生徒会合宿の飯盒炊爨で語ろう
規定字数を越えたので明日から1話更新にします。今日は時間の関係で昼夜編集ができないので、2話連投します。
3日目。
今日は飯盒炊爨をすることになっている。昨日一日いなかった先輩方が材料を買ってきてくれたらしい。
持ち物に記載されていた『エプロン』を何に使うか分かっていなかったのだが、これに使うためだったようだ。
メニューはカレー。無難に、失敗しないものを選んだ結果だ。
割烹着姿のこめちゃんは可愛らしすぎて美玲先輩に抱きしめられ、泉子先輩に写真を撮られていた。
「ハニーちゃん、可愛らしい!そのままボクも料理してくれないだろうか?いや、それとも甘そうなハニーちゃんをボクが食べるというのも…」
「尊、私が料理して差し上げますよ。」
どうやら桜井先輩は空気を読めない上に懲りないタイプらしく、また地雷を踏んで包丁を持った会長に追いかけ回されている。
頭を抱えて苦悩する上林くん。
「ねぇ、上林くん。私、この生徒会で一番危ないのは会長だと思うんだけど、どうかな?」
「言わないでくれ…俺の会長像が…。」
私と上林くんは火を起こして肉を焼くのと、最終的に味を調節して煮込む係だ。火力を上げなければいけないのでキャンプ用の固形燃料では弱すぎる。というわけで、木を集めて点火するところからやっている。
今日は愛ちゃん先生がお仕事でいないらしく、代わりに四季先生がいる。
「私も何かお手伝いしますよ!そうですね!ジャガイモやニンジンの皮むきとか!」
「先生、ここは僕と秋斗くんだけで大丈夫です。」
先生がピーラーを持ったら自分の手を剥きかねない。それから間違いなく芽が残って食中毒になる。
「じゃあ、玉ねぎ切るのを!」
「ここも大丈夫ですー、先生。」
こめちゃんにあっさりと断られる。
先生が玉ねぎを切ったら涙で視界が見えなくなって手を切るに違いない。
「あ、では、火を点けるのを…」
「平気です。」
私がバッサリ切ると、先生の背景にずううぅーんと暗い空気が漂った。
それをフォローするのは上林くんの役目。
「先生、お皿洗って並べててもらえますか?こっち、手離せないんで。」
途端に先生の顔がぱぁぁっと明るくなる。
るんるんで移動する先生の後ろ姿に上林くんが追加で声をかける。
「スプーンもお願いしますね!」
これ言わないといけないとか、子どもか。
「雪くん、私も手伝うよ!」
「美玲先輩。」
「だめ、美玲はこっちで先生の手伝いをするのです!」
泉子先輩が美玲先輩を引きずっていく。東堂先輩が私たちのところに切った肉を持ってきてくれて言う。
「美玲は味オンチなんだ。任せると毒物が出来る。」
そう言って、私と上林くんの顔を真剣な表情で見た。
「俺は、今年の一年がマトモなやつらばかりでかなりほっとしている。」
先輩、苦労されてますね。
火の加減や調味料の調整を一定程度やったところで手持ち無沙汰になった秋斗と俊くんが来た。秋斗は料理の腕が超一級だから、私がそこを抜けた。
「なんでこいつとやらなきゃいけないの?!俺はゆきとやりたいの!」
「なんだよ、新田、お前、相田がいないとうまく作れないの?」
「!そんなことない!見せてやる!最高のカレーを!」
上林くんは秋斗の操縦が上手いと思う。
私はそこから離れ、写真を撮りまくる泉子先輩のところに行く。
「そう言えば、三年の先輩方っていらっしゃらないんですか?」
「ゆきぴょん、知らないのですか?生徒会は去年、私たちの代から出来たですよ?だから生徒会に私たちの先輩はいないのです。ゆきぴょんたちで二代目なのです。」
「え?」
「そうだよ、雪くん。生徒会というものは君恋高校には一昨年までなかったんだ。生徒会を作ったのはあそこにいる海月と夏樹だよ。」
いつの間にか来ていた美玲先輩。
