つからないように尾行してラインで明美たちに場所通知して逃がしたり…。あの攻略対象者様、目を付けた女性にはものすごい執着あるから私の偵察技術でも見つかるとこだった。ふぃー。」
この女ですらなのだから、もし普通人だったら、無理だ。
「平気なの?」
「大丈夫大丈夫。とりあえず生徒会の先輩と愛ちゃん先生が出てくれたからね。安心して。今はそっちに集中しなさいな。ほい。」
イヤリングを返してくる。
「大体、あの空石雹がああなったのは空石雨の女好きのせいだしね。正確には『好き』っていうか、女性に執着する体質のせいで。」
「どういうこと?」
次話がこのお話の中で最も「R15ぎりぎりアウト」か怪しいと思っている話なので、本日の夜更新させていただきます。もしダメだったらR15タグをつけさせていただくと思いますが、ご了承ください。もし読んでくださっている読者様に15歳未満の方がいて、先がいきなり読めなくなるのは困ります等ございましたらご連絡いただけると嬉しいです。




