夏休み明けテストの結果を確認しよう
三馬鹿が働きだして、私たちの仕事の能率は上がった。スムーズな仕事でなんとか週2回で生徒会室の活動を終えられるようになっている。四季先生は頑張るとカラ回って更に仕事を増やしてくれるので、仕事量がきついという事実は伝えていなかったからクラス委員の仕事量は変わっていない。それでも時間をうまく使えるようになったおかげで今、こうして久しぶりに未羽と昼ご飯を食べている。
「しっかし、このゲームが全然想定してなかった事態が起きてるわね〜いや、あんたが起こしてるのか。」
「違いますー。あれは未羽の盗聴機を使った結果です。だから根本原因は未羽ですー。」
「そーゆーことにしてあげてもいいけど。体調崩さない程度に頑張れ。」
定食を食べながら興味なさげに言うが、なんだかんだ気遣ってくれる。
「もう平気。未羽とご飯食べられるようになったくらい楽になったよ。ああ見えて馬鹿三人組は使える。未羽、今まで私が構ってあげられなくて寂しかったんじゃなーい?」
「いーや?声は聞こえてるし?そんなに悪いもんじゃなかったわよ?」
盗聴ですね、はい。
「むしろあんたが授業中にうたた寝してるっていう珍しい光景も見られたし。」
「どうしても眠かったのよ。」
「それを優しいまなざしで見つめているという貴重な上林くんも見られたし、さりげなくカメラに収めたし。」
ぶふっ。
「…雪、スパゲッティーを鼻から出す、とかいう漫画みたいなことはしないでね?女子としてダメだと思うの。」
「しないわよ!!それより色々突っ込みたいんだけど!」
口の周りについてしまったミートソースを拭いながら返す。
「なぁに?私の写真技術?」
今の未羽は私の後ろの席。見えていてもおかしくないし、この女なら誰にも気づかれず授業中でも音を消して手ぶれなく撮ることぐらい余裕だろう。
「それもそうだけど、見られているとか、その、どんな顔で見られているかなんて知らなかったよ!それにさぁ、上林くんはもともと笑わないタイプじゃないし、ふつーに見られるでしょ、そんな顔!」
「違うんだなぁ!最初に気づいたときは先生に指名されてるのも気づかなかったくらい見とれちゃった。あの顔はあんたにしか向けてないよ〜?すごく優しい顔なのよ。ゲームだと、個別ルートで彼が好きで好きでたまらない主人公を見つめるときの…」
「ああああああ!やめて!そういうの言われてそのあと碌なことなかったもん。」
「いや、これはフラグじゃないし。ふっつーに告白されてんでしょ?」
「…それはそうだけど!断った!!」
「それでも落とすって言われておいて?」
「やめてー!…そっそういえば!今日って夏休み明けテストの結果出る日だよね?」
「成績のことはやめて。」
「…今回は私もやばいのよ…精神状態最悪で受けたやつだったし…。」
それを言った途端、未羽が嬉しそうに立ち上がる。
「それは面白い。よし、見に行こう!かの相田雪様が首位から陥落している可能性があるんでしょ?」
「え…?これこそフラグなんじゃ…」
放課後。部活前の時間。
「ゆきー?どうしたの?」
私はスライムのように茶道部室の隣の準備室で溶けていた。
「雪、何かあったの?溶けてるけど。」
「あのね、雪がねっ、ぷぷっ、1位じゃなかったのよ。」
「え?何位でしたの?」
「2位。遂に負けちゃったのよ、上林くんに。」
「5点差だもん!!!」
ガバッと起き上がって主張する。でも、すぐにまた机の上にぐったりする。
「でも負けは負け…やっぱり、敗因は物理と数学だよね…。」
物理は、95点の上林くん、91点の俊くんにつづいて86点。
数学は、98点で1位の上林くんに対し、95点の秋斗、につづいて92点。
つまり双方で15点差をつけられている。文系科目1位を総なめしてなければ点差はもっと開いていた。ちなみに秋斗も気分どん底だったせいで彼の総合順位は前回の一学期に続き9位にとどまっている。
「なんでそんなことぐらいで!」
「そんなことじゃないっ!!1位を取り続けていくことは私にとっては何よりも大事だったのに!」
明美に噛み付く。
そもそも、攻略対象者様含めこのゲームに関わりたくないと思った最初の理由はそれなのだから。
「私なんて284位とかで上がったなぁ、とかなのにね。」
「私は232位でしたわ。こめちゃんはどうでしたの?」
「18位だったの〜。俊くんは今回すごくよかったんだよね!」
「俊、何位?」
「僕は12位だよ。理系科目が良かったから。」
「てことは、もしかしていやもしかしなくても俺最下位?!」
「いや、未羽がいる。未羽は412位でしょ?遊くんは?」
「俺、422位…。負けた!未羽ちゃんに負けた!」
「一方でこの戦いで、一方は1位か2位かで争ってるんですわね。格差社会は恐ろしいですわ。」
格差社会とは言わないぞそれは!
「うううう。やっぱ夏に遊びすぎたかなぁ…。」
「そんなことないでしょ。今回は色々あったからで。」
秋斗がしょぼん、としている。
「あーそれだけじゃないの。今までは自分で勉強して怪しいっていうか分からないとことかなかったんだけど。」
「雪ちゃん、怖すぎ!人外!」
騒ぐ遊くんは放っておく。そりゃ二回目なんだし、多少はアドバンテージがあるんだから当たり前だ。
「ちょっとね、あやふやになってきてるんだよねぇ。うーむ。やっぱ勉強時間増やすかな。」
「遊くんもちょっとは見習いなさいよ!」
それを聞いた明美が遊くんの背を叩く。
「いてっ!未羽ちゃん、俺らは同志だよな!」
「私、遊くんより順位上だったし。」
「!う、裏切られた。」
「ああいうのを、どんぐりの背比べっていうんだよねぇ?」
「五十歩百歩とも言うね…。」
こめちゃんと俊くんがぼそっと呟いた。




