生徒会合宿では職権乱用で花火をしよう
昼は秋斗の絶品カレーを食べ、夜は適当に済ませた。日も落ちた後で出てきたのが。
「俊、あれを。」
「はいはい。取ってくるから。」
俊くんがカバンから出したのは、大量の花火だ。
秘密ってこれのことだったのか。
「こういうのは最終日にやるものなんじゃないのか?」
「明日は海に行くでしょう?疲れてしまいますからね。」
東堂先輩に会長が返し、バケツを準備する。私たちはめいめいに花火を楽しむ。
泉子先輩はみんなの写真を撮っていた。あの高さからなので、カメラは常に上向きだ。
「綺麗だね、ゆき。」
「そうだね。」
私と同じ花火を選んで隣でパチパチいわせてる秋斗。
「俺、茶道部も楽しいけど、なんだかんだここも好きだ。暖かい人ばかりだ。」
熱い人、の間違いじゃないだろうか。一部、熱苦しい人もいる。
「それに信念を持ってる。どの先輩も、好きだと思えるし、尊敬できる。」
「うん、そうだね。」
それは、私も同じ。
「…あれ?桜井先輩も?」
ぐ。と秋斗が止まる。
「ま、まぁ、あの人も悪い人ではないから!」
奥の方ではミニ打ち上げ花火をやろうとした先生が失敗して地面で花火が炸裂しているのを必死で俊くんと上林くんと東堂先輩が消し、美玲先輩が先生を叱っている。
一歩間違えれば山火事だ。
「だから触らないでください、と言ったのです!」
「ごめんなさい…『超簡単!誰にでもできる!』と書いてあったので…。」
やっぱり先生は先生だ。もしかしたら、アゲハチョウじゃなくてセミだったのかも。成虫期間は一週間の。
それから秋斗が新しい花火を持ってこようと離れたときに桜井先輩がやってきた。
「白猫ちゃんは楽しんでるかい?」
「ええ、とっても。先輩はどうですか?」
「ボク?花火は楽しいよ?でもボクの恋の導火線に火を付けてくれる女が欲しいな。白猫ちゃん、僕と熱い恋愛をしないかい?」
「桜井先輩!!」
戻ってきた秋斗は怒髪天を突く勢い。
「なんだい?秋斗くん。白猫ちゃんに嫉妬しちゃった?大丈夫だよ、ボクは君も大好きだ!」
「やっぱあんたは嫌いだ!!」
なんだかんだ、ここも仲良くなりそう。
私はぎゃあぎゃあ言っている二人から離れて一人で花火を楽しむ。
私はゲームという設定を知っている。でも、それでも。
茶道部のみんなが未羽を大事に思っているように、生徒会の先輩方が熱意を持ってここを作ったように。そういう気持ちをゲームの設定、なんていうもので消すことはできない。
そうだよ、ここは現実。ゲームじゃない。私は現実の問題と向き合っていかなきゃいけない。ゲームなんていうものに振り回されてたまるか。
「相田。」
「上林くん。」
上林くんが隣に来た。ちょっと火の中心から離れているので、辺りは暗くて、花火の明かりだけが私たちを照らす。
「なんか、思い詰めてるみたいだったから。」
この人は察しがよくて困る。秋斗が気付くのは長年の付き合いだから仕方ないとしても、この人は違うのに。
パチパチと散る火花が上林くんの目に写っている。こちらを見ないで聞いてくれているのだ。
「ちょっと、反省してた。それから色々決心してた。」
「…そっか。なんか、スッキリしたみたいだな。」
「うん。ありがとう。」
向こうで、こめちゃんと会長が二人で線香花火をしているの見える。
会長、あれがしたくて花火をしたとしか思えない。
会長がなんか言うと、こめちゃんが嬉しそうに笑う。
「幸せそうだねー。」
「そうだな。増井についてで会長が暴走するのも分かる気がする。」
私の視線の先を見た上林くんも同意する。
「あの様子だと、そう遠くなく、会長の片想いも実るんじゃあないの?」
花火が消える。上林くんのもだ。
「あ、消えた。次取ってくるね。」
私が背を向けた時、後ろから、何か熱いものに包み込まれた。
「え?」
しっかりとした男の子の身体を背中で感じる。腕が私のお腹の辺りで交差してて、さらりとした黒い髪が私の顔に当たってこそばゆい。肩に彼の息がかかるのが分かる。
「…俺のは?」
「は?」
「俺の片想いって、実ると思う?」
なんですって?




