生徒会合宿ではバンで勝負を挑もう
「着いた〜着いたよ〜!」
こめちゃんがホームでぐーんと伸びをする。
新幹線と在来線を乗り継いで3時間。時刻は間もなく昼になろうとしていた。
「海の匂いがするねー。」
俊くんの言う通り。この町は太平洋に面した町だ。特にこの駅は海に近いのか、磯の香りがする。
「迎えの車が来るはずなんだけどな、どこだろう?」
上林くんが周りを見回していると、
「みなさーん!」
え、四季先生?!なんでこんなとこにいるんだ?!
白いバンから降りて、小豆色の、男性にしては長めの髪を束ねた美形な男性が、柔和な笑みを浮かべて手を振っている。この美形こそ紛れもなく四季先生。
先生だって攻略対象者だ。当然その容姿は秋斗や上林くんとタメをはれる。
遠くから見ていると、駅周辺にいた女性が先生に声をかけた。
あれ、逆ナンだよね?
先生はきょとん、とした顔をしてから、ああ、というように手をポン、と叩き、ポケットから何かを取り出して渡した。
え?
大人のおねーさんたちもえ?と呆然とした顔をしていると、申し訳ない、という顔でもう一回ポケットを探ってまた何かを出して渡す。
私たちがそこで近づくと、おねーさんたちは、呆然としたまま去っていった。
「先生、今何渡してたんですか?」
秋斗の質問に先生が答える。
「今そこでみなさんを待っていたらですね、先ほどの女性たちに、ご飯行きませんか?って言われたんですよ。」
やっぱり逆ナン!
「それで先生はどうしたんですか?」
「時計を見たらお昼ですし、お腹が空いたんだな、と思いました。でも私はみなさんとの約束がありますから。それでアメをお渡ししたんです。そしたら、あれ?って顔をされたので、クッキーを渡したんです。確かにアメじゃあ、お腹の足しになりませんよね。私としたことが、失敗でした。」
そうか、先生は天然だったんだな!!ドジっ子の天然って、女の子キャラしか許されないんじゃないの?
あと先生、なんでポケットにそんなにお菓子が入ってるんですか?
叩くともう1枚くらい増えたりするんじゃないですよね?
それにしても、この鈍さ。この先生が相手の場合、ちゃんと主人公と恋愛になるのか果てしなく不安。
「そもそも、なんで先生ここにいるんですか?」
私の質問にきょとん、とする先生。
「え?私が生徒会の担当教員だからですよ。」
何?!このぼんやり先生が生徒会の担当だと?ということは、開票作業は手伝いじゃなくて本職としてやっていたわけですね!?
「まじか…。」
先生のドジっ子っぷりを知っている秋斗が同じことを思っていたのかぼやいている。上林くんと俊くんは知っていたのか、天を仰いでいた。
そんな私たちに気づかず先生は笑顔でバンのドアを開ける。
「さぁ、みなさん、乗ってください!」
もちろん、誰一人乗ろうとしない。
どうしてかな、バンのドアが地獄の釜に見えるのは。
先生がとってもしょんぼりした顔で私を見てくる。
「私、信用ないですね…車の運転は得意なんですよ?」
なんでこっちを見るの?!なんでそんな捨てられそうな子犬の目をするの?!
「……分かりました。乗ります。」
助手席は後部座席よりも事故時の死亡率が高い。
死んだら化けて呪ってやるから!
「着いた…。」
全員がほうっと詰めていた息を吐く。
「ほぅら、私、上手だったでしょう?」
ドヤァ!と言わんばかりに胸を張る先生。
確かにね、お上手でした。
でもまさか。
「先生ってスピード狂だったんだねぇ…。」
そう。
最初は良かった。
先生は慣れた手つきで運転しており、誰もがもしかしたら先生は歩いているよりも車に乗っていた方が安全なんじゃないかと思った。
しかし田舎道をバンで走っていたら、当然外国車やら国産のお高い車に抜かされた。その時、一台がプァン!とバカにしたようにクラクションを鳴らしたのだ。
それが先生のスイッチを入れた。
「私に挑戦しようとは、いい度胸ですねぇ?目にものを見せてやります。」
先生が一気にアクセルを踏みぬく。
中にいた私たちは一斉に車にしがみついた。
この車はオートマではない。私は前世で免許を取っていなかったから分からないが、先生は何やら技術を駆使して外国車と競争し始める。
先生!田舎のバンがベン◯に喧嘩売っちゃだめです!!
ベ◯ツは当然バンなんかに抜かされるものかと勝負にのる。
「ふふふ。のってきましたね。それがあなたの運のツキです!」
勝負を始めた先生は既にいつもののんびりのドジっ子ではなく、肉食系の戦闘モードに移行していた。
先生!!タイヤが出しちゃいけない音してます!メーターが制限速度を100キロオーバーしてる!!ここは高速じゃありません!一般道です!(捕まります!)
結局、バンは◯ンツを下した。
そして私たちにも託宣を下した。
車に乗った先生に逆らってはいけない。