「私たちが入った当時、かなり教師の束縛がきつくてね。なんでもかんでも管理する学校だったんだ。偏差値を上げるためだろうけどね。それに反対して立ち上がったところから出来た。当時一年だった海月は入学試験で一位、中間でも学年主席の、先生方からの覚えのいい優等生だったからね、先生方は相当びっくりされてたよ。」
「先生方との何度もの交渉の末、担当の先生を見つけられること、はるきゅんが生徒会長をやること、生徒の3分の2の賛成を得られること、という3つの条件で許可がでたのです。でもはるきゅんは当時入ってすぐの一年生。優等生のはるきゅんだけでは条件の数の生徒の賛同までは得られなかったのです。そこをなつききゅんが協力したのです。」
「そうだ。夏樹も一年だったが、先輩たちを集めて言った。『この状態をあんたたちは何とも思わないのか?思わないやつらはおかしい。』と。『もし少しでもおかしいと思っているなら俺たちに任せてほしい』と頭を下げたんだ。それで生徒たちが納得した。」
東堂先輩と会長が名前で呼び合うほど仲がいいのはそれでなのか。
「だが、最後の条件は厳しかった。何せ先生方はみんな反対だったからね。誰一人味方についてくれないときに現れたのが、四季先生だ。あの人は海月がシニアの先生方に話を持って行って何度頭を下げても断られているところに、『私がやりますよー』と言ったんだそうだ。『生徒が自主的にやろうと言ってるんですし、それを伸ばすのが教師の努めだと思いますから』と。かなり浮いたと思う。地味に辞めるよう校長に言われたりしたらしいが、決して折れなかったんだそうだ。そうですね、先生?」
ちょうどそこに来てしまった先生がいやぁ、と照れている。
先生を初めてカッコいいと思ったぞ、今!実はもうアゲハチョウ(成虫)だったんですね!
「孤立してた私を助けてくれたのは伊勢屋先生ですよ。新任の私一人では二人を助けてあげられませんでした。伊勢屋先生は、条件を満たしたのにうだうだ言う上層部に、『みっともない!しゃんとしなさい!生徒との約束なんでしょう!』と一喝されたんです。」
愛ちゃん先生、かっこよすぎます。
「それに、二人だけでは生徒会はやっていけませんでしたよ。その噂を聞いた桜井くんがふら〜と、『ボクの助けが必要なんじゃないかい?』と来てくれましたし、それにお二人も。」
先生が優しい笑顔で先輩方を見る。
「私は…ただ、面白そうだと思ったから…。」
「私も、可愛いものが見られると思ったから入ったのです!」
「それでもお二人とも大変だったのに、挫けませんでしたからね。」
「そうだったんだ…。」
「え、秋斗!?カレーは?!」
「東堂先輩が見てる。」
「僕は家で兄さんの様子見てたけど…大変だったということしか知らなかった。」
「俺はそういう話をちらっと聞いたから、会長に憧れたんだ。それで君恋高校に入りたいと思った。」
「いい話です〜!」
いつの間にか集まった一年全員がこの話を聞いていたらしい。
「…ごめんなさい。私、そんな話全然知らなくて。生徒会推薦を受けたときにただ、厄介なものに巻き込まれたと思ってました。」
他の一年のみんなは、それなりに目的があって、ここに入ろうと思っていた。でも、私は全然そんなこと思っていなかった。ただ、ゲームのイベントに、生徒会なんていうイベントの宝庫に巻き込まれたくないと、それだけを思っていた。
俯いた私の頭をあったかい大人の手で優しく撫でたのは先生だ。
「いいんですよ、それでも。『自分の手で自分の作りたい学校生活を作る』という相田さんの演説は、この生徒会の信念と同じだったのですから。」
「そうだよ、これからここを好きになってもらえればいいんだ。」
「気にすることないのです、ゆきぴょん!」
「…はい。ありがとうございます。」
先生と先輩方の話は、どこかでこの世界をゲームだと考えていた自分に気づかせてくれた。




