入部試験に挑戦しよう
放課後。初の部活動に向かう。
君恋高校の茶道部は裏千家の系統。
前世に習っていた流派と同じでほっとした。茶道だったらすさんだ心を癒せるんじゃないかな。
茶道部の部室前のたどり着き、ドアを開く。
「こんにちはー」
ってなんじゃこれ。茶道部室は畳7畳ほどの間と水仕事場の構成になっていて意外と広いはずなのにそこに入りきれないほどの人、人、人。人数も数えられないけどおそらくざっと50人くらい。
何があった?こんな人気部活だったっけ?
「ゆき!」
笑顔で人をかき分け、困惑する私のもとに秋斗が来る。
「俺も茶道部入ったんだ!」
原因はこいつか!確かに女子ばっかりだけどさ!
「毎年女子が多いんだけど今年は特に多くてびっくりしたよ。部員10人の部活に5倍の人数の入部希望者なんて」
部長さんがのんびりと嬉しそうに言う。
いや、明らかに秋斗狙いでしょ。
嬉しそうな部長さんに顔向けできないから隅でこそっと話す。
「どうして……秋斗、茶道なんて興味ないでしょ?」
「ゆきが入るって言ったから。俺、こないだゆきに言われたこと考えたんだけど、やっぱりそれでもゆきとほとんど話せなくなるのは嫌なんだ。そうでなくても最近勉強とかクラス委員とかで忙しそうで話せないからさ……だから部活は一緒にしようって思って。だめ?」
上目遣いはやめなさいってば。1年生女子だけじゃなくて先輩までもがぽーっとしてるでしょ?
しかし、うーん、これは秋斗を遠ざけすぎた私の失敗か。
「でも、これどうすんの?秋斗狙いだよ?」
ゲームの設定では困ってる女の子を放っておけないくらい女の子に優しくて若干弟要素の入った甘えん坊キャラの秋斗。見てくれもそれに比例した甘いマスク。
未羽曰く、「どの女の子にも優しい彼が自分だけにその甘えを向けてくるところがやっぱポイントだよね!あとさ、このキャラだけがヤンデレっぽいところがあって、他のキャラと仲良くし過ぎると嫉妬しちゃって拗ねちゃったりするの。逆に主人公が構ってくれると嬉しくて素直にそれを表現するタイプ!攻略対象者の中ではそういうとこ、一番素直で純なんだよー!萌え〜」
はい、どっか行ったどっか行った。
若干どころか幼馴染への思い入れが強すぎやしませんか?
私の発言に部長さんが大丈夫、と笑う。
「入部試験があるから」
「入部試験?!茶道部に?!初心者も歓迎、なんじゃ?」
「そうそう。茶道についての問題じゃないから。ま、見てれば分かるよ」
そう言って苦笑する部長さんの言葉に被せるように、べべべベン!!とどこからともなく和風音楽が流れてくる。
これはあれか。幻聴か?背景音楽流れるとか、マンガか?
「みなさん、ごきげんよう!」
入ってきたのは、なんというか、一言でいえば、残念な人だ。赤い短髪の美人。ここまではまだいい。
あ、先輩がレコーダー切ってる。芸が細かいですね。
「ワタシは茶道部の顧問の伊勢屋愛之助。仮入部の新一年生のみなさんは全員集まったかしらん?」
着ているのは着物(女性用)。
着ているのは男です。もう、なんていうか、乙女ゲームとか漫画の世界だなぁと脱力してしまう。
ひーふーと数を数えていた部長さんが集まってます。と言うと開いた扇を口もとにあてていた愛之助先生がパタン、とそれを閉じる。
「よろしい!これからみなさんにはエキセントリーックな試験を受けてもらうわ。ワタシは茶道というものの真髄を知るに相応しい志のみなさんに入ってもらいたいの。茶道とは古くから伝わる日本の伝統。みなさんがその和の美を追求するに相応しいかどうかテーストします!テストは3つのスペシャールなもの。降りたい方はどのタイミングでも言ってちょうだい。それじゃあ挑戦する方はこちらに来なさい」
先生の言葉にびくびくしながら1年生が移動し始める。
茶道部でない部に行くのもありだが、私は前世で結構あの空気が好きだった。他の部活だとあの落ち着いた雰囲気はなかなか味わえないし、華道はやったことがないから勉強との兼ね合いが取れない。やるしかない。
周りの女の子が秋斗をチラチラ見て降りないか確かめ、秋斗が降りないのを確認するとそのまま移動し始める。誰も降りないらしい。
なるほど、やってやろうじゃないの。
何か誤字脱字あるよーとか、ここ矛盾してるんじゃないの?とかございましたら、感想等お寄せください。実は1話の未羽ちゃんの名字が2か所「横尾」になっていて焦りました。わざとの場合は「今後をお楽しみください」としますので。