生徒会合宿で急襲に対応しよう
『え、未羽?なんで?どういうこと?』
『事情の説明は後!もうすぐ着きそうだけど、何しでかすか分からないから!多分四季先生口実だからそっちマーク!』
『よく分かんないけど、了解!』
私と秋斗がみんなの集まったビーチに行くと、四季先生が切り分けたスイカを手渡してくれる。
「相田さん、海に入れなくて残念でしたね。」
「でも、みんなを見ていて楽しめましたから。」
「そうですか、それならいいんですけど、もしかしたら怒っていないかなぁって。」
「怒る?どうしてですか?」
「不意打ちのように海に来たからですよ、水着を買う気も起きなかったのかなと。」
泳ぐことが目的だっただけです。
四季先生とのんびりと会話していた時だ。
「と・う・ま・くぅー――――ん!」
秋斗バージョンで聞いたことのある声が、迫ってきた。
上林くんは走り寄ってくる人影をさっとさりげなく避けた!
そのせいで、上林くんのすぐ後ろにいた桜井先輩に人影がタックルすることになり、桜井先輩は、今度はあおむけで熱い砂に倒れることになった。イケメンなのに、なぜか残念な星回りにある人らしい。
「いったぁ。もう、なんで避けるの、とうまくん!」
そう言って起き上がってきたのは、主人公・夢城愛佳。
痛いのは多分あなたより桜井先輩です。
というか、あなた一体どこから出てきたの!?
そんな私の脳内の疑問を上林くんが代弁してくれる。
「えっと、夢城?どうしてここに?」
「四季先生の車の中にいたの!」
え、あの白いバンに!?どのくらいの時間あそこの中にいたんですか!?
この真夏だ。一歩間違えれば熱中症で命を落とす。現にそういう事故が毎年絶えないわけだし。
「よく、生きてたね…。」
私のつぶやきにぎっとこちらを睨みつけて夢城さんがこっちだけに聞こえる声で答える。
「ふん、本当はすぐ出るつもりだったのよ。なのに、まさか途中から運転手が変わるなんて。うっかり出られなくて3時間ほど奮闘しちゃったじゃない。」
3時間!?
G並の生命力だ。素直にたたえよう。※絶対に真似してはいけません。
「夢城さん、どうしてここに…」
騒ぎを聞いて近づいてきた四季先生。
「四季先生♡寂しくて、先生のバンに乗って来ちゃったんですー!」
四季先生に抱きつく夢城さん。
ブーっ
『ぶりっこ、地獄に落ちろ(-“-)』
未羽、会話が聞こえているんですね。ということは、十中八九夢城さんには盗聴機が仕掛けられている。
夢城さんは先生に抱きついた後、ぱっと会長の方を見て身を乗り出す。
「お邪魔してすみませんっ。私、1-Aの夢城愛佳と言います!」
「…あぁ、選挙に出ていた…」
「はい!近くに来ていまして、是非ご挨拶しておこうと!ここには友達もいっぱいいますし!」
一年生全員が顔を見合わせる。思っていることはみんな同じ。
誰も『友達』ではない。
特に秋斗は例の困ったような笑顔を浮かべている。
「夢城」
声をかけたのは東堂先輩だ。
「東堂先輩♡先輩にもお会いしたかったですっ!」
うん、現実で逆ハーって難しいんじゃないかなぁ。こういう時に。
「色々ツッコミたいところはあるが、まずは桜井に謝るべきなんじゃないか?」
夢城さんは桜井先輩を下に轢いたままだ。
それに気づいた彼女は、「あっ、ごめんなさ~い。てへっ☆」と言って桜井先輩から降り、会長の手をぱっと握って胸元に抱える。あやういラインのキャミソールを着ているので、彼女のそれなりに豊満な胸が強調される。
こんなふざけた謝罪じゃあ、桜井先輩、怒るんじゃないの?
「大丈夫か、尊?」
「う~ん。女の子に下敷きにされるのは本望だよ。個人的には下敷きにするほうが…」
「大丈夫そうなのです!」
うん、この人は生粋のフェミニストだ。
でも周りは違う。とくに先輩女性陣はかなり怒っている。あんなに可愛いもの、綺麗なものが好きな方々なのに。
会長も険しい表情で手をぱっと振りほどく。
「申し訳ありませんが。私はあなたとほとんど初対面なので。」
「つれないですーせんぱい~。」
美少女だから許されると思ったら大間違いだ。
東堂先輩は夢城さんとの好感度がそれなりに溜まっていたはずだけど、どうなんだろう。
そっと表情を伺うと、少し厳しい顔をしている。
「夢城、迷惑をかけた相手にはきちんと謝罪しろ。それが礼儀だろ?」
「えー私、謝りましたよぉ?」
「誠意をもって、だ。」
「全くうるさいわねぇ~。何をしているの?」
愛ちゃん先生ご登場だ!
ちっ。と夢城さんが舌打ちするのが聞こえる。
「…あら?あなたは、成績が悪い子たちが任意に参加している四季くん主催の勉強会にいた、あの時の無礼なばっちい子猿?」
愛ちゃん先生、それわざと言ってますね!
夢城さんは何も言わずにじり、とちょっと後ろに下がる。よっぽど茶道部合宿でやり込められたのが効いているらしい。
「なんでこんなとこにいるのかしらん?」
「四季先生の車に乗って来たそうです。」
「こんなところで油売っている場合じゃないでしょう?成績がまずいから合宿までしているのだし。戻りなさい。」
愛ちゃん先生の一言で、夢城さんが唇を悔しげに噛む。
「待ってください。」
会長?
「その前に、あなたはきちんと尊に謝るべきです。あなたのせいで倒れたのですから。」
「……っ!すみませんでした…」
憧れの攻略対象者様にやり込められて、泣きそうな夢城さん。
「夢城さん、私が宿舎まで送りますから。帰りましょう。」
四季先生が車のキーを取り出す。
「ボクも送りますよ。」
「え、なんで!?尊、嫌な思いしただろ!?」
「そうなのです、たけるきゅんが行く必要ないのです!」
「美玲も泉子もそんなこと言わない。ボクにとって女の子は等しく優しくすべきものだからね。」
そう言うと、桜井先輩は立ち上がって夢城さんに手を差し伸べる。
「小鳥ちゃん、勢い余っちゃったんだよね?ボクにはいいけど、ボクじゃない人だったら危なかったから、次はしないようにしようね。」
先輩!頭から砂がこぼれてなければ、今までで一番かっこいいと思います!
桜井先輩に優しく言われて、涙目の夢城さんが悔しそうなまま、頷く。
それから先輩の手を取らずに四季先生の後を歩き始めた。
嵐のような襲来だった。




