ポスター貼りで配下を作ろう
立ちはだかるように並んだのは、三人の男子学生。だらしなく制服を着たひょろっとしたヤンキーな一人と、メガネをかけた小柄な一人と、それから人相が悪くて体格のいいゴリラ顔の一人。本当にモブ顔だ。いや、悪人面だ。
「な、なんですか?」
俊くんを護るように前に立って聞く。いや、怖いですよ?殴られたりしたら…とか!でもインドア俊くんよりは私の方が逃げ足速いし!
ヤンキーが前に一歩踏み出してくる。
「覚えてないッスか?先週ッス。パソコン室ッス。」
私はポケットに入れたままのケータイを操作。緊急ダイヤルとして短縮電話番号に秋斗を登録してある。昔秋斗に、「ゆきが変な人に襲われたらどうするの!」と言って登録させられたやつだ。こんなところで役に立つとは。緊急ダイヤルをなんとなくで押す。スマホになって不便なのはこんな時だ!
「…雪さん、あれじゃないかな?先週パソコン室で風紀取り締まりやったの。」
「パソコン室の見回りはやったけど…。」
「パソコン室でタバコ吸ってた一人と、ハッキングまがいの事をしようとしてた一人と、エロ画像見てた一人じゃないかな?」
「…あぁ!」
ぽん、と手を叩く。先週のことはあまり覚えていなかったのだが。
「確か、一人は溺愛の妹がいて小さい子に恋愛感情持ってるヘンタイで、一人は超のつくドMで自分の持ち物壊されたり『うぜぇ!死ね!』とか言われて喜んでいるヘンタイで、もう一人は学校でエロ画像見てるけど実は他校にラブラブの女がいるっていう。」
「覚えてるんじゃないッスか―――!」
わっと向かってきた三人。
しまった逆上させたか?!これはまさかお礼参りというやつ?!
そこに。
「ゆき!」「相田!」
「さて、どうしてこんなことをしたのか聞かせてもらいましょうか?」
今、私たちは生徒会室にいる。
さっき私たちに襲いかかった三人はヒーローが如く颯爽と現れた秋斗と上林くんにボコボコにされて、そのあとを追いかけてきた桜井先輩と会長にお縄をかけられ連行されていた。
ブーっ。
『ゆき、それ生徒会イベント。殴られなくてよかったね!ちなみにね、それで現れた二人は本来モード変更できないはずの君恋で、逆ハーモードから個別恋愛モードに変えられるくらい好感度が高いふた…』
ここで見るのをやめ、お縄の三人を見やる。
「誤解ッス!俺っちらは襲う気なんてこれっぽっちもなかったッス!」
ヤンキーが答える。
「じゃあなんでゆきたちに殴りかかったんだよ!」
「土下座しようと思っただけです…。」
今度はメガネくんだ。
「こないだの風紀乱れのことを謝るならそんなに待ち伏せしなくてもよかったんじゃないですか?」
「おいらたちは!弟子入りしたかったんす!」
「「「「「「「「弟子入り?!」」」」」」」
ゴリラの言葉をみんなが反芻し、こちらを一気に見る。
「私、そんな弟子いらない!!」
「違うんす!女王様じゃなくて、海月さんす!」
そう言って一斉に俊くんの前に平伏す三人。
待て。女王様ってなんだ。
「え?!僕?!」
「そうッス!二学期の学校始めの日、俺っちらはパソコン室で思い思いのことをしてたッス。そしたらそこにいる…いやおられる女王様に見つかったッス。俺っちらはその場で注意を受けたッス。その時はうるせぇ!くらいしか思わなかったッス。」
「ですが…あの4日後…また…僕たちは見つかったんです…その時に女王様が、僕たちの、僕たちの!!」
言葉を無くし泣き始める三人。
上林くんが振り返って私に問う。
「相田、君は何したんだよ?」
「んー。ちょっと彼らがバラされたくない秘密をいくつもいくつも指摘していった。」
二学期初日。私は秋斗との関係のことで完全に苛立っていた。その状態で風紀違反見回り初日に見つけた三人に注意をしたところ鼻で笑われた。それでカッとなって、つい、未羽から超高性能盗聴機と監視カメラを借り、設置し、4日間見張った。
人には知られたくない秘密の一つや二つくらいあるものだから。
そしたら出るわ出るわ。4日後、また懲りずに違反する彼らにそれを全部指摘してやった。
「あれは…まさに…地獄でした…。誰もが知られたくない秘密を公然と明かし、それをあまつさえ録音して公表すると言い出したのです…。さすがの僕でも、泣きました…。」
※犯罪です。
こめちゃんが唖然としてこちらを見る。
「あはは…あの時は過去最悪で気持ちが荒れてたから…。」
「その時んす。救いの神が現れたのは。そこにいる海月さんが、『もうやめてあげなよ、さすがにそれはまずいと思う』と言ってくださったんす。それで女王様の暴走は止まったんす。」
「それは誰でも止めるんじゃないかな…。」
俊くんが困ったような笑顔を浮かべる。
「「「どうか!!おいらたちを弟子にしてくだせぇ!海月さん!!」」」
「無理です!僕そんな大それたものじゃないし。そんなの困ります。」
「いや、あの時の恩は一生かかっても返せないッス!!女王様の怒りを鎮めて下さったッスから!」
私、こんなところで悪役として働くつもりはなかったんだけどなぁ?
