遊びの計画を立てよう
「「終わったぁ!」」
未羽と遊くんが私の現代文・古典・生物のあと、秋斗の英語、上林くんの数学と物理、こめちゃんの日本史と世界史、俊くんの化学を写して叫んだ。
「達成感!!!」
いやいやいや、ただ機械的にペンを動かすお仕事だったよね?
それでももう外は夕方になっていた。時間を忘れてやっていたらしい。
「1日終わっちゃったねぇ。」
「そうだね、楽しかったのに。」
残念そうなこめちゃんと俊くん。
「んじゃあさ、このメンツで今度遊びに行こうぜ!せっかく上林とも仲良くなったんだし!」
上林くんはそれを聞いて驚いたような顔をする。
「いいのか?」
「もちろん!じゃあ決まりだな!」
「ちょうどよく今週日曜日に花火大会がありますわよ?」
「でもその次の日早朝から生徒会の合宿に行かなきゃいけないからそれはきついかもー…。」
こめちゃんがしょんぼりする。
「花火大会って他の日にないの?」
「ありますわ。再来週の日曜日に。」
「夏休み最後の週だし、それ行かない?」
明美の提案にこめちゃんがぱあっと顔を明るくさせて「行く行く!」と言う。
「それは海月先輩と行くことになるかもね…。」
未羽が隣でぼそっと言ったセリフが聞こえたのは私だけだったからセーフ!
と、いうことはその花火大会は会長とのイベントなのか。
それは当然夢城さんも知っているわけだし、こめちゃんガードマンの私としては何が何でも行かなきゃいけない。
「ゆきは?」
秋斗が私に訊いてくる。
「行くよ。」
「…みんなと?」
そりゃあ、もちろんですとも。誰かと二人でなんて行くものか。
「うん!『みんなで』思い出作りたいよね!!」
「…うん、そうだね…。俺も行く。」
「逆に行けない人はいる?」
訊いても誰も手を挙げない。
「じゃ、決定だね!」
一番嬉しそうなのは意外にもこめちゃんではなかった。上林くんだ。静かにケータイに予定を入れてるけど、その顔は嬉しさを隠しきれずに綻んでいる。彼は交友関係も広いし、行こうと思ったら誰とでも行けるだろうに。あれかな、前に未羽が言ってた、周りに見せないけど、人に対してちょっと壁を作っている孤高の存在って設定かな。
夢城さんならここで何か言うんだろうけど、私は当然なーんにも突っ込みません!
「でも結構先だよねー。」
「僕たちは来週も生徒会の合宿で会うからいいけど、遊くんや明美さんや京子さん、未羽さんにはなかなか会えないね。」
「じゃあ今週の土曜日にでもみんなでショッピングでも行きませんこと?生徒会合宿の買い出しなんかもあるんでしょう?」
「それいいな!茶道部メンツでも完全プライベートで遊ぶのは初めてだよな!」
「楽しみ〜!」
飛び上がるこめちゃんがいちいち可愛い。
「じゃあ、隣の町のショッピングモールで買い物して、それからカラオケとか行かない?」
「それがベストだ!絶対そうしよう!」
力説する未羽。その顔には、
むふふふふ。新田くんと上林くんの生歌〜♡
と書いてあった。分かりやすい。きっと最新型の超高性能レコーダーを用意しておくんだろう。そしていくつもバックアップを取ってエンドレスリピートするんだろう。寝る前の子守唄とかにまで使っちゃうんだろう。
ぶるぶる。
そして噂の土曜日がやって来た。
「ゆき、用意出来たー?」
「ごめん、おまたせ。」
玄関まで迎えに来てくれている秋斗と連れ立って待ち合わせの駅まで向かう。
予定より少し遅くなってしまった。
女の子は準備に時間がかかるもんね☆と思ったそこのあなたはまだ甘い。
私は時間より早く用意を済ませていたのに、未羽から、『生歌生歌生歌(*/∀\*)イヤン』 『今日を永久再生したい♪~ ゛(´д`*)゛~♪~♪ 』以下略なラインが大量に来て、ケータイの充電が落ちたのだ。秋斗には絶対言えないけど。
「ゆきは今日も綺麗だね。」
私は紺色ストライプ模様のノースリーブのブラウスに薄い色のジーンズ生地の短パンで、上にカーディガンを羽織った上、白い華奢なミュールを履いてる。
でもってさりげなく口説くのはやめましょう。
「でも、足出しすぎ。」
真夏だからね、暑いんだよ。
「秋斗もオシャレしたんだね。」
「うん!久々に人と出かけるしね!」
秋斗の私服を見たことは過去に数え切れないくらいあるが、今日も七分のズボンがよく似合う、どこかのモデルさんみたいに決まってる。秋斗レベルのイケメンは全身ジャージだろうとシャツインジーパンであろうとカッコよく見えるのだから、ちゃんとオシャレしている今、町の女性方への破壊力はご想像にお任せします。
というわけで、駅に向かうときにも注目されることされること。
逆ナンを狙うお姉さま方に何度見られたことか。
攻略対象者様は学校外でもその威力を発揮されるようです。
秋斗は自分の容姿がいいことを知っていて、さりげなく私をお姉さま方の視線から隠してくれる。
そういう配慮が出来るところが余計に人気要素なんだろうな。
「お待たせー!」
到着すると、他のメンツはほとんど着いていた。遊くんは短パンでちょっと今風な格好、対して俊くんはシャツの上に長めのシャツを重ねた落ち着いた雰囲気。明美はミニスカートで対する京子は膝上程度の夏だと少し長めのスカートに麦わら帽子。こめちゃんはフリルがついたワンピースで、未羽は動きやすさ重視なのか下がパンツ、上はサマーニット。
みんな性格が出る服装で面白い。
「一緒に来たんだね〜。」
「お隣だからね。」
「あ、そっか。お隣さんで幼馴染なんだっけ。」
「うん。」
「こちらに来られる時は普通に彼氏彼女に見えましたわ。」
京子、なんてこと言ってくれるんだ!
「本当?!すっげー嬉しい。」
照れる秋斗。
うん、違うからね?見える、だからね?あれだよ、「痩せて見える=実際は痩せてないけどな」っていうのと同じ論理だからね?
「誰が彼氏彼女に見えるの?」
私の後ろから出てきたのは最後にやってきた上林くんだ。彼はズボンにポロシャツというラフな格好だったのだが、一つ一つの趣味がいいので正統派美形の名に相応しい格好だ。
未羽は二人の陰になる位置で、二人をガン見してる。「私服…もっとストーリー進まないと出てこない私服…写真撮りたい…」って、願望が口から溢れてるぞ!!
「俺と、ゆきだよ!」
「へぇ。見える、だろ?」
あ、同じポイントついた!
「相田、よく似合ってるけど、足出しすぎ。冷えるよ?」
あなたもですか!
実は秋斗と上林くんは一番気が合うんじゃないかと思うのは私だけじゃないはずだ。




