主人公のルート選択を確認しよう
試験前にとりあえず攻略対象者二人に対して布石を打った私は晴れ晴れした気分で試験を受け、そして今に至る。
「夢城愛佳の成績は?」
「243位」
「となると、夢城愛佳は逆ハールートを取ったね」
「分岐ってやつ?早くない?」
「このゲームさ、2弾目だって言ったでしょ?1弾目が本当につまんなかったせいで悪役とか、いろいろ要素を増やしたんだよ。そしたらさ、難易度も急上昇しちゃって。細かいパラメーター操作が必要になっちゃって。逆ハーレムルートか個別ルートかは早くに決まっちゃうんだよね」
「ふーん、大変なこった」
「前世でこーゆー乙女ゲームってやったことなかったの?」
「乙女ゲームって結局その選択肢を選んだら大体終わりが見えちゃうものだって言うからゲームとしての魅力を感じなくてやったことがなかったんだよね」
「それは間違っている!」
乙女ゲーム大好き人間・横田未羽が弁当を置き、ばっと立ち上がる。
「意外とそのパラメーター操作が難しいし、それに何より、スチルを音楽を彼らのボイスを!!自分だけの世界で楽しめるっていうのがポイントなのよ!!!!」
ごめんなさい。鬼気迫る顔で見ないでください。怖いです。話題を変えよう。
「そういえばさ、ゲームの中での『相田雪』って勉強の方はどうだったの?」
「できなかった。下から数えた方が早い。相田雪ってどのルートでも悪役だったんだよね。全員と関係持たせるためには仕方なかったんじゃないの?」
経費節減しすぎだよ、悪役作るんだったらせめて個別に作ろうよ。
「どういうこと?」
「新田君との関係は幼馴染。上林君とは出席番号での隣の席。先生とは劣等生として特別授業を受けている生徒。海月先輩とは弟とのつながり。東堂先輩とは部活のマネージャー」
「げ。海月先輩との出会いはそのまんまだったわ。まだ悪役解任されてなかったんだわ」
「ちなみに夢城愛佳の出会いは、新田君は入学式のバケツ事件、先生と上林君とはクラス委員、東堂先輩とは体育館でのイベントからの体育祭実行委員、海月先輩とは生徒会役員って感じね」
役員関係多いなー。
未羽はお弁当のたこさんウインナーを摘まみながら窓の外を眺めて私の手を引いた。
「ね、ほら、夢城さんやってるよ?」
外を見ると、秋斗と夢城さんがいる。秋斗が夢城さんの運んでいた荷物を代わりに運んでいるところらしい。
ふーむ。なかなか秋斗いい感じなんじゃないか?
「ねー、雪、本当にいいの?」
「何が?」
「新田くんのこと。幼馴染取られるって嫌なもんじゃない?それとも新田君嫌いなの?」
「まさか。秋斗が嫌いなわけでも憎いわけでもないよ。むしろ、小さい頃は本当に『将来は秋斗のお嫁さんになるんだ!』とか言ってたくらい好きな存在。でも、それは友達としてっていうか、お姉さん的存在としてっていうか」
「ふぅーん」
「大体、協定違反でしょーが、それは」
こつん、と未羽の頭を小突くと「それはそうなんだけどねぇ。」と煮え切らない返事。
「何、どうしたの?」
「ここまで見てて、主人公があざとい」
「は?…ま、乙女ゲームなんだからそんなもんじゃないの?」
「まぁねーでも、なぁんか怪しいんだよなぁ」
それはいいけど、ねぶり箸は行儀悪いからやめなさい。
逆ハールートを取ったと考えられる主人公夢城愛佳は、本来なら攻略対象者から仕掛けてくるはずのイベントを自ら起こしている。これもゲーム補正なのかな。
プリントを届けに職員室に行ったら四季先生に「私、古典が苦手なんです。教えてください!」と言いに行っているシーンに出くわし慌てて柱の影に隠れた。
本来であればクラス委員としての繋がりがあるせいで、成績が一定数値より低いと先生から声をかけてもらえるはずのものらしい。自分から話しかけてそれを起こそうとしてるんだね。涙ぐましい努力だ。
先生のキャラはドジっ子で生徒想いの真面目な人。古典の苦手な、だけど日常生活はテキパキとしっかりこなす主人公と触れ合ううちにその様子に惹かれ、生徒と先生という関係に悩み始める。そこを主人公が優しく宥めて、「先生であってもいいんです、恋に歳は関係ないですから。」と進むものらしい。
未羽曰く、「先生も二段階進化を遂げる人なのよ!最初はドジで鈍くて頼りない感じなんだけど、生徒との恋と仕事を比べて葛藤し、背徳感に耐えながら主人公との恋を取るとだんだん大人の魅力を出してきて余裕も見せ始めるの!ギャップ萌え来たー!」らしい。二段階進化って、アゲハチョウですかな。
それから先生、まずもって多分15、16歳は犯罪です。悩まないで仕事を取ってください。現実では失職したら幸せな家庭とか厳しいですよ。乙女ゲームに突っ込んじゃだめか、そうですか。
様子を伺うと、「私でいいんですか?」と戸惑いながらもオッケーを出している。これで夢城さんと先生のイベントが一個進んだわけだ。
生徒会長がまだだとすると……あとは上林くんか。
職員室前で考察していると、いつの間にか夢城さんが消えて先生がこっちに近寄っていた。
「珍しいですね!相田さんが職員室付近で見つかるのは!ちょうどよかったです。お伝えしなければと思っていてー」
先生、分かったから走ってこっち来ないで。少女漫画の主人公のように走ったらこけるでしょ?優雅なアゲハチョウになる前は幼虫のようにゆっくり歩いてください。
私は半ばあきれ目になりそうなのを堪えて、やむなくこっちから先生に近寄った。
「あのですね、明後日のLHRで体育祭実行委員を決めてもらいたいんです、あとそれ以外に議題があれば出してもらっていいんで、上林くんと相談しておいてください」
「分かりました。あとこれ、頼まれてたプリントです」
「ありがとうございます!相田さんは本当にしっかりしてるなぁ!」
「いえ、これ作ってくれたのは上林くんです。私は持ってきただけですから」
「うん、彼もしっかりしてますよねー私ももっとちゃんとしなきゃですよね!」
ぐっと手を握りこぶしにして気合を入れる先生。イケメンなのに可愛い感じなのは行動のせいか。
決心はいいけど、私は頑張ってください、とか無用なことは言いませんよ?