まさかこれがゲームの強制力なんですか?そうですか。
「僕たち、役に立ちます…!僕はパソコンなら誰にも負けません!ハッキングもお手の物です…!」
犯罪ですから。
「おいらは!力仕事なら、お任せんす!米俵3表は一気に運べるんす!あと用心棒もす!なぜか小さい頃から動物園では動物たちに威嚇されたんす!おいらが立っているだけで、周りの人が逃げて、子供が泣くんす!」
それは悲しい人生だな。
「俺っちは!俺っちは生粋のA型で!!もう、プリントが適当に積み重なってたり、棚のファイルが名前順になっていないだけで落ち着かないッス!あと、掃除、洗濯、お菓子作りや裁縫もいけるッス!」
「じゃあ今この書類だらけの部屋は〜?」
「気持ち悪くて仕方ないッス!俺っち、頭悪いから中身全然わかんないッスけど、並べるだけはしたくて今もウズウズしてるッス!」
ヤンキーは乙男だった。
「でも、ここは生徒会役員以外は立ち入り禁止で…。」
「俊、待ちなさい。」
「兄さん?」
「君たち、今言ったことは本当ですか?」
「もちろんです (んす)(ッス)!」
「そうですか…そして俊に心酔していて、相田さんが天敵だと。」
「そうです!(んす!)」
「天敵というか女王様ッス!逆らえないッス!」
私よりもそこの会長の方が怖いですよーそもそもその盗聴機は未羽のものですよー。
「…いいでしょう。試用期間一週間で使えると思ったら、生徒会補佐員として出入りを認めましょう。」
「会長!」
「いいじゃないですか。アメもムチもある。生殺与奪権は握っているんです。みなさん、私の目は厳しいですよ?それにドレイのように働いてもらいます。そして生徒会に出入りする以上、当然ながらタバコはやめてもらいますよ?」
「構わないッス (んす)(です)!」
「もともと彼はタバコ吸えないのにオトメン脱出のために吸おうとしていただけですから。」
「こらっ!ばらすなっ!そんな恥ずかしいこと!」
メガネくんとヤンキーがやりあっているがそれはどうでもいい。
問題は会長のお言葉だ。
一年生が全員青ざめ、桜井先輩と泉子先輩が止める気もなくにこにこする中、悪魔な会長はおっしゃった。そしてここには恐ろしき会長様の暴走を止められる良識派がいない。まさに文字通りドレイのように働かされること間違いない。
「お名前は?」
「1-Iの猿山ッス。」 とロリ好き乙男。
「同じく雉尾です。」 とメガネハッカー超ドM男。
「同じく桃川んす。」とラブラブゴリラ顔男。
「…惜しいのです!犬じゃなくて桃が中に入ってるのです!」
泉子先輩、そこじゃないです。
『ねぇ、未羽、これもイベントに入ってるの?』
『ゲームでは生徒会補助員候補なんて出てなかったなぁー。そもそも襲われるのも盗聴機のせいとかじゃなくて普通にナンパとかだったし、俊くんを尊敬してる設定とかもなかったし。そいつらはただのモブ悪役その1とかだった気がする。また雪は妙な現象を引き起こしたね。』
私のせい?私のせいなの?!
「まずはそのポスターを貼ってくるんす!」
「いや俺っちが!」「ぼくが!」
せめて会長のお眼鏡にかないませんように、と祈っていたのだが、哀れ、三人は見事会長に認められる働きをした。
ロリコン…猿山は書類を完璧に整理して私たちの仕事の能率を上げた。そして窓にはレース付きの遮光カーテンを付けた。生徒会室の清掃は毎日欠かさず行われ会議では飲み物が出されるようになった。いつの間に持ち込まれたのか、コーヒーメーカーにコップに砂糖・ミルクやミニ冷蔵庫まで置いてある始末。
ドMハッカー…雉尾はパソコン事務を完璧にこなした。データ上の整理整頓はもちろん、セキュリティの向上、処理能力アップまで。しまいには教師陣しかアクセスできないファイルやら何やらまでオープンにして、上林くんに止められた。
ラブラブゴリラ…桃川は生徒会室に入ってこようとするやつらを完璧に抑えた。彼が門兵のように立っているだけで誰もが離れていく。おかげで一般生徒に邪魔されて集中できないという生活は終わった。
案外使えた三人にこれで合格が出ないわけがなく、かくして三人のドレイ道は開かれたのだった。




