生徒会合宿で限界に挑戦しよう
花火が終わり、私たちはコテージに戻った。寝る支度を終え、ベッドに潜り込む。
「よく寝るんだぞ。」
「おやすみなのです!」
「おやすみなさいですー。」
「おやすみなさい。」
女子部屋の二段ベットの上に寝っ転がっても、私の顔のほてりは取れない。心臓がばくばくする。
「はぁ、なんでこうなっちゃったかなー。どこで間違えたのかな。」
思い返しても、分からない。
上林くんにいきなり後ろから抱きしめられた私は、彼の腕をそっと外そうとしながら言った。
「ごめんなさい、自意識過剰じゃなければ言うけど、実らないと思う。」
それでも上林くんは手を外さない。この辺りは山の近くで夜の今は少し空気が冷たい。だから、素肌の腕に触れる上林くんの体がすごく熱く感じられる。
「…それは、新田が好きだから?」
「そうじゃない。秋斗であっても。」
「じゃあ、どうして?」
あなたが主人公と恋愛するべき人だからです。
「私は、誰を好きになるつもりもないよ。目標を達成するために勉強したいから。」
そう言って、強めの力で彼の腕を解くと、今度はすぐに解放された。
「なんだ、そっか。分かった。」
お?意外とあっさり了承してもらえた?
「でも、俺、諦めるつもりないから。」
「…は?」
「今言ってもダメだってことぐらい、分かってた。相田に恋愛対象として意識してもらいたいだけ。相田って、そういうの避けてるような気がしたから。」
本当に察しのいい人だな!この人は!
「俺がこういう風にしたら、嫌でも相田は意識せざるをえなくなるだろ?」
「!」
上林くんは、くすっと笑う。
「新田ばかり近くにいるのは、ずるいしね?」
「…そんなこと言われても、私は上林くんのこと好きになんてならない!」
「俺が、好きにさせるんだよ。」
この人、こんなに強気な人だっけ?紳士な正統派なんじゃないの?
「相田、知ってる?恋愛ってさ、しようと思ってするもんじゃなくて気づいたら、なってるものなんだって。自分の意思に関係なく、気づいたら、落ちてるもんなんだって。だから、相田が今そう言う風に言ってても、関係ないから。俺が、相田を落として見せる。こう宣言したからには、手段は選ばないよ。そういうわけで、今後とも、よろしく。」
ぽん。と私の頭に手を置いて、その場から離れていった上林くん。
なんなんだ、なんなんだ、なんなんだ。イケメンすぎだろ!
これが未羽を熱狂的ファンにさせたほどの第2弾の口説きなのか!?
意識しないとかできませんから!
くっそぉ。
ひとまず、だ。彼のことを考えないようにしようと思ったら、余計考えてしまう。
だから、今まで通りに接してやる。
私はちゃんと学習する子です。
次の日は快晴だった。海日和だ。
「いい天気だねぇー!」
「早く海に行きたいね!」
男性陣はさっさと着替えて、愛ちゃん先生のキャブワゴンに乗って先に海に行くことになった。人数が多いので、そっちでしか運べないのだ。
ただ、
「私が運転しますので。」
四季先生は朝からどこかに行っていたのだが、自分の乗っていた白いバンを降りてにこにこ笑って宣言した。
「愛ちゃん先生!!いいんですか?先生の車、壊されるかもしれませんよ!?」
「新田くん…。」
「大丈夫よん。運転だけは超一級だから、この人。車に傷をつけるなんてありえないわ。」
「だけって。伊勢屋先生まで~。」
涙目の四季先生。
「諦めろ、新田。」
結局、四季先生は予定通りすぐに愛ちゃん先生の車で海に向かった。悲痛な表情を浮かべる一年男性陣と達観した様子の先輩男性陣を乗せて。
さて、問題はこっちだ。
私たちはコテージで水着に着替えている。
こめちゃんはフリルの付いたオレンジ色のビキニ。大きなお胸が強調されているのに、不思議といやらしさを感じさせない。
「こめぴょん、えろかわなのですっ!」
そう言って、こめちゃんを激写する泉子先輩は、上下つながったワンピースタイプのピンクの水着。泉子先輩はその身長だけでなく、体型からも幼く見える…つまり、幼児体型なので、今の姿だと余計幼く見える。小脇に抱えた浮き輪が似合いすぎる。
それから美玲先輩は、スレンダーな体型を生かしたホルターネックのボーダーカラーのタンキニ。ウエストが細くて締まっているからモデルとして雑誌に載せても十分通用する。
それで、私は。
「雪くん。」
「はい?」
「手に持っているのは、何かな?」
「競泳用水着ですが、何か。」
持ち物に『水着』と書いてあった時点で、海かプールに行くんだろうと想像がついた。ビキニなんて着るものか、とあえて買わず、これを持ってきたのだ。
「そんなものが許されると思っているのかな?」
「美玲先輩、私、これしか持っていません。」
どうだ!これがなければ泳げないぞ!はっはっは。
「ふふふふふ。こんなことで勝ったとでも思っているのかな、相田雪くん!」
「何っ!?」
「こんなこともあろうかと、もう一枚ビキニを持ってきていたのだ!」
じゃじゃーん!と取り出されたのは、ドット柄のとってもセクシーなビキニ。タンキニですらない。下なんて、紐で横を結ぶタイプだ。
「先輩、すごいです~。」
「さっすが、美玲なのです!」
どういう事態を想像したら水着が2枚いることになるんですか、先輩!!
「でも先輩、サイズが合わないんじゃないですか?」
「…雪くん、君は私のだと小さすぎると言っているのかね?」
「違いますっ!!そうじゃなくてっ!」
「でも美玲、多分ゆきぴょんはそれなりに胸ありそうなのです!美玲は胸がないから、サイズが合わない可能性は高いのです。」
美玲先輩はモデル体型。それも本場パリのモデルのよう。
つまり、胸がない。
それもAとかじゃなくて、AAとかAAAとか。そういうレベル。
「ぐぬううう。さ、最近のは、あげて寄せてでかなりパッドが入っているだろう!?それを取れば何とかならないか?とりあえず、着てみるんだ!」
「あ、ちょっと先輩…!」
無理矢理服をはぎ取られ、ウサギのように震える私に、ふっふっふ、と笑いながら近づく美玲先輩と泉子先輩。相手が女性じゃなければ、一気にR18に突入だ。いや、最近は相手が女性でもR18なのか!?そういう目的じゃないということで許してほしい。
「くうう。苦しい…。」
「くっ、パッドを外してもダメか!」
「そうですよ…先輩、ここはこっちを…!」
手に持っている競泳用水着を持ち上げるも、ぺしっと跳ね飛ばされる。
「いかん!それはならん!私の美学に反する!!!その白いぺたんこのお腹を白日の下に合法的に晒す機会を逃してはならんのだ!」
言っていることが卑猥すぎです、先輩!
「そうだ、いいことを思いつきました~。」
ほわほわこめちゃんが、こっちに近寄る。
な、何をする気!?
「これなら、雪ちゃんがちゃんとビキニで行けますよ~?」




